第十九話 遺跡の入り口
夜が明けると、軽く食事を取り、身体を温める。食事後、すぐに準備を終え、父さんの先導で山頂へ向かった。
山頂に着くと、眼下にはベリア周辺に大雪を降らせている雪雲が見え、遠くの方には僕たちがミーンズから来るときに使った街道がうっすらと見える。
「地図だとあの辺りに洞窟の入口となる場所があるはずだが――」
地図と地形を照らし合わせつつ、父さんが急斜面にくさびを打って縄を通しながら降り、目的の場所と思われる場所への新たなルートを作っていく。
あの場所だと、山頂に向かうルートからは死角になってて見えないな。トレッドさんも滑落の危険性を考慮したら、あんな場所の捜索まではしないだろうし、遺跡の入口に気付かないわけだ。
滅多に人の訪れない場所で、さらに人目を隠すように作られた入口を見つけるため、僕とベルンハルトさんも綱を頼りに、目的の場所へ移動していく。
「雪が凍ってる」
目的の場所に着き、表面を覆う雪をどけてみると、いったん溶けた雪が凍って、氷の壁のようになっていた。
「奥に何か見える」
僕と同じように、雪をどけたベルンハルトさんが何かを見つけたらしい。
「ああ、たしかに斜面に差し込み口みたいな隙間があるように見える」
「氷を溶かす? 僕の剣なら炎をまとえるし、氷も溶かせると思うよ」
父さんが手で僕を制し、自分たちの足元の雪をどかしていく。雪をどけて露出した足元の地面は氷ではなく、ちゃんとした地面だった。
「これなら氷の壁は溶かしても問題ないはず。溶かしたら、足もとまで消えてたじゃ、笑えないからな」
「たしかにギオルギー殿の言う通り。問題はなさそうだし、ロルフ君、氷を溶かしてくれるかね」
頷いた僕は、柄頭を押し込み、鞘から守護者の剣を引き抜く。
炎をまとった守護者の剣を氷の壁に近づけていくと、発生した熱によって氷が溶けだし始める。
しばらくすると、斜面を覆っていた氷の壁は全て溶けて消え去った。
「やはり差し込み口のようだ。地図の書き込みと同じ、『証を持つ者。炎の剣を突き立てよ』という文言が、風化しているが小さく書き込まれている」
「炎の剣は、ロルフの持ってるその剣ってことだな」
「だと思われる。ロルフ君、そのまま慎重に差し込んでくれ。我々は周囲の変化に気を配る」
「はい!」
「ソレーヌ! 今から鍵を差す! そっちも周囲に注意してくれ!」
父さんは山頂にいる母さんたちにも注意を促した。
何が起きるのかまで書かれていないし、注意するに越したことはない。
みんなが身構えたのを確認すると、ゆっくりと炎をまとった守護者の剣を斜面の差し込み口に突き刺していく。
やがて、刀身の半分が刺さったところで奥に突き当たった。
次の瞬間、刀身のまとっていた炎が、ものすごい勢いで差し込み口の中に吸い込まれ、地面が揺れ始めた。
「揺れてる!」
「大きい揺れだ。その場で屈め、立ってると振り落とされかねない!」
揺れが大きくなる中、みんながその場に屈み込み、滑落しないよう地面を掴んで踏ん張る。
揺れはなおも続き、山頂付近を覆っていた雪や氷が雪崩となって落ちていく。
「揺れが止んだ……」
揺れが収まったかと思うと、目の前の差し込み口に亀裂が入り、左右に分かれて動き出す。刀身のまとっている炎の明かりで、下に降りる階段があるのがチラリと見えた。
「こ、これが入り口ですかね?」
「ミーンズの遺跡と同じように、ロルフ君の持つ守護者の剣に反応を示したのが答えだ」
「こんな大きな仕掛けを施されてたら、証の無い者は入ることもできないってわけか」
内部を覗き込んだ父さんが感想をもらす。創世戦争時代の遺跡はこれで三つ目だけど、どれも見つけられないような凝った仕掛けがされてた。
「とりあえず、進んでみるしかないな」
「でしょうな。ヴァネッサ、こっちに渡れるかね?」
「縄をそっちで固定してくれたら、降りれるけど」
さっきの揺れで、父さんが斜面に打ち付けたくさびが外れて、縄が宙に浮いていた。すぐに縄を引き寄せ、外れないようしっかりと地面に打ち込んだ。
「固定した。順番に降りて来てくれ! まず、ナグーニャとヴァネッサからだ」
「あーい」
縄に金具を通したナグーニャとヴァネッサさんが、ゆっくりと慎重に降りてくる。無事に降りてくることができた。
続いて荷物と一緒に母さんが降りてきて、最後はエルサさんとリズィーが一緒に降りてきた。
「わふ! わふ! がうううううううううううううううっ!」
「リズィー騒がないで。ほら、落ち着いて」
リズィーがやたらと吠えてる? 周囲に敵がいるのか? またフラウの襲撃⁉
リズィーの様子がおかしいのを見て、周囲に視線を巡らせるが、魔物がいるような気配はなかった。
「あ、リズィー! 勝手に入ったらダメぇー! 待ってー!」
地面に降りたリズィーの金具を外すと、そのまま洞窟の入り口の中へ駆け出していく。その後をナグーニャが追っていった。
「中はまだ探索してないから危ないぞ!」
「リズィーの様子がおかしいみたい。キマイラの時もフェニックスの時もあんな感じだったけど――」
「今は二人を追わなきゃ! 父さんこれ使って! 『光よ』って呟けば明かり代わりになるから」
ベルトに差してある明かり代わりの短剣を父さんに投げ渡した。
父さんは短剣を引き抜き、付与された魔法を発動させた。
「これもめちゃくちゃ高価な魔法剣⁉ いくつ持ってるんだよ。お前は……」
「終わったら教える。スキルの力の危険性を知らずにいろいろとやってたからさ」
僕が言った言葉の意味を理解した父さんは、黙って頷くと、ナグーニャたちを追って入り口の奥に消えた。
「私らも遅れないように進もう。各自、明かりは持つように!」
「「「はい」」」
僕たちはすぐに準備を終えて、ディロス山に作られた創世戦争時代の遺跡の中に入っていった。
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