第8話 悪女

12月24日

家の近くのコンビニまで

理玖が迎えに来た


「行こうか?」


理玖は私の顔をみるなりニコリと笑って

手を握った


私は、昨日の事など

何もなかったような顔で

理玖の部屋へ行く


「飲み物とか

買っていこう」


私がそう言うと


「用意してるよ

何も買わなくていい」


そう言って

理玖の家へ向かった


理玖の家にはじめて上がる

誰もいない家

分かっているけど

緊張している

悪いことをしに来たみたい


「おじゃまします」


小さな声で言うと


「は~い」


理玖が応えた

にっこり笑って

理玖の部屋へ


ガチャッ


戸を開けると

理玖の部屋


シンプルだけど

男の子らしい色合いで

理玖らしく

サッカー選手のポスターが、壁に貼ってあり

ボールが飾ってある


「座って」


私はベッドの前に置かれた

クッションに座った


「あんまり

部屋に入れたことないから

二人目なんだよ

ここに来たの」


理玖は紙コップにジュースを入れて

私に渡す


「ありがとう」


聞かなくても

分かる

もう一人は…


「建人(真田の名前)は、幼稚園のころから

しょっちゅうここに来て

ダラダラしてる」


「そうなんだ」


「ひどい日は

帰らなかったりするからね

あいつ…

ま、そんな時は

親が連絡して

次の日、帰るんだけどね」


「仲がいいんだね」


「うん

俺たち

お互いに一人っ子だから

兄弟に憧れがあってさ

そう思ってるのかな…」


そんな話されると

真田の顔が浮かんで

昨日のこと

思い出してしまう

困る…


「あっ、これ

プレゼント」


私は、理玖にネックウォーマーをプレゼントした


「わ~ありがとう

おれ、こういうの欲しかったんだ

サッカーの時でもできそうだね

ありがとう」


素直に喜ぶ顔は

小さな子供みたいで

可愛い


「これ、俺から」


理玖は小さな紙袋を私に…


「ありがとう」


そう言って

私は、それを受けとると

丁寧に開けた

中には小さな箱

ゆっくりそれを開いた


ハートキーホルダー

二枚貝の様になっていて開くと


"リクはリンがすき"


と書いてある


思わず微笑む私


「ずっと持っててほしいから

これにした」


少し照れた笑顔

こんな顔見せて

キュンとなる


理玖は私の横にピタリと座り直して


「好きだよ…リン」


そう言って

私の首にかかった髪を後ろに撫でる

ぎこちなく

抱き締める


そして、ゆっくり顔が近づいて

私は、目を閉じた

理玖の唇が

優しく

触れた


少しだけ

目を開ける


理玖と目があって


理玖は照れくさそうに

少し離れて


私の髪を触って

また、抱き締めた


どのくらいだろう…

けっこう長い間

こうしていて


「理玖…」


呼び掛けると

理玖はそのままの状態で


「リン…柔らかい」


そう言って

もう少し強く私を抱き締めた


理玖の胸の辺りに顔を埋めて

私は、じんわり顔が熱くなるのを感じていた


理玖からは男の子の臭いがした


「ファーストキスだよね

俺たち…」


理玖は私の方を見て

そう言った


なにも言えなくて

ただ、

にこりと微笑んだ


理玖はもう一度

キスをして

私を抱き締めた


私のへんじ(微笑み)をどう思ったかは

分からない


もしも、綺麗に嘘が成立していたのなら

私は悪い女だ






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る