現代世界に転生したら阪神タイガースに入団した件

坂田火魯志

第零話

              第零話  入団まで

 大坂の陣が終わり拙者は息子大助と拙者に終生忠義と友情を誓ってくれた十勇士達と共に右大臣様をお連れして何とか薩摩まで逃げ延びた。

 薩摩の島津殿は拙者達を迎えてくれて匿ってくれた、その後拙者は右大臣にお仕えしつつ薩摩で余生を過ごした。

 十勇士達と共に静かに暮らした、色々と無念なことはあったがそれでも右大臣様をお助け出来てよかったと常に思っていた。右大臣様のご子息様は木下家に匿われたことも聞いて尚更よいことだと思った。

 その大坂の陣が終わり十数年経った時拙者は天寿を全うした。右大臣様に大助、十勇士達、それに島津殿まで密かに来てくれて拙者は大往生を遂げることが出来た。

 まさかこうして床の上で死ねるとは思わなかった、戦の場で死ぬとばかり思っていた、それが武士の死に方でありそれこそが本懐だと考えていた。それでもこうした死に方も悪くないと思った。死ねば後は当家の家紋に従い地獄の沙汰も銭次第、六道のどの道に生まれ変わっても真田家の者としてしぶとく力尽きるまでそれこそ地獄の沙汰を変える様なことまでして戦っていこうと誓った。そう思いつつ拙者は絆のある人達に見守られつつ世を去った。筈だった。

 だが死んだ拙者の前に憤怒の形相をし背中に紅蓮の炎を背負った右手に剣を持った方が出て来られた。拙者はその方が誰であるかすぐにわかった。

「不動尊でござるか」

「左様、真田源次郎お主のことはずっと見ておった」

 不動尊は拙者に強い声で答えてくれた。

「これまでの戦いぶり実に見事であった」

「そう言って下さいますか」

「その見事な戦いぶりに免じ再び人道で生きることを許した」

「人道ですか」

「お主は再び日の本の国に生まれる。だがその時代は戦国の世ではない」

 不動尊は拙者にこう言われた。

「戦国の世からおよそ四百年あまり先、天下は泰平で民は皆野球というものに夢中になっておる」

「野球、それは一体何でしょうか」

 そう聞いてもわからなかった、野の球というと何であろうか。野というと外であろうか。そして球というと丸いものである。外で丸いものを使う、拙者は蹴鞠かと思ったが蹴鞠を外でしても別におかしくはなかろうと考えた。

 だが不動尊はそんな拙者の頭の中に直接野球とは何であるかその知識まで授けられた。そのうえで拙者にこう言われた。

「わかったな」

「はい、確かに」

 拙者は不動尊に強い声で頷いて答えた。

「わかり申した」

「ルールもポジションも球種も何もかもだな」

「わかり申した」

 再び強い声で頷いて答えた。

「このことも」

「ならばよい、後の世に生まれ変わってもだ」 

 それでもとだ、不動尊は拙者に言われた。

「野球に励むがよい、よいな」

「そうさせて頂きます」

「では生まれ変わるのだ、新たな時代に」

 不動尊はその目をかっと見開かれて拙者に言われた、すると拙者の身体は紅蓮の炎に包まれた。それは全ての魔を浄化する不動尊の炎だった。

 その炎に包まれた拙者に不動尊は言われた。

「これは我が魔を降す浄化の炎、その炎の力をお主に授ける」

「そうして頂けるのですか」

「この力は野球にも使える、類稀なる野球の才と悪を憎み滅ぼす心をお主に授けた」

「悪を憎み滅ぼす」

「野球を通じて多くの強者と勝負を競い悪を滅せよ」

 不動尊は炎に包まれその力を受ける拙者に言われた。

「それが後の世のお主のすべきことだ」

「だからこそ生まれ変わるのですね」

「左様、では行くのだ」

 最後にこう言われた、そして。

 拙者は戦国の世から四百年後の日の本の国に生まれ変わった、生まれ変わった地は生まれ故郷である上田の地だった。父上と母上は普通の方々であられ拙者は一人っ子であった。これが拙者の新たな一生のはじまりであった。



第零話   完



               2021・4・6

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る