さくらの想い 高校生

   高校生


 春風高校、三年生。小中高一貫校の春風学園に在籍し、高校受験がなかった私達は、大学受験という初めての受験に四苦八苦していた。私、さくらも大学に進学するため、受験という荒波を乗り越えようと必死だった。


 そんな中、私は春楓と同じ大学に行きたいと思っていた。志望校が同じだった事と、春楓と同じ大学に行きたくて明青めいせい大学に願書を出していた。


「春楓、行きたい大学は決まってるの?」


「さくらは決まってるのかい?」


「私は……明青大に行きたいかなって思ってる」


「そうだな……俺も明青大かな」


 春楓と大学について話をしたとき、そう答えていた。春楓と行きたい大学が同じ事が、私の中の心を勇気付けていた。


 春風学園は進学校で、大学に進学する事を推奨している。私も、私達も、大学や専門学校に進学する子達がほとんどである。




 大学入学共通テスト当日、私は試験に臨むため、最寄りの大学に受験をしに行った。春楓や牡丹、楓、桔梗、百合、優樹や健大も試験を受けに来た。


「いよいよ共通テスト本番ね。皆体調大丈夫?」


 桔梗が皆の体の状態を確認する。


「うん、大丈夫」


「私も、大丈夫よ」


「不安だけど、大丈夫ね」


 私と、牡丹、楓が体調は大丈夫な事を報告する。そんな中、百合は不安がっていた。


「あ~ん、私は、今から試験なのが……ちょっと怖いわ」


「大丈夫だ、百合。何とかなるって」


「そうだな」


 優樹が百合に大丈夫だという。健大もそうだと言っている。百合は「ありがとう」とだけ言っていたが、不安そうなのは見て取れる。私も百合に「大丈夫よ、何とかなるわ」と元気付ける。


「とにかく、今日明日は共通テストに臨んで集中して、皆で頑張ろう!」


 春楓が皆にエールを送る。私達は頑張るぞーと意気込んで共通テストに臨んだ。




「はい、今から大学入学共通テストを行います」


 いよいよ試験の時が来た。私は問題用紙に目を通すと、解答用紙に答えを書いていく。


(これはこう……この問題は……こうね)


 大学入学共通テストは、一日目を終え、次の日の二日目も、無事に終えることができた。




「大学入学共通テスト、皆無事に通ったみたいね」


 桔梗が、皆が大学入学共通テストに通った事を喜ぶ。


「もう、俺なんか焦って凄く心配だった」


 健大は凄く心配していたようだ。百合は「もう、健大ったら」と言って自身の事を言う。


「私も焦っちゃたけど、何とかなったわ」


 そんな百合に優樹が「大丈夫だと思ってたよ」と言う。


「俺やさくらや牡丹、桔梗、楓なんかは、各大学の試験も受けなくちゃな」


 春楓が次の試験に対策を取らなくちゃなという。桔梗が「頑張らなくちゃね」と励ましてくれた。




 明青大、受験当日、私は春楓と桔梗と共に明青大学に訪れた。桔梗も明青大学を受験する。


「今日の試験も、頑張らなくちゃね」


 桔梗が私達にもエールを送る。春楓は「そうだな、今日こそ頑張らなくちゃな」と意気込む。私も「志望校に受かるためだものね」と張り切った。


 試験の時、私は明青大の試験に四苦八苦していた。問題が予想以上に難しい。


(これは……どうだろう。これは、難しいわね……)


 私は試験に手こずりながらも、なんとか試験の日程を終えた。




「はぁ……」


 私は明青大の試験に手応えを感じられず、ちょっと落ち込んだ。


「大丈夫か、さくら……俺も自信ないな……」


 春楓もあまり自身がなさそうだ。そんな中桔梗は私達を励ましてきた。


「大丈夫よ、大学入試は、今が真っ只中。元気出して頑張ろう」


 桔梗はいつもの元気で眩しいくらいだ。私は春楓に聞いてみた。


「春楓、第二志望、どこだっけ」


慶生けいせい大、さくらは?」


弁天べんてん大……」


「そうか……」


 春楓は、どこか残念そうにしていた。私も、春楓と同じ大学に行けないのかと不安になっていた。




 弁天大学、受験日当日。私は、同じく弁天大を受験する牡丹と共に、弁天大学に赴いた。


「さくら、頑張ろうね!」


「うん」


 弁天大学の試験が迫る中、私は(しょうがないな)と今日は今日で頑張ろうと張り切ることにした。


 弁天大学、試験中。私はこの大学の試験に臨み、問題を解いていた。


(これは……こうね。これは、こう……)


 私は何とか弁天大の試験の問題を解いていった。




「ふぁ~!試験、ようやく終わったわね!」


「そうね、牡丹」


 私は試験を終え、合格発表を待つ時を迎えていた。




 大学入試、合格発表日。私は明青大の合格発表を見に行くと、結果が待っていた。


「……落ちちゃったわ……」


 明青大の合格発表の掲示板には、私の番号はなかった。……春楓と同じ大学に行けないんだな。という寂しい気持ちが、私を襲った。


 しかし、同じく明青大の合格発表を見に来ていた春楓を見ると、何だか真っ青な顔をしている。


「春楓、どうだったの?」


 私が聞くと、春楓は「落ちちゃった……」とだけ答えた。私が「私も落ちちゃった」と答えると春楓は「そう、か」と何か考える様に言った。


 見ると桔梗は、嬉しそうに掲示板を見ていた。桔梗はこちらに来ると、私達にこう告げる。


「受かってたわ!さくらと春楓は?」


 そう言うので、私はこう答えた。


「私、落ちちゃった」


「俺も」


 私と春楓がそう答えると、桔梗は「そう、か」とだけ答えた。


 私は、春楓と離れ離れになるんじゃないかと不安でいた。




 弁天大学、合格発表。私は牡丹と共に弁天大を訪れると、合格発表の掲示板を見上げた。


「あっ!」


 見ると、私の番号が掲示板に書かれていた。――合格したのだ。


 牡丹も、こっちに来て「受かってた~!」と嬉しそうにしていた。私は「良かったわね」と牡丹と自身を労う。


 唯一、春楓と同じ大学に行けないのが気掛かりで、私は内心ちょっと落ち込んでいた。




その後、春楓とLINEでやり取りをした。




さくら 春楓、慶生大の受験どうだった?




春楓 ああ、無事、受かってたよ




 春楓は慶生大に無事受かったのだ。私はその事にとりあえず安堵する。




春楓 楓も、慶生大に受かってたみたいだ




さくら うん、そう




 私はその報告に、ちょっと衝撃を受ける。そういえば、楓も慶生大志望なのだ。私は春楓と楓が何か仲良さそうにしているので、大学も同じ大学に行くという事は春楓と楓の仲が良くなって、春楓、私の事なんか忘れてしまうんじゃないかな、と不安になる。




 春風高校、卒業式。小中高と通った春風学園ともいよいよお別れの時。春の桜は、春風高校でも蕾がやや咲いていて、春風高校は桜の桃色の雰囲気を纏い、私達のお別れに花を添えていた。


 卒業式の進行は涙ぐむ生徒もいる中、何とか進んでいき、無事に終えることができた。


私達八人は、高校の卒業式後も、打ち上げをする事にしていた。


「ついに卒業式終わったな」


 健大が卒業を振り返る。


「いよいよ、このメンバーもバラバラになるな」


 優樹は皆の最後の集いになるなと別れを惜しむ。


「そうね、最後くらい、皆ではしゃぎましょう!」


 百合は高校生の最後に羽を伸ばそうと皆に告げる。


 私達は、複合型エンターテインメント施設セカンドワンに行き、ボウリングやサッカーや野球の的当てなど、様々なゲームを楽しんだ。そして、休憩の食事タイムの時、私は春楓に話をしに行った。


「春楓、ちょっと頼みたい事があるんだけど……」


「えっ、何?さくら」


 春楓に頼みたい事……私は、思い切って春楓に話してみる。


「五年置きに街の公園で会うっていう、あの約束あるわよね」


「あっ、うん」


 私は春楓に言ってみた。


「今年も、街の公園で四月五日に会えないかしら?五年置きではないけれど……」


 春楓は「うん」と言ってから「分かった、今年の四月五日も街の公園で会おう。午後二時でいい?」と了承し聞いてきた。


「うん、いいわ。それで大丈夫」


 私は春楓にそう答えると、私達はまたセカンドワンでのひと時を楽しんだ。




 四月五日、私は午後二時までに街の公園に行った。春楓はまだ来ていないようだ。


(今日は、春楓に……私達が、バラバラになる前に……)


 私は春楓に私の秘めた思いを伝えようと思い、心の中で春楓という存在と私自身に真剣に向き合っていた。


 そして、春楓は来た。……でも、一緒に付いてきたのは……。


(――楓……!)


 春楓は楓と何か話していると、楓は公園の隅に留まり、私の下にやって来た。私は「春楓」と名を呼び、春楓は「さくら、お待たせ」と言って街の公園の一番大きな桜の前のベンチに座る。


「春楓、あれ、楓じゃない」


 私は春楓になぜ楓と来たのか疑問をぶつける。春楓はこう答えた。


「楓には、いつもお世話になっているから」


 私は「ふ~ん」と答えて、その後ちょっと沈黙が流れる。しばらくして、私は話を切り出した。


「私と春楓、違う大学に行って、バラバラになるわね」


 私は春楓に寂しさを伝えた。春楓は何故か気丈に振る舞う感じでいた気がする。


「違う大学に行っても、俺達は心は一つだ、って思う」


 私は春楓に「ねぇ、春楓」と名を呼んだ。私は、遂に春楓に想いをぶつける。


「私、春楓の事が好き、ぜひ、付き合ってほしい」


 春楓は私の告白に少しだけ驚いた風にしていた。春楓から出た言葉は、こうだった。


「さくら、俺も、さくらの事……」


 私はその後の言葉を期待したが、春楓はこう私に告げた。


「俺の想い、さくらにいつか話したいんだ。二十歳になったらまたここで会おう」


 春楓はそう告げて、その両手で私の両手を握ってきた。


「なに?」


 私はそう聞いたが、春楓はこう私に告げた。


「離れても、LINEするよ。さくらは、俺の大事な人だから」


 春楓はそれだけ言った。そして、「ごめん、またね」と言ってその場を離れようとした。私が、「春楓、返事は!?」と言ったが春楓はこう言った。


「その答えは、あの日から、二十年後だから!」


 そう告げた。そして、「またね」と言って、街の公園を離れていった。


(春楓……どういう事なの?教えて、春楓……)


 私はその場に佇み、夕方になるまで街の公園に居た。夕焼けが桜をその桃色からオレンジ色に染めていた。その後私は家に帰った。




 そうして、私は大学生への道を歩み出した。

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