勇者を剥奪された僕は最愛の姪っ子と復讐を誓う

木種

Prologue 勇者になりたかった

Prolouge1

 この世界で何よりも華やかとされ、羨望の眼差しを受ける職業は何か。


 それは勇者だ。


 騎士よりも秀抜な剣術を有し、模範となる心で民の愛を一身に受ける存在。


 50年に一人誕生するかもわからないと言われている、全キャリアの頂点に位置するその称号に、憧れを抱く僕は手を掛けていた。


「どうぞ、こちらへ」


 冒険者育成学校を首席で卒業した翌日、自宅まで馬車と共に迎えに来たのは王族秘書のリリアさんだ。在籍中に直接お話する機会はなかったけど、顔は幾度も拝見している。


 田舎の村には不釣り合いなキチッとしたスーツ姿で、茶髪を後ろでまとめた身なり。


 さすがは王族関係者というべきか、その容姿は美しい。


「失礼します」


 黒の屋型に乗り込む。


 商人用の質素なものしか経験がない僕にとっては席の柔らかさや人目であったり外の飛沫物であったりを防ぐためのカーテンなど、個々の贅沢さに驚かされる。


「ルーちゃん、ちゃんと体調には気を付けてね!」

「国王様にご無礼のないようにな。もちろん、こちらのリリアさんにもだ」


 見送りに来てくれた両親がまるで別れの挨拶かのように言ってくる。


 本当に子煩悩というか、親バカというか。

 でもそのおかげで一人息子だけど、3代も続いている武器商人の跡継ぎを小さい頃から強制されずにのびのび生きてこれた。


 感謝してもしきれない。相思相愛なふたりだ。


「父さん、母さん、ありがとう。どんなランクを授けられるかは分からないけど、努力の結果を信じて行ってくるから待っててね」


 冒険者育成学校の卒業生は今日から一週間ほどかけてランクを授けられる。


 大抵、というか、首席の人間以外は各自が選んだ所属ギルドから冒険職のランク通知書が届くと先生に教わった。


 下からルーキー、D、C、B、A、Sの6つで構成されているシステムで、卒業生が初めからアルファベットを貰うだけで優秀とされる。


 ちなみにルーキーの称号は2年目まで有効とされていて、それまでにDランクに上がるためのギルドポイントを貯められなかった冒険者は資格を剥奪される。


 毎年卒業生がいて、凡そ150人くらいが加わるとなればギルドの管理も難しい。そのための措置だ。


 それにギルドポイントを貯めるための依頼の多くはモンスター討伐で、場合によっては命の危険がある。だから、職に適正があるかどうかを見極め、無意味な死を生まないためにもこの制度は必要だと僕は思う。


「こんな辺境の村から冒険者どころか、首席卒業生が誕生するなんて誇りだよ、ルーザー」


両親の横に並ぶ村長からも言葉を頂けた。


「僕一人の力じゃありませんから。ヴァンヘルムさんがいろいろと手助けしてくださったおかげです」


 高いところから話すことに申し訳ない気持ちはあるものの、それを許してくれるくらい仲が良い人だ。


 僕が小さい頃から、父さんがいないときには剣技の特訓に付き合ってくれていた。


 そのときに筋がいいと褒められたのが好奇心旺盛でありながら飽き性だった僕が特訓を積み重ねられた要因のひとつだ。冒険者育成学校に推薦してくれたのもヴァンヘルムさんで、本当にお世話になった。


「当然のことをしたまでだよ」


 それでも謙虚な佇まいでいる村長を人として尊敬している。時に、村の集会で毅然とした態度でいるときには上に立つ人間として、参考にしている。


 そんな人に前向きに見送ってもらえるのが嬉しい。


 自然と笑みがこぼれる。


「ルーザーさん、そろそろ」


 リリアさんに催促されてしまう。


 腕時計を見て、どうやら時間に余裕がないみたいだ。


「すみません。それじゃあ、皆、いってきます!」


 力強く手を振り、笑顔で故郷エリエスタから出発する。


「勇者」


 その称号を与えられ、ここに帰ってくると信じて。

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