第三四話 装備品の強化


「まずは、ナグーニャの装備からやろうか」



「とりあえず、ナグーニャは自衛をできるようにって形にするわね。布の外套は風属性の付与魔術である姿隠し、樫の短杖は土属性の泥人形にしとくわよ」



「姿を隠せれば、ナグーニャも簡単には見つけられないだろうし、泥人形は自分そっくりの身代わりを作れるようになる。これで身代わりを作れば、逃げることも可能なはずだ」



 すでにベルンハルトさんとヴァネッサさんで、ナグーニャの装備に付与する物は決めていたみたいだ。



 戦闘に参加させるわけじゃないけど、何らかの危機が迫った時に対応できるようにして贈ってる感じかな。



「分かりました。ではそれで行きましょう」



「あい! エルサ、これおねがいしますっ!」



「はい、じゃあ、破壊するね」



 エルサさんがナグーニャの装備と魔結晶を破壊する。



 僕が分解された品に触れると、きちんと魔法効果付与が発動し、姿隠しの効果が付与された【風】布の外套と、泥人形の生成ができる効果が付与された【土】樫の短杖ができあがった。



「できたー! ナグーニャのそうび! ヴァネッサ、試していい?」



「いいわよ。泥人形は土のあるお外じゃないと使えないわ」



「あい! リズィーいっしょにお外きてー」



 吠えて応えたリズィーと一緒に、ナグーニャが外へ通じる扉を開けて出ていった。



「風よー」



 付与された効果が発揮され、扉の外にいたナグーニャの姿が消え去る。



「本当に見えなくなるんですね」



「ええ、ただ音と匂いと足跡は消せないけどねー」



 リズィーは、ナグーニャが駆けまわっているであろう後を追って走っている。



 よく見ると、地面には足跡が残されていた。



「しゅうそくせよー」



 効果を停止させると、布の外套を着たナグーニャが姿を現す。



「上手にできたわねー。次は短杖のやつ試してみなさい」



「あい! 土よー!」



 地面が盛り上がったかと思うと、ナグーニャと姿かたちがそっくりの人形ができあがる。



「ナグーニャ、そっくりー!」



「動けないし、喋れないけどねー。でもさっきみたいに隠れちゃえば逃げられるわよ」



「すごい! ナグーニャすごくなった!」



 ヴァネッサさんもベルンハルトさんも、喜んでいるナグーニャを見て頷いていた。



「ナグーニャちゃんも、あれでかなり安心だよね」



「そうですね。つぎはエルサさんの装備に魔法効果付与しましょう」



「じゃあ、着替えてくるね」



 そういったエルサさんは貨物室の奥に消えた。



「ロルフ、そうび作ってくれて、あーがと!」



 外から戻ってきたナグーニャが、僕に抱き着いてくる。



「どういたしまして。でも、あくまで自衛用だからね。ベルンハルトさんやヴァネッサさんの言うことはちゃんと聞かないといけないよ」



「あい! しょうちー! ナグーニャ、ちゃんと言うこときくー!」



「さて、次はエルサちゃんね。戻ってきたみたい」



 普段着に戻ったエルサさんが、装備をテーブルの上に置いていく。



「エルサちゃんは、弓はこの前と同じ暴風矢にしておくわね」



「はい! 弓はそれでお願いします。防具は身軽に動ける付与魔法とかってあります?」



「疾風って移動速度を高める風属性の付与魔法があるけど、発動ワード変えないと、弓と同時に発動しちゃうわね。『駆けよ』にしとく?」



「あるんですね。それでいいです」



「おっけー。革のブーツ辺りに付与しておこうかしらねー。あと、鉄の矢筒に、氷結なんてのはどうかしら? 矢が刺さると相手が凍結しちゃうやつ」



「そんなのもあるんですか。いいですね。付けて欲しいです。弓と矢の効果って乗せれるんですか?」



「できるわよー。エルサちゃんの弓で射ると、周囲の敵を吹き飛ばしながら、矢が刺さった相手は凍結させられるわね」



 それってすごく強い気がするんですけど……。



 エルサさんの弓の腕なら、魔物に当てるのはけっこう容易にできるし、ものすごく頼もしい攻撃になる。




「エルサのゆみすごーい」



「あと、革の鎧は土属性の土の壁がいいわね。敵の攻撃からの遮蔽物になるし、あと鉄の手甲には闇属性の暗闇を付けとくと、隠れやすくなるわね」



「エルサ君の弓の腕なら、付与された効果を使いこなすことで、さらに強力になるな」



「じゃあ、それでお願いします。ロルフ君、破壊するね」



「あ、はい。どうぞ」



 エルサさんが装備と魔結晶を破壊していくと、再生スキルを発動させ、魔法効果を付与していく。



 吹き飛ばし効果の付いた【風】狩猟弓+1、移動速度が上がる効果が付いた【風】革のブーツ、矢に凍結効果を付ける【氷】鉄の矢筒、土の壁を発生させる【土】革の鎧+1、暗闇を発生させる効果がついた【闇】鉄の手甲が完成した。



 総額は、たぶん1億数千ガルドくらいな気もする。



「価値は聞かない方が使いやすい気がするから、黙っててね。ロルフ君」



 エルサさんも薄々、とんでもない額の装備だとは理解してるみたいだけど、はっきりとした金額は知りたくないらしい。



それが、正解な気もする。



「はい、黙っておきますので、存分使い潰してください」



「うん、ありがと。あとはロルフ君の装備だね」



「僕のは、基本的に特殊攻撃への抵抗や魔法攻撃からのダメージ低減の付与魔法を付けて欲しいです。ヴァネッサさん、いいやつありますか?」



「あるわよー。まず、鉄の盾は光属性の光盾ってやつがいいわねー。魔法ダメージを肩代りしてくれる不可視の障壁が出せるわ。短剣と被るから、発動ワードは、【遮断せよ】ね。鉄の鎧は、基本的な防御力を上げてくれる土属性の鉄肌ね。鉄の手甲は特殊ブレス系のダメージを低減してくれる炎属性の浄化の炎、鉄の兜は、飛来物を弾く風属性の空気壁、鉄の靴は敵の攻撃ミスを誘発する闇属性の幻影ってところかしらねー。ロルフちゃんの戦闘スタイルだと、こんな感じよね? ベルちゃん」



「悪くないと思う。最前線で敵の攻撃を引き付けられる頑強な防御力を得られるであろう付与効果だ。剣の効果もあって、なかなか戦えると思うが」



「ありがとうございます! ベルンハルトさんにそう言ってもらえるなら、ヴァネッサさんの提案通りに付与してもらいますね」



「はいはい、じゃあ、付与するわよ。エルサちゃん、やっちゃって」



「はーい」



 エルサさんが装備をと魔結晶を破壊すると、僕が再生スキルを発動させ、魔法効果付与をしていく。



 不可視の障壁で魔法ダメージを肩代りする【光】鉄の盾+1、基本的な防御力を向上する【土】鉄の鎧+1、特殊ブレス系のダメージを低減する【炎】鉄の手甲、飛来物を弾く空気の壁を作り出す【風】鉄の兜、敵の攻撃ミスを誘発する効果を付けた【闇】鉄の靴が完成した。



「試してみても?」



「いいわよ。外でやってね」



 それから、僕とエルサさんは装備を着込み、魔法効果が付与された魔法の武具を試したところ、かなりの好感触を得られた。



 今の装備なら、魔法や特殊ブレスを吐くキマイラにも、後れを取らない気がする。



 冒険商人の一員として、恥ずかしくない戦いができるくらいにはなったと思いたいな。



 その後、エルサさんの使っていた魔法効果の付与された鉄の弓と、伝説品質の使わなかった装備は、ミーンズで一部売却することが決定した。



 ベルンハルトさんたちの伝手を使っての売却であるため、売り上げの2割を渡すことになるが、それでも僕たちみたいな駆け出しが、売り捌けないような品も簡単に売り捌ける。



 予定では2000万ガルドくらいが、僕らの取り分になる予定だ。



 ミーンズの需要次第では、もう少し魔法効果を付与した伝説品質の武具を売ってもいいと許可を得ているので、街に到着するのを心待ちにして、旅を再開することにした。

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