君がいるから俺がいる

縦槍ゴメン/高橋悠一

一日目 男は誰もいないところで泣きたくなる

 パンパンッ!


 墓地に手をたたく音が響いた。


 「こら、お墓では手をたたかないの。手を合わせて合掌するだけでいいんだよ」


 「はーい」


 お母さんから注意されながら返事をした3歳くらいの少女は両手を合わせた。


 「じーじ。げんきですか? はなはねぇ、まいにちたのしいよ。このまえもねぇ・・・ 」


 少女はお母さんの隣でお墓に向かって喋りかけた。


 「よし、じゃあ行こうか」


 「うん! またね、じーじ」


 二人は立ち上がりお墓を後にしようとした。


 「ねぇ、はな。もう一つお参りしたいところあるんだけど、行ってもいい?」


 「いーよ。けど、だれのおはか?」


 「それはねぇ・・・」




  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 「お兄ちゃーーん。朝ごはんできたよーー」


 「ああ、今行く」


 俺の名前は山崎亮哉やまさきりょうや。自分で言うのは何だが、身長は170後半で顔も悪いほうではない。そして県内の公立高校に通う高校三年生だ。両親を中学生のころに亡くし、頼れる親戚もいなかったので今は妹の梨花りか(高校一年生)と二人で暮らしている。先週、学祭があり、振替休日明けの火曜日の今日から普段通りの学校がスタートする。


 「お兄ちゃん、早くしないと学校遅れるよ。私、委員会だから先行ってるね。行ってきますお母さん、お父さん」


 「うん、行ってらっしゃい」


 妹は棚に飾ってある両親の写真にあいさつし、俺は玄関で靴を履きながら返事をした。そして、靴紐を結び終わって


 「よし、じゃあ行きますか。行ってきます」


 俺は家の戸締りをしっかりして学校へと向かった。





 「おはよー」


 『おはよー』


 学校へ到着した俺は自分の席に着くと同時にチャイムが鳴った。そして、先生が入ってきて朝のHRが始まった。


 「えーーまずはみんなこの前の学祭お疲れ様! 特に体育祭のリレーな。みんな一生懸命頑張っててとてもよかったぞ。しかも優勝まで出来てな。いやーみんなお疲れ様」


 先生は嬉しそうに学祭の話をした。ちなみにこの先生は斎藤一さいとうはじめっていう少しぽっちゃりな男の先生である。三年間担任をしてくれているので結構親しい仲?と思っている。


 「で、まずは1、2時間目で全校集会やら表彰やらがあるから、この後体育館に行くように。そしたら今日はみんな分かっている通り片付けがある。3、4限は体育祭の片付けをしてもらう。みんなの割り当ては後で黒板に貼っとくから確認するように。次に昼休み挟んで5,6限は文化祭で使った場所の掃除だな。これも同じように割り当ては黒板に貼っとくから。じゃあこれでHRを終わるな」


 毎年恒例とはいえ、疲れるんだよな。これが。


 「よお、亮哉りょうや! え、お前顔死んでるぞ。昨日ちゃんと寝たか。」


 「うっす、和真かずま。おはよう。ちゃんと寝たぜ。ただ、この後が疲れるなって、、」


 「あー確かに。あの校長。確か大久保おおくぼだっけ? 無駄に話し長いんだよな。おかげでけつが痛くなるわ」


 「それな、話さえなければいいのに。まじぴえんだわ」


 「りょうちゃーんやっほー。あれ、元気ないね。あーこの後のことで憂鬱になってたんでしょ。りょうちゃんらしいね」


 「おはよう、陽菜ひな。お前こそいやだろあれは」


 「まぁね」


 「お二人さん、お熱いところ申し訳ないんだけどそろそろ行こうぜ」


 「そうだな」「そうだね」


 俺に話しかけてきた爽やかそうなイケメンは山田和真やまだかずまっていう中学校からつるんでる親友的な存在だ。そして、茶髪でめちゃくちゃかわいいのが俺の彼女こと吉田陽菜よしだひなだ。陽菜ひなは小学校から一緒で、中学校の頃に付き合い始めた。


 そして俺らは学祭のことを話しながら体育館に向かった。




  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 




 「えーであるからして、こうであるから、あーであったり、こーであったりするわけですね」


 「あーくそ長げぇな校長早く終われや」


 「和真かずま、声でかいって。バレる」


 「やっべ、声に出てたかw まぁ大丈夫だろ」


 「何してんだかw」


 しかし、ほんとに長いなかれこれ20分は経ったぞ。なのに終わる気配ないとかどうなってんの。


 俺は半ばキレつつ校長の話を耳から耳へ流しながら時間を過ごした。



 「ふーやっと終わったーー。あとは片付けという名のサボりタイムだ。な、亮哉りょうや


 「お前、そんなこと言ってたらまた、先生に怒られるぞ」


 「まあそうならないようにちゃんとしてるように見せつつ手を抜くさ」


 「お前なぁ、まあ俺もするから人のこと言えないけどなw」


 「ちょっと、ちゃんとしなよ。それで終わるの遅れたら二人には責任とってもらうからね」


 『へいへい』


 俺と和真かずまが二人でふざけているのを陽菜ひなが見てツッコんでくる。恒例行事みたいなものだった。毎日がこんな感じでとても楽しくずっとこのままでいいのにと思っていた。







 まさか終わってしまう日がすぐに来てしまうとは





 この時はまだ誰も思っていなかった。







 俺たちはクラスメイトと一緒に体育祭の片付けを行い、昼休みを迎えた後、文化祭の掃除に取り掛かった。


 あと、終わってないのは教室の掃除くらいかな。これならもう終わりそうだな。


 みんなで掃除したので思った以上にスムーズに進んだ。そして、教室の掃除ももうすぐ終わりそうだった。


 「雑巾し終わったから、もう机下げていいよ」


 「「はーい」」


 やっぱみんなでやった方がすぐに終わるな。もっと時間かかると思ってたのに。


 「山崎やまさき。帰りのHR終わったらちょっと職員室来い」


 「え、あ、はい」


 あれ、俺なんかしたかな。怒られるようなことしてないと思うんだけどな。片付けもちゃんとしたし、、 しかし優しい感じで言われたものの、やはり先生から呼び出されるのは怖いものがあるな。


 そして、掃除は終わり6限の終わりのチャイムが鳴った。


 「みんな席についてるな。じゃあ今から帰りのHRを始めるぞ。今日はみんなが頑張ってくれたおかげで掃除もスムーズに進んで早く終わることができた。お疲れ様。明日からは普通に授業も再開するけど、学祭ムードはもう今日で終わりな。明日からは受験モードに切り替えてしっかり勉学に励むように。はい、じゃあこれで帰りのHRを終わる」


 クラスのみんなは席を立ち、帰りの準備を始め帰ろうとする者、部活に行く者様々だった。和真かずまもサッカー部ということもあり部室に向かおうとしていた。ちなみに、俺と陽菜ひなは部活には入ってない。俗に言う帰宅部というやつだ。


 「りょーちゃん帰ろうか」


 「わりぃ。この後先生から呼び出されててさ、長くかかるかもしれないし先帰ってていいよ」


 「いいけど、なんか悪いことしたんじゃないww」


 「してないわw とりま行ってくるよ。またね」


 「うん、またね」


 俺は陽菜と別れた後、職員室へと向かった。


 「失礼します。三年五組 三十号 山崎亮哉やまさきりょうやです。斎藤さいとう先生に用があってきました。失礼します」


 職員室入るときに毎回これ言うのも疲れるな。誰だよ作ったやつ。


 俺はそれに不満を思いつつ、先生の席へと向かった。


 「おお、来たか。まぁとりあえずそこ座れや」


 「は、はい」


 俺はそう言われ先生の前にあった椅子に腰かけた。


 「まぁ話っていうのは進路のことでだな。お前の場合ご両親は他界されてるし、親戚の方々もいないだろ? それでこれから先、書類と書くにあたっての保証人などをどうしようかって話だ」


 「あーなるほど。確かにサインとかハンコやらいりますもんね」


 話は進路のことかー。よかった怒られることじゃなくて。


 この後そのことについて、しばらく先生と話し合った。そして、気づけば五時を回っていて、帰ったか、部活やらで周りに他の先生の姿はなかった。


 「悪かったな。長い時間話して」


 「いえ、俺にとっても大事なことですから。じゃあこれで失礼しますね」


 「おう、じゃあ気をつけて帰れよ」


 「はい、さようなら」


 よし、帰るか。しかし座りっぱなしも疲れたな。


 俺は席を立ち職員室の入り口へと歩き始めようとした。が、


 あれ、足が前に出ない。帰ろうと思ってるのに。え、なんで。


 俺の体は言うことを聞かず、体は動かなかった。そして、体は前へと倒れた。


 ほんとどうしたんだ。体が全く動かない。


 「おい、大丈夫か!おい!亮哉りょうや。しっかりしろ」


 先生が俺の近くに駆け寄ってきて、俺にずっと語り掛けてくれていた。


 やばい、意識も朦朧もうろうとしてきた。俺死ぬのかな。やばい、もうむり だ。






  そして俺の意識はなくなった。






  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ん、あれ、ここはどこだ。確か学校で倒れて、、うぅ頭が痛い。何があったんだ


 「おお、よかった。起きたか。一応ここは病院だ。あの後病院へお前を連れて行った。とりあえず、お前の妹さんには貧血ということだけ伝えてある。俺は起きたことをお医者さんに伝えてくる」


 先生はお医者さんに伝えに部屋を出て行った。


 あぁそうか。生きてるのか、、よかった。けどいったい何があったんだろう。今、体は何ともないし。まじでどうしたんだろ。


 俺は自分に起こったことが何なのか考えていると部屋にお医者さんと先生が入って来た。そして、先生は入口らへんに立ったまま、お医者さんは俺の隣に座って


 「えっと亮哉りょうや君。まずは、意識が戻って何よりだ。君の体に起こったことだが、筋萎縮性側索硬化症きんいしゅくせいそくさくこうかしょうというものです。これは手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害をうけます。その結果、脳から“手足を動かせ“という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉がやせていきます。その一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。ただ、普通の人なら段階的に症状が進んでいくのですが、君の場合は特殊でいきなり大きい症状が出ています。このような症例の人はごくまれにいるんですが、そのほとんどは七日後には体は動かなくなり最後は呼吸できなくなり亡くなっています」


 「え、それは、つまり。え、」


 俺は頭の回転が追い付かなかった。お医者さんから言われたことは分かった。自分どういう病気なのか、、けどそれ以上は理解ができなかった。いや、理解はできても納得はできなかった。


 「亮哉君。あなたの余命は後七日になります。つまり来週の月曜日 あなたは死にます」


 その事実を突きつけられたとき俺の頭は真っ白になり何も考えることができなかった。


 「大変悲しいことですが、こういった症例の方達は、六日間は症状が出ないことが多いことが多いです。なので、残り六日は普通に過ごすことができます。それと、もう体の方の症状は治まっているので今日は帰ってもらって大丈夫です。では」


 そう言ってお医者さんは部屋を後にした。それと同時に先生は俺の近くに寄ってきて


 「このことを誰かに伝えるかどう伝えるかはお前が決めろ。ただ、お前が困ってるなら俺はいつでも相談に乗るし、お前のためにできる限りのことはしてやるつもりだ。だからそのなんだ、いつでも頼ってくれ。俺は外で待ってるから」


 そう言って先生は部屋を出て行った。そして部屋に俺一人となった。


 俺、死ぬのか。今までそんなこと考えたことなかった。そっか死ぬのか。




 クソッ! なんだよ。なんで俺なんだよ。なんで俺が死ぬんだよ。今日まで楽しく生活してきて。なんで、なんで、なんで、なんで、なんでこんなことに、、、


 俺は涙が止まらなかった。今までの生活がいきなり終わるとか信じられなかった。泣き続けた。ただそれだけを続けた。



 しばらく経っただろうか。窓の外はしっかり暗くなり時計は八時を過ぎていた。


 「よし!」


 俺は自分の顔を両手で叩き、ベットから起き上がって部屋を後にした。とりあえず病院を出ようと受付のところまで行くと先生が待っていた。


 「おう、少しは整理がついたか」


 「まあ言われたことには納得したつもりですかね」


 「今日はもう遅いし、送ってやるから帰るぞ」


 俺は先生と病院を出て先生の車に乗った。そして帰路で


 「先生、俺このことはできるだけ他の人には言わないようにしたいと思います。周りの人たちには今まで通り接してほしい。そう思うんです。今までの楽しい生活が最後まで続いてほしい。それじゃあだめですかね?」


 「いや、お前がそれでいいならそれでいいんじゃないか。お前が決めたことだ。ただ、あいつらは伝えたとしても同じように接してくれるんじゃないか」


 「そうかもしれません。けど、あいつらに伝えたら今の関係が壊れる。今までの生活が崩れる。そんな気がするんです。だからできるだけ伝えないで行こうかなと」


 「そうか」


 俺の目には涙が流れていた。先生は俺の顔を一回見た後、前を向いて返事をした。その後、俺の家に着くまで静かに車で過ごした。



 車は家につきガチャとドアを開け俺は車の外に出た。


 「今日はありがとうございました。では、先生また明日」


 「おう、じゃあな」


 俺は車のドアを閉めた。そして、車は道を走っていった。俺は車が見えなくなるまで玄関先で車を見届けた。



 一人になった車の中で先生は窓を開け煙草に火を付けそれを咥えた。





 亮哉りょうや、お前が一番つらいかもしれないが、伝えられない側も同じようにつらいんだぜ






  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺は、涙の跡が見えないように顔を拭き、家に入った。


 「ただいま」


 「おかえり、お兄ちゃん大丈夫? 貧血って聞いたけど何ともないの?」


 「ああ、なんでもお医者さんからは頑張りすぎだそうだ。まあお兄ちゃんまじめだからなるべくしてなった的な」


 「何言ってるの。頑張った結果、周りに迷惑かけたら意味ないでしょ。ふざけたこと言ってないで手洗ってきて。ごはん温めるから」


 「はいはい」


 俺は妹にばれないように噓をついて話した。これが一番いいとそう思っていたから..


 そして家に帰ったのも遅かったこともあり、ごはんを食べ終わった後はすぐに風呂に入り、部屋に行った。


 これでいいんだよな。これで。よし、明日からも学校頑張るか。


 そう思いベッドに入り寝ようとしたが、


 「あれ、なんで」


 気づいたら涙が流れていた。そして涙を枯らすまで声に出さず







    俺は泣き続けた。

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