幕間 置いていかれた二人

「マルクさーん……ライムさーん……? どこへ行ってしまわれたのですかー……?」


 街中で、クラリスは必死にマルクとライムのことを探し回る。


「おかしいわね……確かにマルクちゃんが路地裏へ入って行くところを見たのだけど……」

「それなのに見失うだなんて、肝心な時に役に立ちませんね! まったく!」

「あら、あなたが言えたことなのかしら?」

「ぐぬぬ……それは……っ!」


 カーミラの反撃に対し、苦しそうな顔をするクラリス。


「おお神よ! かの者たちを見守ることすらできない愚かなワタクシをお許しくださいいいいいい!」

「…………一応、自覚はあるのね」


 カーミラは、苦笑いしながら言った。


「でも、謝るのなら先にアタシに謝ってほしいのだけれど」

「――あなたがマルクさん達を見失ったことは事実です。ワタクシも反省するのであなたも反省してください」

「まったく、可愛げのないコね」


 それからカーミラは、ため息をつきながら目を細めてクラリスの方を見た。


「じー」

「な、なんでしょうか?」

「もしかしたら、アタシ達置いていかれちゃったのかも。マルクちゃんに愛想を尽かされて」

「…………へ?」

「だって、役立たずが二人揃っているのでしょう? 愛しのお姉ちゃんの為に頑張っているマルクちゃんは、アタシ達に付き合ってるほどヒマじゃないのよ?」

「そ、そんなはずは……」

「絶対にないって言い切れるのかしら?」

「う、うぅ……!」


 カーミラに問い詰められ、クラリスは涙目になる。


「……まあ、冗談よ。何も言わずに置いていくなんて、良い子のマルクちゃんにできるわけないでしょう?」

「そ、そうですよね。当然です!」


 クラリスはそう言いながらも、内心ほっとした。


「……けれどね、アタシ、一つだけ気になっていることがあるの」

「今度は何ですか! 今はのんきに話をしている場合ではないのですよ?」

「まあまあ、そう言わずに、マルクちゃんならアタシ達が居なくても大抵のことならなんとかするわよ」

「で、ですが……!」


 カーミラの言うことはもっともだが、万が一ということがある。


 居ても立っても居られない様子のクラリスを制止して、カーミラは続けた。


「いいから答えなさい――どうして、聖女様ともあろうお方が、そこまであの子に執着するのかしら?」

「……え?」

「だってそうじゃない。あの子の魔力と血と精力をたっぷり搾り取ってあげたいアタシは別として、あなたがマルクちゃんにそこまで執着する理由はないはずでしょう?」

「目の前に最大の原因がいるのですが……」

「そう。……それじゃあもし仮に、アタシがマルクちゃんを諦めると言ったら、あなたも手を引くのかしら?」


 そう聞かれて、クラリスは答えにきゅうする。


「それは…………せめて目的を果たすまではお供させていただくつもりですが……」


 そして、よく考えた末にそう返答した。


「やっぱり、執着してるじゃない」

「執着だなんて……人聞きの悪いことをおっしゃらないでください! ワタクシはただ……不憫なマルクさんを救済してあげたいだけなのです……」

「その理由は? アタシはずっとそれを聞いているのだけれど」

「天使が……舞い降りたんです……」

「は?」


 クラリスの答えに、カーミラはきょとんとした顔をする。


「ワタクシは、聖女となったその日に神からお告げを受けとりました。『いずれ、あなたの前に天使が舞い降りる』と」

「ふうん……」

「しかし、ワタクシは聖女となったその日に、修道院の子供達を誘惑したことで追放されてしまいます」

「……!?」


 急展開に、まん丸と目を見開くカーミラ。


「旅の聖女となり失意のどん底にいたワタクシは、あてもなく各地を巡っておりました。西の町に美少女がいると聞けばそちらへ、北の村に美少年がいると耳にすればそちらへ、流されるままに……」

「あなた……どっちでもいけるのね……」


 クラリスは静かにうなずく。


「そして、美少年がいるとの噂に流されてこの町へ訪れた時、ワタクシはあなたに襲われているマルクさんのお姿を見てしまったのです。正直胸が高鳴りました」

「驚いたわ……むっつりどころかドすけべじゃない……」


 若干引き始めるカーミラ。


 しかし、クラリスはそんなことには構わず、顔を赤らめながら続ける。


「そして、ワタクシはすぐにぴんときました。――そう、マルクさんこそがお告げに示された天使なのだと!」

「たぶんそれ、お告げと性欲を履き違えているだけよ」

「……マルクさんが天使であるのならば、お守りするのが聖女の務め。だからこそ、ワタクシはマルク様のお側にいるのです! ……これで、わかりましたか?」

「なんとなく理由はわかったけれど……思考が何一つとして理解できなかったわ」


 カーミラは、目の前の聖女に恐怖心を抱きつつあった。


「……説明はすみました。早くマルクさんとライムさんを探しましょう。マルクさんが天使であるのならば、おそらくライムさんは天使見習いです! 二人ともお守りしなければいけません! はぁ……はぁ……ふへへ!」

「あなた、アタシよりヤバいやつじゃない……」


 妄想を爆発させるクラリスのことを見て、カーミラはようやく理解した。


 ――マルクちゃん達のことは、アタシが守らないといけないわ。


 そして、決意を新たにするのだった。

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