Chapter3
Episode19
二階には僕の主な職場となる査定室、そこと扉ひとつで繋がっているギルド長室。他には職員たちの控室がある。
階段を上ってすぐの査定室のなかに入る。
なかの様子は映像を写生して記憶することができる魔法によって幾度か見た。実際に見て奥行きの雰囲気とか陽の入り方とか、新たに発見できることもある。
「香りがないね。前任が辞めてからしっかりと綺麗にしてくれたみたいだ」
「施設自体新しいですし、そういった意識が浸透しているのは救いでしょうね。勉強のために多くのギルドを見学してきましたが、下位のギルドの多くが人を寄せ付けないオーラを纏っていましたから。外装は剥げ、なかは暗く虫がいたり受付の方々の態度が悪かったり、廃れていく過程の教科書として最適でしたよ」
「ハハッ、それは良かった。先に失敗の形を知っておくことでそのレールに乗り上げてしまったとき、早く気付ける可能性が高くなるからね。良かったら今度僕にも紹介してくれ」
ミルと話していると緊張も解れてくる。
始業まであとすこし。
必要な道具や資料を用意し、デスクの引き出しに仕舞う。場所の確認も完璧だ。
「そういえば、昨日話した二人は今日出勤しているのかな。名札がないからまだはっきりとわからなくて」
「さっき外にいる私たちに気付かれた方がウォードマンさんです。ディエドスタさんもいらっしゃいますよ。話していた通り、後に話があると伝えておきましょうか?」
さてどうしたものか。早く改善するに越したことはないし、僕なら実践のない査定との並行もできる自信があるし、すぐに取り掛かりたい。
でも、その二人からの僕の印象は±0だ。いや、急に実績のない上にパートナー連れとなればなにか裏があると怪しまれていてもおかしくはないだろう。
「そこにもう一人、今日入っている受付の子と合わせて呼んでおいて欲しい。勘付かれないためにもね。理由はあくまでギルド内の把握でお願い」
「わかりました。せっかくの休憩時間を奪うのもなんでしょうから、今のうちに話しておきます。業務終了後に残ってもらいましょう」
今の社会、こういったギルド内の職員たちの仲が良い必要性というのは疑問視されている。特に上司と部下の関係性は。
そこに時間を割くという行為に不満を抱かれることも懸念すべきだろうけど、この一回はこれからに関わってくる重要事項だ。多少の反感を買おうが成し遂げる。
そうして、無事伝え終えたミルが査定室に戻ってきたところでベルが鳴った。
始業の合図だ。
窓から覗けば早くも5人ほど冒険者が入っている。やる気のある冒険者も所属しているみたいだな。
ジー……ジー……。
「初仕事が入ったみたいだね」
受付がボタンを押せば、ここに設置されているランプが光る。ちなみに5個まで光らせることができ、僕の机に置かれているボタンを押すことで手前側からリセットされるようになっているらしい。
順番は色で判断できる仕組みだ。
階段を上る足音。それが扉の前で止まり、ノックされる。
「どうぞ、お入りください」
僕の初めてのお客様は麻の小袋を腰に掛けた若い男性だ。
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