第25話 勇者パーティの崩壊 その9
「エルネスト……! 無事だったの!?」
「私はてっきり死んだのかと思ってたよ☆」
「俺はこの程度では死なない。勝手に殺すな」
エルネストはそう言いながら、小部屋の中を見回し腕を組む。
「――それで、これは一体どういうことだ? なぜゴルドムが倒れている?」
「いやぁ、これには色々と深いワケがだね――」
「今はそんなことどうでもいい。早くゴルドムを起こせ。町へ戻るぞ」
「……聞いてきたのは君の方じゃないか。……ボケナス」
「何か言ったか?」
「別に☆」
ルドガーは、ピースをしながら笑顔を作る。
「――――ッ!」
それを見て殺意が抑えきれなくなり、無言で近くの壁を殴りつけるエルネスト。削れた破片が、床にぼろぼろと落ちる。
「その行動、生産性な「黙れッ!」
「…………ごめん☆」
この期に及んで尚、失言を重ねるルドガー。
「ちょ、ちょっと待ってよ! それならあいつら――シリルとエイラはどうするの!?」
その時、リタがエルネストにそう問いかけた。
「ああ…………あの二人なら、俺の命を守るために尊い犠牲となった。今頃はケルベロスの腹の中だろう」
「そんな……!」
「シリルとエイラの死体は、一度町へ戻り態勢を立て直してから回収する」
一切悪びれる様子もなく、リタにそう告げるエルネスト。
「――質問はそれだけか? 済んだのなら急ぐぞ」
「待って!」
「…………今度はなんだ? さっきからやかましいぞ」
「町へ戻るのは賛成だけど、もうここには来ない」
「……それは、どういう意味だ?」
「ボク、このパーティを抜けるから」
エルネストがリタの発言を理解するまでには、少し時間がかかった。
「それ、今言っちゃうんだ……☆」
静寂の中で、ぼそりとそんなことを呟くルドガー。
「……すまない。よく聞こえなかった。もう一度だけ言ってもらおうか」
「ボク、このパーティを抜けるから!!!!」
「…………なるほど。それはなぜだ?」
「えっと……マルクを追放するようなパーティには『将来性』がないからッ!」
リタはエルネストへ向けてそう言い放つ。
「なるほど……『将来性』か……」
その言葉を反すうしながら、ゆっくりとリタへ近づいていくエルネスト。
「『将来性』……な……」
もう一度その言葉を口にし、深く息を吸い込んだ。
「ほざけこのメス犬があああああああああッ!!! 貴様のような奴はケルベロスとファックでもしてやがれええええええええええッ!!!!!!」
「えぇ……☆」
「『将来性』がないだと……? 思い上がるのも大概にしろ! 一体いつから貴様が『それ』を判断する立場になった? くだらないことをほざくな! 貴様のような下っ端は黙って俺に尻尾を振っていればいいんだよおおおおおおおッ!」
「わお……☆」
絶叫するエルネスト。
「うるさいっ!」
リタはその下腹部に重い一撃を叩き込む。
「ふぐぅッ!?」
「……前の仕返し。僕はルドガーとここを出るから、オマエも後は好きにしなよ。――それで良いよね、ルドガー?」
「わ、私は別にそれで構わないけど……でも、せめてダンジョン内ではまとまって行動した方がいいんじゃないかい……?」
ルドガーの問いかけに対し、リタは首を振る。
「大丈夫。ここ一階層だから特に危険もないし、すぐ外に出られるよ。さっき調べた」
「それじゃあ、出られたのにわざわざここへ戻ってきたのかい?」
「うん。みんなを助けに行こうと思ったんだけど……無駄だったみたい」
「ま、まあ……私は大変助かったけど……☆」
「――――そういう訳だから、ばいばいエルネスト。そこに倒れてるゴルドムと仲良く帰りなよ」
リタはそう言い残し、ルドガーを連れて小部屋を後にした。
残されたのは、激痛に苦しみうずくまっているエルネストと、小石にやられたゴルドムだけだ。
「ぐぅ……あの……クソアマ……!」
エルネストは恨めしげにそう呟きながら、ゴルドムの側へ這い寄る。
「おい……起きろ。……いつまで寝ているんだ……!」
「あ…………?」
エルネストに呼びかけられ、目を覚ますゴルドム。
「F**k! 頭が痛え……俺は……何をやってたんだ……?」
「……おそらく、思い出さない方が平穏でいられるだろう」
「Brother……あんたがそう言うならそうするけどよ……」
「――それでいい。さて、結論から話す。シリルとエイラは死に、リタとルドガーはパーティを抜けた。残ったのは俺とお前だけだ」
「へへっ、勇者パーティ崩壊ってわけか……that's too bad」
「全て振り出しに戻ってしまったな。これからはまた、ゼロベースで考え、行動しなくてはいけない」
「F**k……Holy shit……」
ゴルドムは仰向けになり、両手で顔を覆う。
「Shit……! あの時と同じってワケか……」
「ああ、そうだな。今の状況は俺が勇者として目覚める前――お前とクソみたいな掃き溜めの中でのたうち回っていた頃を思い出す。……最悪な気分だ」
「It’s f**ked」
「お前は相変わらず口が悪いな……」
エルネストは、そう言いながらゴルドムの隣へ倒れ込んだ。それからしばらくは、沈黙が辺りを支配する。
「なあ、ゴルドム」
やがて、エルネストがゆっくりと口を開いた。
「What's up bro?」
「俺は……俺たちは……どこで間違えたと思う?」
「……そりゃあ……Hmmm……あのガキを追放したところだろうな」
「…………イグザクトリー――お前の言う通りだ。確かに、マルクに対する俺の目は節穴だった。価値観をアップデートしたつもりになっていて、まったくアップデートできていなかった。……無様なものだ」
「fuck me……結局、俺たちは……テメェの力を過信していたあの頃から何も変わってなかったってワケか」
「ああ。――だが、次はもう間違えない」
「
「……………………あるさ」
「そうかい。なら俺はあんたについてくだけだ。幸い、カネには余裕があるしな」
「……例のプロジェクト、順調なのか?」
「ああ。後は売り飛ばす先を見つければ、かなり稼げる見込みだ」
「そうか。すまないな……」
「No problem」
「感謝する……」
そのまま、エルネストとゴルドムはゆっくりと目を閉じたのだった。
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