第3話 バスおめ! ナイチンゲール様
入学式が終わって、次の日はお休み。
はて?
実は、入学式は土曜日だったので。
入学式に参列されたご
地域のお医者さんが、患者さんに迷惑をかけずに入学式に参列するためには、比較的休みの多い土曜日の午後が望ましい、と言うわけで。
(
で、月曜日。
入学式後、初登校となるこの日、夢歌さんは、ちょっとどころでなく緊張していた。
入学式を迎えた時とは、別のドキドキ。
なぜならば。
夢歌さんのカバンには、福澤諭吉さんが(つまり万札ね)が10枚入った封筒が、入っていたから。
決して
今まで手にした現金は、今年のお正月にもらったお年玉を全部集めてマックス6万3千円。
それも大半が千円札や五千円がほとんどで、高校卒業祝いを兼ねて、と色を付けてくれたおばあちゃんが真新しい諭吉さんを2枚くれたのが、万札所持の最高枚数。
部活が忙しくて(夢歌さんは吹奏楽部でクラリネットを吹いていた)アルバイトもしたことがなかったので、高額の金銭には不慣れだったりする。
(入学金とか前期授業料とかも、実は3、40万円くらいかかってるんだけど、それは親が銀行振込してくれたので、夢歌さんイマイチ実感がない)
今日持ってきた10万円は、今年1年間使う教科書代。正確には10万とんで3860円。
そもそも教科書代が10万円と聞いた時は、のけぞってしまった夢歌さん。
その理由は、登校してすぐわかった。
教室に入って、まず目に入ったのは……机の上のダンボール箱。
ミカン箱くらいある大きな箱が、一つずつ、全員の机の上に乗っていた。
中身は、教科書。
教室の一番前に机を出して、事務の人が集金していた。お金と引き換えに領収書をもらうのだそうだ。
「どうしよう! 忘れてきた!」
と悲鳴を上げている子もいて、事務の人に注意されていた。そして「明日必ず持ってくるように」と約束させられていた。
ほっ、忘れなくてよかった。
でも、注意されただけで教科書は先にもらえるらしく、忘れてきた子も教科書の箱を開けて見ていたけど。
もちろん夢歌さんもオープン!
分厚い「
早速中身も
おまけに。
教科書の裏表紙には、値段が書いてあって。
3900円!?
4280円!?
2、3冊で諭吉さんが飛んで行ってしまう……。
(良く見たら2000円くらいの教科書もあったけど、やっぱり高い)
今まで
スミマセン! お父さんお母さん!
何も言わずにお金を払ってくれてありがとう!
いつかきっと親孝行するからね!
と、心の中で手を合わせた夢歌さん。
高ーい教科書使って、さっそく授業を受けたいものだと気分は盛り上がっています、が。
「さっそくですが、来月は学校祭があります」
チャイムがなって入ってきた先生(
「本来だとこの時間は教員の紹介だとか、教育過程の説明だとかに充てるんだけど、二、三年生の授業編成の都合で集まれるのが今日の二時限目だけなのよね。年度始めで外部講師の先生の予定が上手く組めなくて……なもんで、とりあえず名簿順にグループ作って、企画考えて下さい。グループ内でリーダーも決めてね。参考に、去年のプログラム配ります」
一気にそれだけ言うと、プログラムのコピー、と思われる物が配布され、次にグループ分けされた名簿が配られる。
「時間がないので、グループリーダーを先に決めてね。一つのグループで一つの係をやって貰うから、何の係をやるか話し合って。希望が重なった場合はジャンケンで。決まったら残り時間で学年の発表テーマ決めてね。そっちはまた話し合う時間あるから急がないけど」
見ると名簿の下に「バザー係」とか「装飾係」とか「健康診断係」なんてものまである。
「健康診断係ってなんだろ?」
「これじゃない?『保健室へようこそ! 気軽に健康チェックしてみませんか? 看護学生がお待ちしてます(ハート)』だって」
「うわぁ、血管年齢測定だって! スゴい! 看護師さんみたい」
夢歌さんのグループは、健康診断係に興味を持った人ばかりで、とりあえず健康診断係を希望。
と思ったら、結構みんなやって見たかったようで、6グループ中4グループがかぶってしまった。
でも、リーダーの
それからそれから。
改めて簡単に自己紹介して、とりあえずグループのメンバーは和気あいあい、仲良くなってしまった。
リーダーの佐々木歩くん。
彼らに夢歌さんを加えた5人(うち男子1名)は高卒組。
そして。
このお二人は社会人を経て入学した、ということ。
以上7人で、「健康診断係」を担当することになった。
残りの時間はクラスの出し物を、なんて言ってたけど、結局ルーム長を決めて終わってしまった。
(自己紹介程度で選べと言われても無理な話で、結局入学式で決意表明を読んだ真山奈央さんが選ばれたのは……まあ、仕方ないかも。教員は自主性に任せます、って言ってなんにも指示しなかったけど。でも「もっと積極性が欲しいわ、立候補してもいいのに」なんてぼやいていた)。
二時限目は、演習ホール、という名前の、大きなホールに移動した。入学式をしたホールよりはちょっと小さい部屋。でも、教室の倍くらいある。
丁度、夢歌さんが入試の筆記試験で当たった教室だったりする。
入試の時は広々としていた気がしたけど、学生全員が着席していると、結構ぎゅうぎゅう詰めだった。
先生……じゃなくて教員は皆様後ろの方に着席していて、前の方の隅っこで先輩と思しき女子学生が3人、何か打ち合わせをしていた。
チャイムが鳴って、その中の1人が、「起立」と号令をかける。
2、3年生はさっと立ちあがり、遅れて1年生が慌てて立ちあがった。
「ただいまより、全校集会を始めます。礼」
……教壇には誰もいないんですが?
と、ちょっと疑問に思った夢歌さん、でも2、3年生はみんな頭を下げているし、とりあえずそれに倣う。
「今回は急遽1年生の皆さんにも参加していただきました。来月開催される『モンブラン祭』について、1年生の皆さんに説明した後、各係に分かれて細かい打ち合わせに入ります」
『看護の日』は5月12日で……看護の母・フローレンス・ナイチンゲールの生誕の日なんである。
……実は、夢歌さん、ナイチンゲールは当然知っていたんだけど、5月12日生まれだとか、その日が『看護の日』になってるなんて知らなかったのね。
志望校にしていた他の学校は、やっぱり5月の開催のところもあったし、秋に開かれるところもあったけど、そのほとんどが付属している病院のイベントに合わせて行われていたんだけど。
附属病院を持たない栗白山看護専門学校は、逆に言えばいつ開催してもいいわけ。
だったら秋とか、せめて夏休み前の方が1年生も色々考えることができていいのになあ、なんて思って。
で、聞いてみたりする。
まさか、みんなの前で聞くのはためらわれたんで、係会の時に隣になった先輩に、こっそり。
「ああ、まあ『看護の日』に合わせて、ってのは、どうせ春先にやるなら、ってことで決まったらしいけど。っていうかね、正直秋口なんて前期試験に始まって2年生の実習に3年生の研究発表に……1年生の戴帽式もあるじゃない。とってもじゃないけど行事入れる余裕がないらしいのね」
「そうなんですか……」
「秋にやってる学校は、基本3年生はほとんどタッチしないところも多いみたい。そうなると、国試にはまだ少し余裕がある4月から5月前半に済ませた方が、学生全員が楽しめるってことらしいよ」
「……そんなに忙しいんですか?」
でも、年間予定表見たら、8月は丸々夏休みになっていたけど。
「あなたねえ……夏休みは、休みじゃないからね」
「へ?」
「確かに授業はないけどね。夏休み明けたら、すぐに前期試験だよ。あんまり遊んでると痛い目見るよ……」
痛い目を見たらしい先輩が、力説する。
「とりあえず、試験も実習もまだ先の今だから、お祭り騒ぎも楽しめるんだから、今からでもテンション上げて参加しなよ? ハッピーバースデー! ナイチンゲール様! ってね」
夏休み、遊べないんだ……。
ショックを受けつつ、それでも基本プラス思考のお祭り人間の夢歌さん。
先輩の助言を胸に刻んで、学校祭を楽しむことに決めた。
バスおめ! ナイチンゲール様! って感じ?
いい時に生まれて下さってありがとう! ナイチンゲール様!
~登校1日目、色々ありすぎて分かんないけど、シナリオクリアー~
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