第138話 覚醒の時は今! 触手少年爆誕!!

 昼下がりの公園に突然現れたカエルの姿をした怪人と全身黒タイツたち。それは、公園にいる人々を混乱に陥れた。


「……ニゲロ」

「ク、クマさん!」


 イリスさんの指示に従い、傍にいた子供たちに声をかけ、公園の外に誘導していく。

 慌てて転ぶ子もいたが、その子たちを直ぐに抱えて安全な場所まで運び込んだ。

 公園から子供たちを避難させていると、続々と子供たちの親と思しき女性や男性が駆け寄って来る。


 ここはもう大丈夫だろう。

 そう思った時、公園の方で大きな音が鳴り響く。


「イリスお姉ちゃん大丈夫かな……」


 傍にいるちびっ子の一人がポツリと呟いた。

 辺りを見回してみるが、イリスさんの姿が見えない。まだ公園に残っている可能性が高そうだ。

 イリスさんはイヴィルダークでもトップクラスの実力者だから、大丈夫だとは思う。だが、俺をこんな体にした蛇男はイリスさんの暗殺計画を練っていた。それを考えると、一人にするのは良くないだろう。


 もう一度周囲を確認し、全身黒タイツがいないことを確認する。

 ちびっ子たちも続々と親たちと合流できているようだし、大丈夫だろう。


 ちびっ子たちに背を向けて、俺は一人公園へと走り出した。



******



 公園に辿り着いた俺の視界に入ってきたのは、向かってくる全身黒タイツをものともせずに、カエル男に悠然と近づいていく黄色い戦士――星川明里の姿だった。


「あっくんは……どこ?」

「くっ! ひ、怯むな!! 敵は一人だ! 大人数で囲めば俺たちの方が有利だ!」

「「「ア、アイー!!」」」


 ゆらゆらと不気味な動きで一歩ずつカエル男に近づく星川。

 その星川をカエル男の部下である下っ端たちが囲む。囲まれれば不利になることは明らかだ。それにも関わらず、星川はそんなこと関係ないとばかりにカエル男へと足を進めていく。


「バカめ! 囲めばこっちのものだ! 行け、下っ端共!!」

「「「アイー!!」」」


 一斉に星川に飛び掛かる下っ端たち。

 その数、十はあるだろう。


 危ない!!


 思わず声が出かけた次の瞬間、星川の身体が宙に浮いたかと思えば下っ端たちの身体が吹き飛んでいた。


 …………は?

「…………は?」


 カエル男と俺の声が重なる。


『ふむ。回し蹴りで後ろから飛び掛かる下っ端たちを蹴り飛ばし、その後にブレイクダンスの様に手を地面に付けてもう半回転しながら、前方から飛び掛かる下っ端たちを蹴り飛ばしたってところだね。僕のオクトパス・アイじゃなきゃ見逃しちゃうところだったよ』


 ……え? 何それ?


『驚異的なのはそのスピードだろうね。見たところあのカエル男も何が起きたか分かってないみたいだったし、とてもじゃないけど人間技とは思えないよ』


 お、俺の愛しの星川に何があったんだよ!


「あっくん……どこなの?」


 星川の声が公園に響く。星川は自分が吹き飛ばした下っ端たちには目もくれず、カエル男に近づきながらそう問いかけていた。


「あ、あっくん……? し、知るかそんなやつ!」

「知らない……? あなたたちが連れ去った癖に……知らない?」

「ひ、ひいっ!」


 光の無い目でカエル男を睨みつける星川。その背からは、どす黒いオーラのようなものが見えていた。


 な、なあタコ……。俺の目が間違いじゃなければ、星川から正義の味方とは思えない嫌な雰囲気が出てるんだが……。


『奇遇だね。僕のオクトパス・アイもそれを捉えてるよ』


「く、くそったれがあああ!!」


 星川に怯えた表情を見せていたカエル男だったが、覚悟を決めたのか星川に向けて舌を飛ばす。

 だが、星川はその舌を半身になって躱し、そのまま舌を掴んだ。


「ひぎゃっ!?」


 そして、舌を引っ張りカエル男を地面に叩きつける。

 そのままカエル男に跨ると、可愛らしいステッキをカエル男の口の中に突きつける。


「あっくんは私の大切な人。あなたたちが連れてって、タコのような姿に変えた男の子。あなたたちのせいで私とあっくんが離れ離れになったのに、あっくんを知らない?」

「ひぃぃ……」

「ふざけないで……ふざけないでよ!! ねえ、分かる? 私は直ぐにでもあなたを倒すことが出来る。あなたの思いも願いも全てここで終わらせることが出来るんだよ?」

「……ふ、ふるひへふれ」


 カエル男の目には涙が浮かんでいた。

 いや、あれはカエル男じゃなくても恐怖だろう。いくら俺のためとはいえあれはやり過ぎな気がする。


『いや、待つんだ』


 星川の前に姿を表そう。そう思ったところでタコに止められる。


 何で止めるんだよ。


『あれを見るんだ』


 タコの言う通り、星川に再び視線を向ける。いつの間にか星川の背後に痴女モードになったイリスさんの姿があった。


「そこまでよ」

「あなたは……?」


 味方であるカエル男を助けるためか、それとも他に何か理由があるのか、イリスさんは星川を冷静に見つめて話しかける。


「イ、イリス……!」

「ゲロリン、さっさと逃げなさい」

「くっ……お前に借りを作るのは癪だが、ここはそうさせてもらう」


 そう言うとカエル男は公園から逃げていく。その姿を見た星川は直ぐにカエル男を追いかけようとした。

 だが、イリスさんが放った一言が星川の足を止める。


「あなたのいうあっくんかどうかは知らないけれど、タコの怪人なら知っている――くっ!?」


 イリスさんが言い終わる前に星川はイリスさんに襲い掛かる。だが、間一髪でイリスさんは星川の攻撃を防いだ。


「あっくんはどこ?」

「その質問は攻撃をする前にして欲しかったわね」


 イリスさんの言う通りだ。いつの間に星川はとりあえず拳で語り合おうというような熱い人になってしまったのだろう。


「あっくんは……どこっ!?」

「くっ!」


 イリスさんに飛び掛かる星川。迫りくる星川の猛攻を必死に凌ぐイリスさんだったが、明らかに押されていた。

 手に汗握る攻防を繰り広げていた二人だったが、その戦いは唐突に終わりを告げた。


「きゃっ」


 イリスさんの体勢が崩れた一瞬の隙を星川は見逃さず、イリスさんの足を払う。

 そのまま地面に尻もちをついたイリスさんに星川がステッキを突きつける。


「あっくんはどこ?」

「くっ……! あなたが彼とどういう関係かは知らないけど、少なくとも今のあなたに預けることなんて出来ないわ」

「……そう。なら、無理にでもその口を割らせるしかないね」


 冷たい声だった。

 その言葉と供に星川の持つステッキの先端に強い光が集まっていく。


 よく分からんが、とりあえずあれはやばい!

 それに、これ以上星川のあんな姿は見たくない! タコ、行くぞ!


『OK、相棒。任せてくれ。触手の素晴らしさを、盲目になってしまった彼女に叩きつけようじゃないか』


 違う! けど、やるぞ!


 触手を使って着ぐるみを弾き飛ばし、星川のもとへ走り出す。ステッキの先端には既にかなりの量の光が集まっていた。


「キエエエエ!!」


 奇声を上げながら、星川の四肢目掛けて触手を放つ。

 意識がイリスさんに集中していたせいか、星川は触手を躱すことが出来なかったようだった。


「こ、この触手は……あっくん!?」


 何で分かるんだよ。


 触手に捕まれた星川が喜色を表情に浮かべ振り向く。


「あぁ……あっくん。あっくんだ。よかった、無事だったんだね。大丈夫だよ。今度こそ私が助け出して見せるからね」


 光の無い目で俺に捲し立てる星川。触手で拘束しているにも関わらず、その力は凄まじく、依然としてイリスさんにステッキは向けられたままだった。


「逃げなさいタッコン! この子は正気を失っているわ!」


 星川の狂気に気付いたのだろうイリスさんが必死に俺に声をかける。そんなイリスさんにぐるんっと星川が顔を向けて光の無い目を向ける。


「……なに? あなたも私とあっくんの仲を切り裂こうとするの? なら、消さなきゃ」


 怖い怖い怖い!

 星川、怖いって!!


 よく見ると星川の目には隈が出来ていた。


 そうか! 分かったぞ! 星川は疲れているんだ! 疲れているからテンションがおかしくなってしまったに違いない!


『それだけとは思えないけど……』


 いいや、そうだね! そうと決まれば、やることは一つだ。

 丁度良く今の俺には男だろうと女だろうと一瞬で癒す最強の触手がある。


『お! やる気だね!』


 おう。やってやるぜ! 行くぞタコ野郎!!


『ひゃっはー! 美少女だぜえええ!!』



******



 悪道善喜がいなくなってからの星川明里は周りが見ていられないほど変わっていった。

 友達付き合いも、家族と話す時間も減り、空いている時間は全て悪道を探す日々。その表情はいつも追い詰められており、以前のような明るさは日に日に消えていった。

 そして、およそ一週間ぶりに星川は悪道と再会した。

 何故か悪道は自分を拘束しているが、それはイヴィルダークに洗脳されてしまったからだと星川は思い込んでいた。

 目の前にいる自分と悪道を引き離そうとしている女を倒し、悪道を連れ戻す。

 そして、元通りの生活を取り戻す。


 その思いを胸に、星川は目の前の女性に突き出したステッキに力を込める。


「ひゃあっ!?」


 突然、触手が星川のお腹を撫でた。ひんやりとした不思議な感覚に星川は思わずステッキを落としかける。

 慌ててステッキを拾い直して、星川はタッコンを睨みつけた。


「あ、あっくん! 邪魔しないで!」

「……ダメダ」

「何でよ……。そいつらのせいであっくんと私は離れ離れになっちゃったんだ――あんっ!」


 それ以上は言わせないとばかりに、触手が星川の身体に絡みついて行く。

 お腹、太もも、二の腕、首回り。

 碌に休みも取らず悪道を探し続けたことで、疲労が溜まっていた星川の肉体を優しく触手がもみほぐす。


「んっ……! あっ……だ、だめ……今はダメなのっ!」


 イリス、タマモという二人の美少女さえ陥落させた触手。だが、星川は耐えきった。

 頬を上気させながらも悪道を軽く睨みつけ、触手を弾き飛ばす。

 悪道を助けるまでは快楽に屈したりはしない。

 星川の目には強い意志が宿っていた。


「……オモシロイ」


 だが、その星川の覚悟はタッコンのやる気に火を点けた。

 星川を癒すという悪道の思いと美少女を触手の力で陥落させるというタコの思いが交わり、それらに呼応するようにタッコンの姿が変わっていく。


「タ、タッコン……あなた……」

「あ、あっくん……?」


 イリスと星川の不安げな声が混ざり合う。

 触手一本一本には血管が浮き上がり、その太さは成人男性の二の腕くらいにまで成長していた。更に、その先端は一本一本が人の小指と同じくらいの細さの触手に枝分かれしていた。

 枝分かれした触手の先から粘液がタラリと零れ落ちる。

 一瞬で人間の全身をリラックスさせる効果をもった劇薬だ。

 そして、一番の変化はタッコンの全身にあった。


 タコと人が混ざり合った怪人はもういない。そこにいたのは一人の人間だった。

 頭にはタコの被りもの、全身は赤を基調とした肉肉しい触手で包まれていた。


「君のハートをねっとりキャッチ! 触手少年タッコンただ今参上!!」



***********


人とタコ。

星川を触手まみれにするという思いが異なる種族の1人と1匹を繋ぎ、奇跡を起こす。


次回、触手少年タッコン!

「俺様の触手に酔いな!」


来週もねっとりグッチョリ楽しんでくれよな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る