第91話 痴女襲来


「マルクちゃーん、寝てるのかしらー? 寝てるなら勝手に入るわねぇー」


 扉の向こうから聞こえてきたのは、いつもより上機嫌なカーミラの声だった。


「あれ開かないわ」


 ドアノブをガチャガチャしながら、そう呟くカーミラ。


「鍵かけといてよかったわ……」とフェナ。


「………………っ!」


 様子のおかしいカーミラに身の危険を感じたマルクは、口を塞がれたまま恐怖で震えていた。


「仕方ないわねー……」


 やがて、カーミラはそう言うと、扉の前に立ったままカチャカチャと音を立て始める。


「な、何をするつもり……?」


 フェナが呟いた次の瞬間、ガチャリという音と共に扉が開き始めた。


「おじゃまするわねーん」

「そんな……嘘でしょ……!」

「あら、先客が居たの? マルクちゃんは渡さないわよぉ?」


 カーミラはそう言いながら、楽しそうに笑う。


「カーミラさん……いつもと様子が違いますけど、大丈夫ですか……?」


 フェナの手をさりげなくどけて、恐る恐る問いかけるマルク。


「アタシはいつもこんな感じよ? ――そんなことよりおち●ち●吸わせなさいマルクちゃん」

「ば、ばっかじゃないのあんた! 子供に何てこと言ってるわけ!?」


 フェナは顔を真っ赤にしたまま、マルクのことを自分に引き寄せ、後ずさる。


「あの、僕はもう子供じゃありません」

「こんな時に冗談言ってる場合じゃないでしょっ!」

「冗談じゃないのに……」


 マルクはしょんぼりした。


「それにしても…………思った以上に深刻なことになってるわね。完全に痴女じゃない……!」

「――考えてみたら、カーミラさんはいつもあんな感じだったかもしれません……」

「あんた……関わる相手は選んだ方がいいわよ」


 フェナは、思わずそう忠告する。


「――あらあら、さっきから何の話をしているのかしら? ほらマルクちゃん、アタシのおちちも吸わせてあげるから、こっちへいらっしゃい?」

「うぅ、助けて……」


 振り返り、フェナの目を見て助けを求めるマルク。


「――――わかったわ」


 フェナはそう答えた後、マルクをかばうようにして前へ歩み出た。


「ここは私に任せて、逃げなさい」

「フェナさん……でも……!」

「あの人の狙いはあんたよ。足止めは私にしかできない」


 カーミラのことを睨みつけるフェナ。


「怖いわねぇ、一体二人で何の相談をしているのかしら?」

「さあ、何かしらね……ッ!」


 その時、フェナは一瞬の隙をついてカーミラへ飛びかかった。


「いやんっ!」

「今よ! とにかく逃げなさいマルク!」

「わ、わかりました。無事でいてくださいっ!」


 フェナに大声で指示されたマルクは、一瞬だけためらいながらも、迅速な判断で部屋から飛び出した。


 冒険者生活で培った経験の賜物である。


「誰か助けを呼んできますっ!」

「ダメよ! 今日一晩はどこかに隠れてなさい!」


 フェナは走り去るマルクに向かって叫んだが、残念ながらその声は届かなかった。


「…………ちっ! まずいわね……!」

「――まったく、その程度の力で、本当にアタシを押さえていられると思っているのかしら?」

「きゃあっ!?」


 次の瞬間、フェナはあっという間にカーミラに床へ押し倒されてしまう。


「形成逆転ね」

「く…………っ!」

「マルクちゃんも居なくなっちゃったことだし、仕方ないからあなたで我慢してあげるわ」

「……え?」


 カーミラは鼻歌を歌いながら、慣れた手つきでフェナの服を脱がせ始める。


「な、何するつもり……いやっ?!」

「ちょっとしたマッサージよ。それと、デザートもいただこうかしらね料理長さん?」

「待って、どこ触って……あんっ!」


 体をのけぞらせて、嬌声をもらすフェナ。


「女の子はどうすると気持ちよくなるのか、色々と教えてあげるわ」

「や、やめてぇ……んんっ!」


 カーミラに耳元で囁かれ、体をびくりと反応させる。


「あっ……ぁぁ………いやぁっ……」

「お楽しみはこれからよ。せいぜい可愛い声でいてちょうだいね? ――小鳥ちゃん」

「馬鹿に……しないでッ! きゃあっ!」


 強がるフェナの首筋に、カーミラの牙が迫る。


 それから、フェナの一際大きな声が部屋じゅうに響いたのだった。


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