第4話皇太子殿下と銀色の宝物①

「あなた、だあれ?」

 パーティー会場から命からがら脱した私が、逃げた先で出会ったのは、自分より5つ幼い銀色の髪が眩しい小さな女の子だった。


 ーーーーーーーーーー


 その日は、第一王子である私の10歳の誕生日パーティーが王宮の庭で開催される日であった。

 常日頃から国一番の美貌と謳われる父母からの恩恵であるこの顔を、使用人や貴族たちから賞賛されていた私は、その執拗さとどうにかして取り入ろうという貴族たちの下心に辟易としていた。

 そんな貴族たちの令息、令嬢たちを集めて、誕生日に親睦を図る機会を作ると聞いたときには、何の拷問かと思ったほどだ。

 しかし、将来の側近候補や后候補などこれからあらゆる人選をしなければならない自分の身としては、逃れられないことだとも幼いながらに理解していた。

 理解していた…が、人当たりよく友好関係を築けるかと言われたら、否である。


「あなた、その不機嫌そうな顔、どうにかならないの?」


 とは、母である王妃からの言葉である。


 それに表情を変えることなく、善処しますと答えただけでも大人な対応であったと思う。

 それくらい、お祝いと称した自分に媚び諂う貴族の言葉を聞き続けることにうんざりしていた。


 そこへ、私と同じくらいの令息を連れた男がお祝いを述べてきた。


 確か、セレニティア公爵か。

 この国の貴族図鑑を頭の中に思い浮かべながら、しかしこの男には令嬢もいたはずだが、と考えながら祝いの言葉を聞く。


「本日は誠におめでとうございます。私はサレミュエル・バート・セレニティアと申します。こちらは息子のエマニュエルでございます。年は殿下の2つ上になります。何かと接する機会があるかと存じますが、宜しければお見知り置きください。」


 貴族には珍しく、子息を売り込もうという態度でないことに毒気を抜かれながら、ありがとうと返す私の横から、


「サレミュエル、君にはご令嬢もいたであろう?連れて来なかったのか?」


 父である陛下も疑問に思ったのであろう、首を傾げている。


「は。それが一緒にこちらまで来たのですが、他の方へ挨拶をしている間に逃げられ…いえ、えーっと、はぐれてしまいまして。」


 逃げられたんだな。

 しどろもどろになりながら話す公爵に、父母が同情の眼差しを向けるのも不思議ではない。


「ははっ。」

 公爵令嬢の突飛すぎる行動が面白すぎて、思わず笑い声が漏れてしまった私を、父と母が驚いた表情で見つめるのを感じつつ、今日初めての笑顔で公爵と言葉を交わす。


「それは心配だな。私への祝いはもういいから、探しに行ってあげてくれ。」


 公爵は私の言葉に一瞬目を見開き、父親らしい優しい微笑みを浮かべて一礼した。


「ありがとうございます。それでは、御前失礼いたします。」


 父親に習って一礼した子息と一緒にこの場を後にする公爵の背を見送りながら、胸に去来するのはあの公爵の娘への好奇心だった。

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