第5話 覚醒! リミッター解除
術の発動と同時に、目の前から師匠は消えた。
(……!? 何、これは……一歩踏み込んだだけで、気付けばマンティコアのすぐ側に……そして私以外の全てがスローモーションに動いて……! これは……時間を置き去りにするほどの速さまで強化されている……! ……既存の補助魔法の領域を完全に超えているわ。私は、どうやら……とんでもない子を弟子にしてしまったようね……)
瞬きをする間も無く、勝敗は決まった……いや、決まっていた。本のページを捲ったかの如く場面が飛び……目の前には細切れにされたマンティコアと、立ち尽くす師匠が現れていた。術の発動から1秒も経っていないというのに……!
「お、終わったんですか……? 何が起きたか分かりませんでしたが……」
「そう。アライ君の魔法で、超スピードを得た私が斬り刻んだの。斬られたマンティコアでさえ死んだ事に気付かない程の速さでね。見て、心臓は……まだ動いているみたいよ」
ほ、本当だ……師匠が残骸から拾い上げた心臓はドクドクと脈打っている……!
「これなら使えそうね……【生命転換:ポーション】」
師匠は手に持った心臓を赤いポーションへと変化させた。
「さ、アライ君。
「あ、ありがとうございます!」
ほんの一口だけ飲むと、傷が全て消え去った。残りを師匠に渡し……互いに傷が完治した。この性能効果……店売りのポーションならば、きっと10万近くする代物だ。それを一瞬で作り出す師匠は本当に凄い人だ。
「ふ〜……無事に済んで良かったわね。それに特訓の成果も見られて何よりだわ」
僕も同じ気持ちで、ホッと胸を撫で下ろす。そうしていると、師匠は僕の頭に優しく手を置いた。
「そして、おめでとうアライ君。キミは、己のリミッターを解除して……この世界の〝
「〝
「ただし……今の補助魔法は私だから受け止める事が出来たけど……仮にアライ君が受け手であれば、おそらく耐え切れず自壊していたわ。魔力のコントロールが更に上達するまでは生半可な相手に全解放は使わない事。守れるかしら?」
「ま、守ります! 絶対に!」
「なら良し! じゃ、いよいよ下山しましょうか」
♦︎
僕達は、無事下山……気持ちの良い風がそよぐ街道へと出る。
「ふぅ〜……! やっと山を抜けたわねぇ。アライ君、特訓お疲れ様っ! 頑張ったからスペシャルな『ご褒美』あげるわね……」
「は、はいっ!」
艶かしい師匠の手が近づいてくる……! い、一体どんな『ご褒美』なんだっ!?
プツン。
「いてっ!」
師匠は僕の髪の毛を1本抜いた……な、何故……。な、なんだか想像してた『ご褒美』とは違いそうだ。
「ゴメンね、痛かった? ご褒美にはアライ君の
遺伝子情報って何だろう……?と考えている間に、抜いた髪の毛が瞬時に羊皮紙のスクロールに変化していた。これって、もしかして……。
「そのスクロールに、僕の
「ご名答♪ さ、読んでみて」
自分のステータスメニューを得るには、それを精製させる『レアスキル』を持つ大司教に大金を払う必要がある……そんなレアスキルまで持ってるなんて、師匠は一体何者……?
と、とりあえず受け取ったスクロールを読んでみるか。
―――――――――――――――――――――
魔力 50→500
先天性スキル【魔術素養】→【補助の探究者】へ変化。
【補助の探究者】<レベル1>
補助魔法の消費魔力、20パーセント軽減。
補助魔法の効果 20パーセント上昇。
補助魔法の効果時間 20パーセント延長。
―――――――――――――――――――――
親切な事に、養成所卒業時に開示されたステータスからの比較が記してある。……魔力系能力が以前と比べて10倍に!?凄い成長だ……!
師匠の教えによれば、大元の魔力が高ければ術の性能が上がる他に、魔法適用範囲が広がって新たな術を習得しやすくなるメリットもあるらしい。
さらに先天性スキルまで進化して特殊効果が付与されてる……<レベル1>って事は、まだ成長するのか……なんだかワクワクしてきた。
「どう? 数値で見ると、成長を実感できて楽しいでしょ♪」
「はい! 頑張った甲斐がありました!」
「うんうん♪ それはあげるから、今後も定期的に見てね。そうすれば振り返る事での反省や、やりがいが生まれてドンドン向上していくハズよっ。 それと、もうひとつ……これをあげるわ」
師匠は片手で持てるサイズのバッグを渡してくれた。
「師匠、これは?」
「この5日間で集まったモンスターの素材が入ったバッグよっ。 中は【空間拡張】スキルで馬車1台分の容量にしてあるから色々と重宝するはず。 ……ご褒美は以上っ! 師匠からの餞別として大事にしてね」
「ありがとうございます! あの、師匠……一体スキルいくつ持っているんですか……」
「いっぱい♡」
いっぱいって……。この世界に生まれし者は先天性スキルを1つ持って産まれる。その後、後天性スキルとして2つ目を得る者が全体の約半数、更に3つ目ともなれば全体の1割にも満たない、希少な選ばれし者と言われているのけど……。
師匠は既に6つ以上は使ってる……。
「……師匠は本当に凄いです。凄すぎます、規格外です。……そんな人に特訓してもらった事を、僕は誇りに思います」
「ありがとう、アライ君。私もキミのような才能溢れる若者を導けて鼻が高いわっ♪ ……じゃ、元気でね。これからも精進するのよ」
聖母のような優しい微笑みで別れを告げる師匠。僕は……。
「……僕っ、このまま師匠と一緒に旅を……っ!」
と、僕が懇願を言い終える前に師匠は人差し指で僕の口を、そっと塞ぐ。
「ウフフ……。ダメよ……アライ君に人妻との2人旅は、まだ早いわ……刺激が強すぎるもの」
師匠のセクシーな吐息で、心臓の鼓動がドクドクと高鳴る……!大人の魅力にタジタジだ……。
「それにね、私がいるとアライ君の成長を妨げてしまうわ。……大丈夫。キミが順調にレベルアップしていけば、また会えるはずよ。きっとね……」
そう言って、師匠は背中を見せ……僕から離れていく….。
僕は最後に、ひとつだけ……聞いておきたい事を叫んだ。
「師匠! 貴方は一体、何者なんですかっ!?」
師匠は振り返り、笑顔で答えた。
「私はね……大魔王よ♡」
…………え?
予想外の返答に僕は呆然とした。そして師匠は再び背中を向け、鼻歌交じりで悠然と歩いていったのであった……。
……じ、冗談だよな……? ははは……まったく……師匠は、お茶目なんだから……。
……とりあえず、これからどうしよう。王都へ戻るか、それとも……。
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