Episode34

 ドラゴンの出現場所を報告するとともに査定額を載せた表を掲載してもよいか、それから聞いておきたいことをリストアップして封筒に入れる。


 これをボックスに出して届けてもらってもいいけれど、幸運なことにディルが建っているここは中枢都市内だ。すこし時間を要せばギルド管理局に着くことができる。


 昼の休憩時間まで待ち、ミルに報告書を渡しに行くと伝えた。


「2日目から私ひとりでここを任せられるとは思っていませんでしたけど、そう言うことなら仕方ありませんね。査定の基本は私も学んでいますから安心してください」


 さすがはミルだ。秀才だと2年もの付き合いを経て感じていた。


 魔法学校を卒業していることもそうだけど、王家として生まれたゆえの教育の賜物だろう。


「最初からなにも不安なんてないよ。それじゃあ、お願いね」



 ◇◇◇◇◇◇



 休憩時間。


 今日も始業から4時間で4人と、昨日に比べればマシなほうだけど酷い査定率だ。

 一応ミルの経験の為、ひとりを担当してもらった。


「やっぱり問題なかったね」


「後ろに人が待っていないことで余裕を持って対応できるからですよ。良いことではありませんけど」


「そうだね。その改善のためにも管理局に行ってくるよ」


「はい。いってらっしゃい」


 査定室から出て職員たちに見送られ、管理局に向かう。ここから徒歩で20分ほど。


 田舎育ちの僕にとって、ここの光景にはまだ慣れない。向かう間、右に左にと目をウロウロさせてその風貌を楽しんだ。


「ここだね」


 そうしている間に見えた赤い建物。ディルより何倍も大きく、威厳を持って構えている。


 いざやってくると緊張するな。


 警備員に声を掛け、ディルのギルド長であることを話す。


 本人証明のために生年月日などの確認が必要になるはずなのに、どうやら僕には特別な加護がついているらしい。ヒースと伝えただけで全てをクリアできた。


 それに畏まって対応されると、慣れていないこっちもすこし困る。


「では、あちらの受付にてご用件をお話しください」


「丁寧にありがとう」


 最後に頭を下げ軽微に戻る彼はきっと良い職員なのだろう。さすがは管理局配属なだけある。


 ああいう心持ちの人がディルにももっといてくれたらいいんだけど。


 ただ、そんなことよりこの封筒だ。言われた通り、受付のお姉さんの元に歩き出す。茶髪長髪と赤髪ショートヘアの雰囲気の異なるふたり。


 どちらも空いている今、僕の好みである大人しく静かに仕事をこなしそうな茶髪のお姉さんの方に話そう。


「すみません、警備員の方にこちらに用件を伝えるよう言われたのですが」


「はい、こちらでお伺いさせて頂きます。ご連絡は事前になされていましたか?」


「いえ」


「それではお名前と、どなたにお会いなさりたいのか、ご用件の簡単な内容をこちらにお書きください」


 ペンと紙を渡された。


 お堅い場所のこういうのって書き間違いもしちゃダメな空気感があって苦手なんだよね。目の前にいるふたりからの視線も気になるし。


 宮殿で過ごした経験が無ければ緊張で手が震えていたかも。


「これでお願いします」


 ヒース、ヘニー・ハントゥ、ギルド報告書の提出と相談と書き、お姉さんに渡す。


「局長へのご用件ですね。スケジュールを確認して参りますが、その前に、間違いのないようフルネームを教えて頂いても?」


 どうやらこちらにまでは僕の名は通っていないらしい。まあ、実際ヒース家なんて聞いたことがないもの。不審者かどうか判断する以上、気にするのは仕方ない。


「あー、それで伝えてもらえれば通じると思いますよ」


 こう言うほかない。ライオネスあんんて王家の名をばらすわけにはいかないし、適当に話して不審者扱いを受けるわけにもいかない。


「ディルというギルドのギルド長を任されておりまして、そちらの情報を確かめて頂ければと」


 訝しいという思いが見て取れる視線だ。


 でも、僕はそれ以外言えることがないんだよね。


「すみません、ヌエラさん、ちょっとこれを」


 ひとりで対応しきれないと判断されたみたいだ。赤髪のお姉さん改めヌエラさんに紙を見せた。


 そしてそれを確認した瞬間、彼女の目がすぐにこちらを捉えた。


「も、申し訳ございません!」


 あまりの早さで立ち上がり、頭を下げてくる。


 僕もさっきまで対応してくれていた彼女もびっくりだ。


 ここまでの反応を見せられると、僕がどんなふうに伝わっているのか気になるなぁ。


「この子、昨日こちらに配属されたばかりでして、言い訳にすぎませんがまだ完璧に把握しきれていなくてですね」


「はは、全然大丈夫ですよ。僕も昨日就任したばかりですから。ミスが起きてしまうのはよくわかりますし」


「お気遣い感謝します。では、ご案内いたしますのでどうぞこちらに」


 この間、ずっと何が起きているのか理解が及ばない様子でいた茶髪のお姉さんが、僕らが移動しようとしたところでハッとして立ち上がり、謝罪の言葉と共に頭を下げた。


「気になさらないでください。それでは、ヌエラさん、お願いします」


 こんな状況で名前を覚えられるなんてとんでもない恐怖だろうが、彼女は冷静に3階にある局長室まで案内してくれた。

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