無能はいらないとSランクパーティを追放された魔術師の少年、聖女、魔族、獣人のお姉さんたちにつきまとわれる~今さら戻って来いと言われても、お姉さんたちが許してくれません! 助けて!~
おさない
第1話 パーティ追放
深夜、パーティのリーダーであるエルネストに呼び出されたマルクは、眠い目をこすりながら酒場の椅子に腰かける。
「…………それで、こんな夜遅くにどうしたんですかエルネストさん?」
テーブルを挟んだ向かい側には<勇者>の称号を持つエルネストが座っている。こんな夜遅くに、お酒を飲めないマルクを酒場へと連れてきたのだ。きっと重要な話があるに違いない。
ひょっとしたら、何か大人の階段を上るような体験ができるのかもしれないと、マルクは少しわくわくもしていた。
理由はわからないが、冒険者の多くは夜に眠らず、町のやたらと怪し気に装飾された建物が立ち並ぶ区画へと繰り出すのだ。きっとそこで、何か楽しいことをこっそりやっているに違いない。
本日十一歳の誕生日を迎えたマルクは、頭の中で楽し気な妄想を繰り広げていた。遅い時間に叩き起こされたせいで、上手く頭が回っていないのである。
「わかりました、エルネストさん。僕ももう大人です。どこへでもついて――」
「マルク。お前をこのパーティから追放する」
しかし、現実は非情であった。今まで繰り広げていた楽し気な妄想は一気に吹き飛ぶ。
「えっ……?」
マルクは、エルネストに追放を宣言された。先ほどの、どこかわくわくしたような気持ちはさっぱり消え失せ、今にも泣き出してしまいそうである。
「な、なんで……?」
マルクはエルネストが言っていることの意味が分からなかった。確かに、Sランクパーティのリーダーであり、<勇者>と呼ばれるエルネストには劣るかもしれないが、マルクも<神童>と称される天才魔術師だ。
今まで、冒険者として必死に名を上げ、このパーティに加入してからも、パーティメンバー全員のサポートを一生懸命頑張ってきたと自負している。それなのに突然、そんなことを言われて納得できるはずがない。
「だ、だって僕は今までパーティにこ――」
「黙れ」
反論しようとするマルクに対し、エルネストは冷たい視線を向けた。
「どうして天才魔術師の自分が追放されなきゃいけないのかって聞きたいんだろう? ガキが己惚れるなよ……舐めてると潰すぞ」
「ぼ、僕はそんなこと思ってません……!」
実際は少しだけそう思っていたが、マルクはむきになって否定した。
「確かに、お前は年の割には魔法が使える。……でもただそれだけだ。経験を積んだ優秀な魔術師には勝てない。俺たちのパーティに、お前みたいな中途半端な実力の奴は必要ないんだよ」
「そ、そんな……」
「ここ一年近く、お前の将来性に期待し、成長を見込んで使ってやっていたが、もう底が見えた。敵からマナドレインで魔力を奪い、それを味方に供給するくらいしか能のないお前は用済みだ。パーティメンバーの魔力量は、もはやおまえの魔力供給が必要ないくらい十分にある」
「う……うぅ……」
マルクが得意とする魔法の多くは中級魔法。確かに高威力の上位魔法やスキルを連発して短期に決着をつける戦闘スタイルであるエルネストのパーティにとって、魔法の威力が十分に出せないマルクはお荷物なのかもしれない。
「いい加減わかっただろう、俺たちのパーティにお前のような結果にコミットしない無能は必要ないんだよ」
「で、でも……僕はみんなについていこうって必死に努力して――」
「口答えするな!」
エルネストは、マルクの胸倉をつかんで怒鳴りつける。
「必死に努力した? 貴様のような無能はいつも決まってそう言うんだ。挙句の果てに自らの能力不足を世の中のせいにし、どうにもならないことに不平不満を垂れる。その歳でその性格とは……先が知れるなッ! クズめが!」
「あの、僕努力したとしか言ってないんですけ――」
「この期に及んでまだ何か言うつもりか? 役立たずの分際でつけあがるなッ!」
「ふ、ふえぇ……?」
理不尽に叱責されたマルクの視界は、涙でにじんで歪む。
「今日中に荷物をまとめて俺たちの前から失せろ。お前はもうパーティメンバーじゃない」
マルクは一方的にそう言い渡された後、床へ放り投げられた。
「お願い……しますっ……たくさん……お金が必要なんです……! もっと、もっと頑張りますから……見捨てないでください……っ」
しかし、マルクはそれでも諦めずに、エルネストの足へ縋り付いてパーティに置いてもらえるよう懇願する。
大金を稼ぐ必要があるマルクは、Sランクパーティを追放されるわけにはいかないのだ。それに、もうあまり時間もない。
「…………今度は泣き落としか? 生産性のないクズが。そんなに金が欲しいなら、金貸しにでも借りることだな」
エルネストは、マルクを足蹴にした。それから、何度も何度もマルクを踏みつけ、手の甲をかかとで踏みにじる。
「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」
――そんな二人を気に留める冒険者はどこにもいない。いや、正確に言えば皆気付かないふりをしている。<勇者>であるエルネストを止めに入ることのできる者など、この酒場に存在しないのである。
「…………チッ」
やがて、給仕がこのテーブルへ近づいてきていることに気付いたエルネストは、小さく舌打ちをし、マルクを一人残して、酒場から出て行ってしまった。
「はい、どーぞ。ミルクでーす…………ってだれもいない。……ま、いっか!」
給仕は、運んできたミルクを誰もいない丸テーブルに置いて去っていった。
「うぅ……ぐすっ……」
マルクは涙を流しながら起き上がって椅子に座り直し、それを口につける。
「ごめんなさい……お姉ちゃん……っ」
そして、そう呟いた。
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