第三話 『破壊』スキルもつ彼女
街中の清掃を終え、集めたゴミを捨てるため、街の外の小高い丘にある巨木に来ていた。
集めたゴミをゴミ捨て場に捨てていると、巨木の奥にある雑木林からゴブリンたちの唸り声が聞こえくる。
「うがああぁああ!!」
「…………こ、来ないで! 来るなら……」
声にした方に視線を向ける。
ゴブリンの群れに追いつめられた女性が、木を背にして囲まれていた。
こちらに気付いた女性から、助けを求める視線が向けられる。
戦闘経験のなさから、自分の足が震えるのを感じていた。
冒険者だったお父さんやお母さんなら、今の状況を見たら絶対に助けるよな。
それに今、あの人を助けられる力を持ってるのは僕だけだし、冒険者だったら逃げ出したらダメだ!
視線を向けた女性に頷くと、怯える自らに言い聞かせるように口を開いた。
「今すぐ助けるから、そこを動かないで!」
追い詰められた女性は、こちらの声に反応するように頷く。
すぐに足元の小石を取ると、女性に襲いかかろうとしたリーダー格らしいゴブリンに向け全力で投げた。
投げつけた小石が、リーダー格のゴブリンの持つ手に当たり、錆びた剣が地面に転がった。
大型の魔物は強くて、ぼっち冒険者の僕一人では倒せない。
でも、女性を襲っているのは最弱の魔物であるゴブリン三体だ。
慌てずに一体ずつ挑めば、今の自分でも倒せない相手ではないはずだった。
「僕が相手になる!」
ゴブリンたちを威嚇するため、護身用の短剣を引き抜くと、毎日欠かさずに鍛錬してきた通りに構えた。
僕だって、冒険者の端くれだ! ゴブリンなんて怖くない! 絶対にあの人を救ってみせる!
短剣を構えたこちらの様子を見て、分が悪いと判断したのか、リーダー格のゴブリンは逃げ出していった。
リーダーの逃走を見た仲間のゴブリンも、慌ててその場を立ち去っていく。
「だ、大丈夫かい? 怪我とかないです?」
ゴブリンから逃れ、危機を脱したことで女性は木の根に座り込んで震えていた。
そんな震える彼女を助け起こそうと、短剣をしまい自分の手を差し出す。
き、綺麗な人だな――
僕は思わず息を呑む。
震えている女性は、黒く長い髪に漆黒の瞳をした、自分より身長も年齢も上に見える美しい人だった。
よく見ると、目元に泣きボクロがあり、日に焼けた健康そうな肌をして、泥と砂で汚れたボロボロの衣服を着ている。
首に革製の首輪を付けているところを見ると、どこかの逃亡奴隷なのかもしれない。
ただ、衣服のみすぼらしさに比べ、両手の革の手袋がやたらと高価そうで、しかも頑丈そうなのが気になった。
「あ、ありがとう。で、でも、その手であたしに触れないで!」
差し出した僕の手を見た彼女は、血相を変えて拒絶の言葉を口にした。
今の僕はここに来るまでに散々ゴミ拾いしてきたから、とても汚い身なりをしている。
もちろん、手もかなり汚れていた。
なので、彼女の拒絶の言葉を『そんな汚い僕に触れられたくない』との意思表示だと受け取った。
確かにこんな汚い僕に、誰も助けられたくないよな……。
自分の格好を思い出ししょぼくれた気分になる。
「ご、ごめん。立ち上がるのに手を貸そうと思って……す、すぐに街の人を呼んでくるから! 待ってて!」
「ち、違うの! そういう意味ではなくて――。あたしは触れた物を『破壊』してしまうスキル持ちなの!」
「はぁ? はぁ……?」
「だから! あたしの手に触られると『破壊』スキルが発動するかもしれないから、触らないでって言ったのよ。気を悪くしたらごめん……ね」
女性が必死になって、僕の勘違いを正そうとしていた。
「は!? 触れた人を『破壊』!? 意味が良く分からないんだけど……」
「これを見れば分かるわ……」
女性が両手にしていた白い革製の手袋を外し、足元に転がったサビた剣を素手で取った。
その瞬間――サビた剣が淡い光をまとい、ばらばらの部品に変化して彼女の手の中に浮かんでいた。
「えっ!? ええっ!?」
「この通り、あたしが素手で触れると勝手に『破壊』スキルが発動して、全ての物を解体してしまうの……。この光がおさまったらこの剣は消え去るわ」
女性が自分の手元に浮かぶ、元サビた剣だった部品をこちらに見せていた。
その様子を見せられて、自分が神官たちに呼び出された時のことを思い出していた。
神官たちの話では、現在確認されたスキルは二〇〇ほどらしい。
自分に与えられたスキルが未知の物であったため、神官たちの協議の場に何度も呼ばれ、すべての既存スキルとの照合をされた。
その時の協議で、既存スキルについての知識を得たけど、目の前の女性の言う『破壊』スキルは見たことも、聞いたこともないスキルだった。
「『破壊』スキルなんて存在するんですね……」
「そうみたい。だから、万が一の事故が起きないよう君に『触れないで』って、きつい言葉が出ちゃったの。せっかく助けてくれたのに、あたしの言葉が足らず気を悪くさせてごめんね」
女性は自ら立ち上がると、こちらに向かって深々と頭を下げた。
その真摯な謝罪の姿に、逆にこちらが悪いことをしたかのように感じてしまった。
「そ、そんなに謝らなくてもいいですよ! 頭を上げてください。僕の勝手な勘違いでしたし」
深々と頭を下げていた彼女の謝罪を受け入れる。
すると、彼女は顔を上げニッコリと俺に微笑みかけてきた。
「本当に助けてくれてありがとうね……」
か、可愛い……。
僕は彼女の魅力的な笑顔を見せられて、興味を惹かれていた。
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