現在(いま)に戻って ~再び社会人へ~
私は、街の公園の一番大きな桜の前に居た。散り際の桜は、その花びらが桜吹雪となって宙を舞っていた。スマホを見ると、私が二十五歳の、四月五日、午後二時頃だった。
春楓はそして、街の公園にやってきた。
そこにはある人物も連れてきていた。
(――楓……!)
私は春楓が楓を連れてきたのを見ると、やはり駄目だったのかと途方に暮れた。タイムスリップまでして春楓に振り向いてもらおうとしたのに、駄目だ、駄目なんだ、と私はもう涙が溢れてきた。
「ふぁ~ん!……春楓!……ふぁ~ん!」
私はもう泣きじゃくっていた。どうしようもない悲しみが、私を襲う。春楓は楓を公園の隅に置くと、街の公園の一番大きな桜の前のベンチ、私の前に来た。
何かを、決意する様に。
「さくら、さくら!泣かないで、さくら」
春楓はそう言って、私を慰める。私は春楓の胸にしがみ付き、「ふぁ~ん!ふぁ~ん!」と泣いていた。
「春楓、好きだよぉ、春楓!春楓~!」
春楓の胸で泣いていると、春楓はこう私に告げる。
「さくら、泣かないで、聞いてくれるかな?」
「今から二十年前、俺達が五歳の時、二人で街の公園にお願い事をしに来たんだ。その時の事、覚えているかな?四月五日に会いたいっていう約束も、五歳の時に会ったのが四月五日だからなんだ。その時、さくらはお願い事をして、俺も、お願い事をしたんだ。さくら、俺にどんな願い事をしたの、って聞いてきたけど、俺は、二十年経ったらさくらに教えるって言ったんだ。その時が、今日、やってきた。さくらに今まで五度告白されたけど、その答えも、今日……」
春楓はそう言って、そして、私にこう話した。
「あの時、俺は、さくらと一生添い遂げられますように、って願ったんだ。俺もませてて、覚えたての添い遂げるって想いを願ったんだけれど、この想いは、本当なんだ!」
「えっ、じゃあ、春楓!」
その時、街の公園のどこからか、桜の妖精さんの声が聞こえてきた。
「さくらちゃんの記憶よ、甦れ~!」
私は自分の記憶が蘇ってくるのを感じた。そう、五歳の、あの時。
私は、街の公園の一番大きな桜にお願い事をしたの。声に出すとお願い事は叶わないらしいから、心の中でお願い事をしたの。
(はるかと、じゅうねんごもにじゅうねんごも、ず~っとず~っといっしょにいられますように!)
私は心の中でお願い事をして、これで願いが叶うわと、すごく嬉しくなる。
春楓もお願い事をしたようで、とっても嬉しそうにしてたの。私は春楓に聞いてみる。
「はるかは、なにをおねがいしたの?」
春楓はちょっと困った顔をしたの。
「おねがいごとって、だれかにはなしたらかなわないんじゃなかったっけ?――でも、さくらにならはなせるかな、どうしようかな――よし、じゃあ」
春楓は何かを決めたように喋ったの。
「――じゅうねん、いや、にじゅうねんたったら、さくらにはなす!」
「えっ、じゅうねん、にじゅうねんご!?」
私はそんなに待つのと春楓に聞く。
「だいじょうぶ、にじゅうねんたったらかならずさくらにはなすよ!」
春楓がそうすると言うので、私は春楓の言う事を聞いてみる。
「かならずよ、はるか!にじゅうねんたったらおしえてね!」
私と春楓は『指切り』をして二人でにっこり笑ったの。
「えっ、じゃあ、あの時の春楓の願い事って――」
「そう、さくらと、一生添い遂げられますようにって」
私はそれを聞いて、さっきとは違う、涙が溢れてきた。じゃあ、春楓は、ずっと私を想って……。
「さくら!好きだ!俺と結婚を前提に、付き合ってほしい!」
私は何だか訳を直ぐに受け入れられないでいた。しかし、春楓からはっきりと好きだと言われて、嬉しさが込み上げてくる。でも、でも……。
「う、う、うわ~ん!春楓!嬉しいよぉ!でも、でも、分かんないよぉ。こんなに、待たせないでよぉ。私ずっと、春楓と楓が付き合ってると思ってたんだからね!」
そこへ、私達の話を聞いていた楓が一番大きな桜の前のベンチ、私達の所にやってきた。春楓と私にこんな話をしてきた。
「もう、春楓は、さくらが好きだって、昔っから私に相談してきたのに、五歳の時の約束を守るんだって、今日までずっとさくらに好きだって言わなかったみたいなのよ」
楓はそう言って、話を続けた。
「私、約束よりも告白したら、って何度も言ったんだけれど、春楓ったら聞かなくて。私に何度も相談してきて。春楓に頼りにされるから、私も、春楓はいいんじゃないかな、私に気があるかも、って思ったりもしたわよ。でも、春楓ったら、さくらの事しか見ていなくて。しょうがないから春楓の相談に付き合ってきたけど。遂に春楓五歳の時の約束守っちゃたわね。でも、さくらもさくらよね、春楓をずっと好きでいられるなんてさ」
私は楓のその発言に、ずっと自分が思い違いをしていたんだっていう事を知らしめられた。楓は、春楓の相談に乗っていたんだ。春楓と付き合っていた訳じゃないんだ。春楓は、ずっと私の事を想って……。
「さくらちゃん、さくらちゃん」
そこへ、桜の妖精さん、キュリオネールが、空を舞って現れた。どうやら、私にしか見えていないらしい。
「ふぇ、桜の妖精さん」
桜の妖精さんは、喜ぶ様に、こう私に告げてきた。
「さくらちゃん、春楓君と結ばれるね!おめでとう!どうやら、タイムスリップしていない時間軸でも、さくらちゃんは春楓君と結ばれる運命だったみたいだよ」
桜の妖精さんのその発言に、私はちょっとビックリして、そして疑問が浮かんで聞いてみる。
「桜の妖精さん、じゃあどうして、私にタイムスリップさせたのよ~」
「だって、さくらちゃん、凄く悲しそうにしていたから……それに、さくらちゃんの想いと、春楓君の想いに気付いてほしくて――」
桜の妖精さんはそこまで言うと、こう言って街の公園の一番大きな桜のどこか向こう側に消えていった。
「さくらちゃん、春楓君が、待っているよ」
そうして、私は春楓を真っ直ぐに見た。
「でも、でも、こんなに待たせるなんて、春楓、ずるいよ~」
そして、私のその発言に、春楓は困った顔を一度見せて、そして真剣に私にこう言ってきた。
「さくら、返事を聞いていなかったね……。俺と結婚を前提に付き合ってください!」
春楓のそのお願いに、私はこう返事をした。
「よろしくお願いします」
春楓は「やったぁ!」と凄く嬉しそうに喜んで、その場で跳ね上がる様にジャンプして……。そして私を抱きしめてきた。私は春楓の温もりの中、春楓と付き合えることに、嬉しさを隠しきれずにいた。
「めでたしめでたしね。……あ~あ、どっかにいい男いないかしらねぇ」
楓がそう呟いて、「良かったわね、二人共」と私達を祝福してくれた。
街の公園の桜のどこか向こう側から、桜の妖精さんの声が聞こえる。
「良かったね、さくらちゃん。本当に、良かったね」
春風が吹く街の公園に、桜がその花びらを舞わせていた。春色に彩られた街の公園は、私達を祝福する様に、桜吹雪が舞い、春の太陽はその暖かな光を放っていた。
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