【心理学】スタンフォード監獄実験とかいう闇

 心理学は100年にわたる歴史をもちます。人の心を科学する学問であるからして、当然ながら人を用いた様々な実験があることはわかりますよね。じゃあいったいどんな実験をするのか? って話なんですが、たとえば実験参加者に『心理学の実験』と知られてしまうと、それによって被験者に様々な心理的影響を与えてしまうために、はじめはウソの実験内容を伝えたりします。例としては『ちょっとしたテストをします、この部屋でお待ち下さい』みたいな指示をだして、参加者30人くらいを1つの部屋に置いとくんですね。で、ある時突然――


 『赤い帽子を被り、緑の上着に青のズボン、紫の靴を履いた、ひげモジャでアジア系の男性』が部屋に飛び込んできて、そのままダッシュで別の扉から去っていくとしましょう。この間ほんの数秒。被験者からしたら「?」ってなもんです。


 すかさず参加者に実験内容を伝えます。これは『記憶力』に関する実験で、突然現れた人物の特徴をどのくらい覚えていられるか? みたいな内容だったんです。


 で、この実験で得られた結果といえば『人間ってたいした記憶力ないよね、わりと勘違いするよね』という感じ。まあ、これに類似した実験はたくさんありますので、気になった方はグーグルスカラー先生にでも訪ねてみましょう。




 で、ここからが本題。こういった心理学の実験は今でこそ倫理的にちゃんとした内容を求められていますが、ちょっぴり前はわりとおおらか(オブラート☆)な感じで、昭和のテレビ番組レベルの過激な内容が繰り広げられていたりします。そのなかでも特に有名なのはタイトルにある『スタンフォード監獄実験』。今回はこれと、同じタイプのヤバイ実験についても解説していきましょう。


 スタンフォード監獄実験を行ったのはアメリカの心理学者『フィリップ・ジンバルドー』です。簡単に経歴をご紹介すると、彼はアメリカブルックリン大学を卒業後イェール大学にて博士号を取得。社会心理学者への道を歩み始めました。


 後にスタンフォード大学の教授となり、一時期はアメリカ心理学会の会長も務めたレベルの偉い人です。あ、ちなみに彼の生まれは1933年ですが、現在もご存命で同大学の名誉教授となっているようですね。この実験のインパクトが強すぎるせいもあり他の功績が有名ではないのですが、ほかに内気な人(シャイネス)の研究でも知られています。人はどのようにして『変化』するのか? という心理に関する著作も複数発行しているので気になる方は調べてみてください。


 心理学ってのは人の心を科学する学問です。そういうわけですから、彼は『社会心理学』という人間関係が深く関連する分野の方で、当然といえば人間関係に関わる研究でも功績を残しました。そのなかのひとつに集団においては個性が埋没してしまう『没個性化』があります。社会的役割を与えられることで、その人本来の気質などが失われてしまう、というイメージです。




 これらの実験では特に『同調』や『権力・服従』などといった問題は非常に興味深いテーマとなるでしょう。実際の社会構造でも必ず上下関係というものがあり、上司の命令に部下は従い、与えられた権限のなかで仕事をこなしていきます。ここで参考になるのは『ミルグラム実験』。高校時代ジンバルドーさんと同級生だった『スタンレー・ミルグラム』が行った実験で、以下のような実験内容でした。


①教師役と生徒役の2グループを用意する

②教師役は用意された問題を生徒に出題し、生徒が不正解になると教師はスイッチを押し電流を流す

③不正解が増えるごとに電力が増える

④苦しむ生徒に教師が中断を訴えても、実験者(ミルグラム側)は淡々と継続を求める


 なんか字面だけでも物騒ですねぇ。あ、ちなみに生徒側に対し実際に電力が流れているわけではなく『痛がるフリをしている』のだけは付け加えておきます。じゃなけりゃたんなる事件現場だコレ。


 が、教師側に対してはあらかじめ『電力はどんどん強くなるよ。ある電力まで達すると致死ラインだよ。ちなみに実験ではそれ以上の電力になっても続けるよ』という認識をしてもらっています。結果、教師側はどのラインまで電力スイッチを押したでしょうか?


 なんと、ほぼ全ての教師役が致死量以上の電力を流しやがったのです。まーじかーってレベルじゃねぇわ。教師役がことごとく観測者という『権力』に『服従』していった情景ですね。






           私は指示に従っただけだ、私はわるくない






 このようなセリフを口にした方もいるでしょう。なかには罪悪感と共に発言したかもしれません。社会心理学から見れば、権力を前にした人間は得てしてそういう心理になるのは『』なのです。この実験、じつはドイツの『アドルフ・ヒトラー』に従った人々の心理を解き明かそうとするため行われたものです。ユダヤ人虐殺に加担した『アドルフ・アイヒマン』はその苛烈な行動にも関わらず『一般的な人物』であったため、どうしてこのような人が残虐行為の指揮をしたのか? というテーマのもと研究された経緯があり、彼の心理を如実に表したとされるこの実験は別名『アイヒマン実験』とも呼ばれています。


 これこそまさに人間の心が『変化』した瞬間と言えるでしょう。これをさらに浮き彫りに、そして凄惨な形で世に知らしめることになった実験こそが以下解説する『スタンフォード監獄実験』なのです。




 ジンバルドーの指揮のもと、その実験には24名の大学生が参加しました。実験内容を整理してみましょう。


①刑務官役と受刑者役の2グループを用意する

②スタンフォード大学の地下実験室にて、実際の刑務所のように生活する


 すでにミルグラム実験のようなきな臭さを覚えたでしょうか? ――その予測、まさしく大正解です。


 参加者を募り12名ずつ『受刑者』と『刑務官』役を定めた数日後、まさかの出来事が起こります。夜明けに行われた強制捜査で、受刑者役がカリフォルニアのパロアルト市警に逮捕されるのです。いやー粋な演出ですね☆ じゃねーよ!


 ガチのマジで容疑者扱いされた学生らはそのまま本物の容疑者のごとく扱われ、よくある「アナタには黙秘権があります」うんぬんなどの権利の告知とともに警察署へ連行され『刑務所』――つまりスタンフォード大学心理学部の地下室――へと送られました。


 もうお腹いっぱいなんですがそれは。


 これに関しては『ルシファー・エフェクト』という著書に詳細が記されています。わたしは実際に購入したわけではありませんが、気になる方はぜひご注文してみてはいかがでしょうか? ちなみに800ページほどあるようですよ。


 投獄された囚人たちは看守の管理下におかれ、脱衣検査を行から名前は割り振られた番号で呼ばれる流れに。もちろん囚人用の服を着せられて、看守たちは専用の服に加えサングラスで視線を隠し、笛や警棒、手錠に鍵など、まさに囚人たちにとって『』といったような装備でした。ジンバルドーの『』によって囚人たちを常に監視するように振る舞っています。


 えー、話を整理しますがこれは『実験』です。囚人には『』が与えられてはいました。が、実験中は自由がないことを象徴するかのように片足の足首に鎖が繋がれていたらしく、まあなんていうかね? これ本当にリアルな実験だなあ(白目 みたいな?


 こんな感じで2週間、実験参加者たちは仲良く共同生活を送ることになりました。ジンバルドーが観察していると、徐々に看守役の人たちの行動が『必要以上に』過激になっていく様が見えてきました。


 まずは受刑者たちに食事や衣服を与えることを拒否。下劣なゲームで囚人たちに恥をかかせるなんてあたりまえ。暴力を背景に脅しかけ散々な始末でございます。当然と言いますか、囚人のなかには精神的に不安定になってしまう人まで現れてしまったんですよね。だもんで、ジンバルドーさんも「これヤベェ」と思ったのか、2週間の予定だった実験をわずか6日間で終了させることにしたのです。


 これを聞いた刑務官のなかには「話が違うぞ!」と抗議する方までいたとか。あ、ちなみにジンバルドー自身もアレです。あの創作物とかによく出てくるマッド・サイエンティスト的な感じで「すばらしい! このようなデータが得られるとは! もっと、もっとだ!」的に実験を進めようとしていたんですが受刑者のカウンセリングを務めていた牧師さんにペケされて受刑者役の家族が弁護士ひっさげて猛抗議。自身のを認めそれぞれの被験者のカウンセリングを行っていたようです。




 この実験は1971年に行われ、当時は大きなニュースになったようです。それを題材にした映画まで登場したようで、この実験はまさに人間の『心の闇』を浮き彫りにしたものと言えるでしょう。それだけではありません。一見凄惨で非人道的とも思える彼の実験は、『』ことを証明したとても貴重な資料でもあるのです。


 と、ここまでかっこよく書きまくってましたがちゃんと反論も上げとかなきゃよろしくないわねとうことで、えー、スタンフォード監獄実験に対する色々な反対意見をご紹介します。まあウィキペディアとかに書かれているものなので、気になった方はそちらを見ると良いかもしれません。


 まず、ここで行われた残虐行為がすべて『ジンバルドーの指示だったんじゃないか?』っていう意見があったりします。当然ながらジンバルドーは否定するしかありませんが、まあ個人的にはこの線は薄いんじゃないかなぁと。


 逆に「あ、ありえるかも」と思えるのは『実験者効果』という認知バイアスが発揮されたパターン。ある実験をするなかで『被験者たちが実験者の望むように行動してしまう場合』があるわけです。だからこそ心理学の実験内容を明かさない必要があるのですが、被験者と実験者の相互作用的な考え方は、たとえば『ピグマリオン効果』とか『ゴーレム効果』なんかを参照していただければわかりやすいかなと思います。気づかぬうちに、実験者と被験者が相互的に影響を及ぼしてしまう場合があるのですね。


 スタンフォード監獄実験がこのバイアスにかかったのかどうかは知りませんが、とにかくこの実験は人間の社会性を浮き彫りにしたものと言えるでしょう。現代で同じ実験をやろうものなら多方面から批判があるでしょうからねぇ……まあ、二度とできない実験ということで貴重な資料になるでしょう。




 人間は社会的生物であり、長い歴史を『集団』のなかで過ごしてきた事実があるため『権力を求めそれに服従する』という宿命的な心理をもっています。これらは『集団心理』をはじめ様々な心理効果が関連していますが、集団のなかでを保つためにはけっこうな精神力が必要です。それこそ自分の『ペルソナ』をうまく使い分ける必要があります。


  アナタはどのような『個人』でいたいと考えていますか? そして、集団において自らが『悪魔』になりかけた時にブレーキを踏ませてくれるモノはありますか?


 集団心理は個人に対しとても強力に働く心理です。ある意味では逆らわずに生きることがもっとも『正解』なのでしょうね。

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