さくらの想い 小学生
さくらの想い
小学生
ピンク色の花びらが、桜の木に彩りを添える様にその存在を主張して生まれる。わたし、さくらは、この季節がやってきたなと桜の木を親しみを込める様に見つめる。この季節は、冬が終わり春がやって来た象徴の様に、桜が咲く。私は春になると、私の名前「さくら」に込められた想いを考えずにはいられなかった。でもそれは心地の良い、春の陽光に照らされた様な気分の良くなるものだ。私は、春が好きだ。
「さくら~、なに考え事してるの?」
私が春の気分に浸っていると、友達の
「さくらは名前の通り春が好きなのよね、さくら」
小学校を四年も通っていると、学校に通う事は既に日常になっている。私は三月の卒業、進級の月にも、友達と仲良く付き合えている事が嬉しく思えた。私に話しかけてきた友人、
「そうね、桜が咲いて、何だか嬉しくなってたわ」
桔梗がふふふっと笑う。私もニコッと微笑む。
「なにおばあちゃんみたいな事言ってるのよ、私達まだ小学生よ」
「いいじゃないの、こんなに春の陽気が気持ちいいんだもの」
私はこの春の気持ち良さを分かってほしくて素直に答える。百合も「ふ~ん」と頷く。
――私達四人は仲良し四人組で通っている。小学校四年間一緒のクラスで、雰囲気が良くなるからか毎回一緒のクラスになる。先生達も気を使ってくれてるのかな?私達はいつも仲良く友達付き合いしている。
「おお、フラワーズ、また群れてるな、楽しいかー?」
「なによ
優樹が茶化す様に話しかけてくる。百合はなによと茶化された事に反応する。でも、いつもの事だ。優樹も百合もそんなに気にしないで話をする。
フラワーズ。そう、私達女子四人はフラワーズという別名で呼ばれている。私、さくらに牡丹、桔梗、百合。花の名前の女子四人が集まってフラワーズ。いつも仲良くしていて名前がみんな花の名前だという事で、いつの間にかフラワーズという別名が付いていた。私達四人はその別名を嫌がることなく素直に受け入れていた。
「フラワーズ、今日も仲良いな……ところでさくら、明日修了式だな……来年度が来て、五年生になってもよろしくな」
春楓が話しかけてきてくれた。――春楓とは幼馴染だ。私は、春楓の事が幼い時からちょっと気になっている。一緒に居る時間が長いからか、いつも気にかけてくれている春楓を私は素直に好きだと自覚している。――春楓とは、素直な自分でいられる。
「そうね、春楓!新学期になってもよろしくね、またクラスが一緒だったらいいな!」
春楓と優樹とも、一年生から同じクラスで過ごしてきた友達だ。特に私は春楓とは、物心着いた時には一緒に居たぐらい前からの付き合いなので、一緒に居ることの方が普通だ。
「ところでさ、職員室に行ったときに先生達が話してるのを聞いたんだけど、新学期から転校生が来るらしいよ」
私達一年生から同じクラスのもう一人の仲間、
「へぇ、どんな子が来るのかしらね、楽しみだわ」
「まぁ、男の子でも女の子でも、そのクラスに打ち解けられるといいわね」
百合も転校生の話題に乗ってくる。
「俺はこのクラスの仲間達と楽しくやれてればいいよ。その上で転校生と仲良くできればいいな」
春楓は今の仲間達がお気に入りのよう。目をすぼめて愛しむ様に私達を眺める。私は春楓に聞く。
「春楓、今の仲間の私達が良いのかな?」
春楓は「ふふ、まぁな」と答えた。
「さぁさ、明日は修了式だし、放課後もいい時間帯だからそろそろ帰らない?」
「そうだな、おやつも食べたいしな」
桔梗が皆を促して優樹が賛同する(おやつを食べたいだけかもしれないけど)。
明日の修了式、きっと綺麗な桜色に包まれて行われるんだろうな。
春風に包まれて、桜色の修了式が行われた。私達四年生には、あと二年、小学校での生活が残っている。小学生としての生活を楽しむ中、一年毎に進級していく事にも慣れっこになっているけれど、一年一年をしっかりと過ごしていく事を、私達は大事にしていかなきゃな、と感じる。
ここ春風はるかぜ小学校は、都心から少し外れた郊外に建っていて、この小学校の桜は毎年三月中旬~四月上旬位まで咲いている。修了式のあったこの日は、桜も満開で、私達は正に桜の花の如く綺麗な彩りを放つ小学生としてきっと輝いているのだろう。その日の修了式は、春の陽光に照らされた清々しい雰囲気で行われ、幕を閉じた。
「修了式、終わったわね。これで四年生ともお別れか」
「まだ春休みがあるじゃない、明日から休みだ~」
「私達の小学校とも一時お別れね」
桔梗と百合と牡丹が春らしい話題をしている。私は「ふふふ、そうね」と頷いた。修了式の帰り際なんて、なにか春色のウキウキするような幕引きの様で、ちょっと嬉しくなる。
「これからどうする?お金あるならファミレスでも寄ってく?」
「俺はパ~ス。ちょっと、お金……ない」
「皆がいいなら寄ってくけど、健大パスなんだろ?」
優樹と健大と春楓が修了式後にどうするか話している。
「そうねぇ、コンビニでお菓子とかご飯買うぐらいなら皆大丈夫なんじゃない?」
桔梗がアイデアを出す。総員「さんせ~い」と話が決まった。健大も「コンビニでご飯ぐらいならいいかな。ファミレスじゃ、食べ過ぎるし」と賛同している。
修了式、両親や保護者が同席している生徒がほとんどで、一緒に帰る生徒も多いが、私達七人は家も近いし、もう四年生ということで仲の良い友達同士で帰りを共にしていた。
私達は日中、普段ならまだ授業を受けている時間に帰り足で外を歩いていることに気持ち良さを感じながら、七人での時間を楽しんだ。
春休み、私のスマホが鳴ると、春楓からLINEが入っていた。私の両親も春楓の両親もデジタルツールには寛容で、私達は小学生からスマホを持っていた。ちょっと頼みたいことがあるという。私は春楓に返信する。
さくら 頼みたい事ってな~に春楓
春楓 さくら、四月五日の午後二時に二人の家の近くの街の公園に行かない?
さくら 街の公園?桜の名所の?
春楓 うん、そう
私は春楓の誘いが嬉しかった。もともと春楓の事を意識していた私は、春楓の誘いに乗ることにした。
さくら 分かった、行くわ!
春楓 うん、ありがとう。じゃあ当日午後二時に来てね!
春楓に行くと返事をして、私達の約束は交わされた。
四月五日午後二時、私は家の近くの桜の名所の街の公園に着くと、もう既に春楓が先に着いていた。桜の名所である街の公園は、学校の桜より咲くのが少し遅く、例年だと三月下旬~四月中旬まで咲いている。この日桜は満開で、修了式よりも暖かな陽光が街の公園に降り注いでいた。とても気持ちのいい春の日だ。
「春楓、お待たせ。今日は何か用?」
「用っていうか、さくらに会いたくてさ」
春楓がドキリとするようなことを言う。内心嬉しいんだけれど、ちょっと黙ってしまった。
「俺の名前、春楓。好きなんだけど、ちょっと女の子っぽいのが玉に傷なんだよな。さくらは純粋に桜の木から取ったみたいで、いい名前だよな」
春楓は名前の話をし始めた。私も名前には思うところがあるので話してみた。
「私も、自分の名前が好き。でも何で平仮名なのかなって思うわ。漢字でも良かったんじゃないかななんて、よくいつも思うわ」
「ふふふ」と私が笑う。春楓も「へへっ」と笑ってみせて、私達は笑顔に包まれた。公園に来ている人たちが、私達を見て微笑ましそうにしている。私は春楓と一緒の時間をより楽しもうと飛び切りの笑顔を振りまいた。
春楓が何か言いたそうにして切り出してきた。
「さくら、五年前もここに来た事、覚えてる?」
春楓の問いに、私は自分の記憶の糸を辿った。
「五年前?春楓とは何度か街の公園に来てるけど、いつだったかしらね」
「五年前の桜の季節だよ」
私は記憶を掘り起こしたけれど、いまいちピンと来なかった。春楓はちょっと残念そうにして諦めたが、私にこんな提案をしてきた。
「ねぇさくら、今から五年置きに、四月五日、ここで会わないかい?」
「えっ、五年置きにここで?」
「本当は、三月二十七日が桜の日らしいんだけれど。五年置き、四月五日に会いたいんだ」
春楓と一緒に五年置きに街の公園で会う。必ず出来るか分からなかったけれど、春楓と約束して会うのは凄く嬉しいので、私は「う~ん、そうねぇ~」と言ってから、こう返事をした。
「分かったわ。五年置きに四月五日、ここで会いましょう、春楓」
「うん、ありがとう!約束」
春楓が指切りを求めてきたので、私は春楓と指切りげんまんを交わした。
「約束」
私達の指と指は大切に交わされて、二人は笑顔を分け合った。春の陽光の光が街の公園の一番大きな桜の花びら達を透き通り、ピンク色の木から溢れる光も私達を照らしていた。
始業式、私達は校庭の桜の散り際の頃、五年生としての自覚と芽生えを意識しながら、新しい門出に思いを乗せて今年のスタートを切った。始業式の凛とした雰囲気に包まれて、厳かに式が進まれる中、始業式が終わりピンとした空気から解放されると、私達は親友達との再会を喜んで、わいわいがやがや賑やかに話をし始めた。
五年生のクラスが分かると、私達七人はまた同じクラスな事を喜んだ。牡丹は「またみんな一緒のクラスね!皆よろしく!さくらもよろしくね!」と皆と私に喜びを伝えた。
「はいは~い、皆静粛に。転校生を紹介しま~す!」
先生が転校生が来た事を告げて、皆を静かにさせる。
「転校生、うちのクラスだったな」
「情報早かったな、健大。感心だよ」
健大と春楓が噂の転校生について語る。先生は転校生をクラスに入れると、皆がざわざわとする例の雰囲気が流れる。
「はい、皆さん、転校生の方です。自己紹介お願いね」
「転校生の、
その転校生は、ふわふわのセミロングの髪に、凛とした眼と整った顔立ち、白い色のワンピースを着てピンクのスニーカーを履いているおしゃれさん女子だった。
みんなが「かわいい~」と楓ちゃんを褒める。本人も満更ではないようだ。
「じゃあ、楓さんは春楓君の隣の席が空いているからそこに座ってね」
楓ちゃんは春楓の隣、私の前の席に座る。皆に「よろしくね」と言って楓ちゃんは席に着いた。
その日、始業式があって帰りが早かった日。私達七人は楓ちゃんに話をしようと教室の窓際で楓ちゃんを取り囲んでいた。
「どこの小学校から来たの?楓ちゃん可愛いね」
「何で春風小学校に転校してきたの?」
優樹と健大が矢継ぎ早に楓ちゃんに質問する。楓ちゃんは落ち着いて答えた。
「前の小学校は、桜ヶ丘小学校っていう所にいたの。春風小学校には、お父さんの転勤で来ることになったのよね。ふふふ、可愛いって、ありがとう」
優樹と健大が楓ちゃんにデレデレしている。楓ちゃんは慣れっこの様で楽しそうに笑っていた。春楓が何かに気付いたようで喋り出した。
「楓ちゃんの名前『楓』って事は、ここにいる女子たちの名前さ……」
すると牡丹も何かに気付いたようで喋り出した。
「私達の名前、私が牡丹、この子が桔梗、この子が百合、そしてこの子がさくら。花の名前だから、フラワーズって呼ばれてるの」
「おお、そうか」と歓声が上がる。桔梗が「それなら」と楓ちゃんに話しかける。
「楓ちゃんも入れてフラワーズ、五人組にならない?うん、それが良いわ!」
私も「わぁ、それが良いわ」と賛同する。楓ちゃんは「ふふ」と笑ってこう答えた。
「ありがとう、皆。私も転校してきたばっかりで友達が出来るか不安だったの。面白そうね、フラワーズ。ぜひ私も入れてほしいわ」
皆がわぁ、いいなぁ。楓ちゃん素直でかわいいと褒め称えた。ただ、百合が何かに気付いた様で申し訳なさそうに喋り出した。
「ところでさ、楓ちゃんの名前、『楓』だと、花じゃなくて木じゃない?フラワーズだよね」
「あっ」と一瞬間が合った。でも桔梗が「それはそうだけどさ」と言って、こう付け加えた。
「さくらの名前も木だから、いいんじゃない?」
私は自分で「あっ」と声を漏らした。そういえば桜は木だ。桜の花があまりにも綺麗で目立つので『フラワーズ』にいることが当たり前だった。
「そうよ、そうよね!さくらも名前が木で、楓ちゃんも木で。フラワーズに入っていてもいいわよね!」
牡丹が肯定的に捉えてくれる。春楓が自分の事を話したそうに喋り出した。
「俺の名前、春楓にも、『楓』って字が使われてるんだけれど、楓って春に花を咲かせるみたいだよ。桜の花も春に花を咲かせるし」
春楓の話に「じゃあ、決まりね」と一同が意見を一致させる。桔梗が話をまとめた。
「じゃあ、楓ちゃんは、『フラワーズ』に入ることが決定ね!よろしくね、楓ちゃん!」
話がまとまり、楓ちゃんも「よろしくね、フラワーズの皆、男の子達」と嬉しそうにしていた。百合は「もうあなたもフラワーズね」と激励した。春の陽光は、桜の散り際の花びらが舞う中、春風小学校を照らしていた。
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