第2話公爵令嬢と薬草

「もう、アルったら!あれでは婚約者の最有力候補が私だとまた誤解されてしまうじゃない。毎回誤解を解くのも大変なのよ?」

 隣にいるアルフレッドをジト目で見てしまうのはしょうがない。

 毎回あれのせいで、私はご令嬢から嫉妬の対象なのだ。

 次回のお茶会のことを考えるとぶるりと悪寒が走る。

 途轍もなく憂鬱である。

 次はどういう言い訳でいこうか。幼馴染だからという言い訳は逆に火に油を注ぐらしく、最近では禁句に為りつつある。かといって、他に何か理由が思い付くわけでもなく、うんうん唸っている私に、アルフレッドは困ったようにくすくす笑いながらいつもの言葉を口にする。


「まだ諦めていないんだ?」

「諦めてないわよ!私の夢はスローライフよ!薬草に囲まれて、たまに調合しながらまったり過ごすの。」

 あぁ、なんて素敵なのかしら。

 考えるだけで胸がドキドキしてくるわ!

「ふーん。でもここでもできるよね?ほら、ここは君と私で集めた薬草でこんなに溢れているじゃないか。」


 目の前には溢れる緑が広がる。小さい可憐な花をつけているものやほんのり香りを漂わせるものなど、薬草ばかり集めたとは思えないほど、優雅な温室だ。

 もともとアルフレッドに与えられた温室だったが、私の薬草好きを知ったアルフレッドが薬草を育てる空間として提供してくれているのである。

 ここには私が自領から持ち帰ったものや、アルフレッドが視察先で見つけたものなどがところ狭しと植えられている。

 まさにこれは、アルフレッドと私のコレクションと言っていいほどのものである。

 しかし、だ。アルフレッドは別に薬草が好きなわけではない。

 唯一の幼馴染ということで、私にただただ付き合ってくれているだけ。アルフレッドは唯一の幼馴染にずいぶんと甘いのだ。

 例え私がアルフレッドの婚約者となり、ゆくゆくは皇太子妃、王妃となって薬草を愛でる生活を満喫したところで、私にだけしかメリットがないなんて不公平ではないか。


「私は、アルにも幸せになってもらいたいの。」


 そう、そのためにはアルフレッドを幸せにしてくれる運命の相手を探さないといけない。

 今日お茶会に来ていたあの侯爵令嬢はどうだろう。身分はさるものながら、あのコミュニケーション力は目を見張るものがある。少し身分を重要視して下の貴族に冷たいところが玉に傷で…いやいや、玉に傷どころか致命傷だ。醜い嫉妬系はアルフレッドの鬼門だ。

 うん、却下。

 じゃああの男爵令嬢はどうだろう。あの可愛らしい見た目に、相手の心をくすぐる話術で周りの貴族子息たちを虜にしているという噂も聞く。

 でも、頭の中が少しお花畑なのがいただけないなぁ。それにただひとりではなく、複数の男性を虜にというのもいただけない。

 アルフレッドだけを見つめて、アルフレッドだけを愛してくれる人でなければ、アルフレッドを幸せになんてできないのだ。

 あー、でもそうすると今日のお茶会の中には目ぼしい人が見当たらなかった。

 また一から発掘するよう王妃様に掛け合ってみようか。

 アルフレッドはテーブルに肩肘ついて顔を支えながら、そんな私の様子を困ったような、でもどこか嬉しそうな表情で見つめている。


「私は君がいてくれるだけで幸せなんだけどなぁ。」

 皇太子殿下のため息を伴った小さな呟きは、まだ私に届かない。

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