第九話 奇襲00
一応夏が話した内容について全部鏡夜に伝えておいた。働き蟻や怠け蟻について話すと鏡夜の表情が変わったが、何も言わずにそのまま「少し用事があるからまた後で」と言って放課後どこかへ行ってしまった。
その表情の変化からして何か思うことがあるのか否か。俺もちゃんと考えないといけない……よな。
なんせ俺が知っている知識はもうとっくに破綻しているようなものだから。
何故ならば、ゲーム本編で言う第二話がそろそろ始まるような気がしてならないというのに、現状、まだ何も起きてはいない。それはどうしてなのか。
夏が妖精を殺したからか、それともまだ死んでいないけれどダメージは強く残ってしまいしばらくゲームが始められない状況なのか。
(そもそもこの世界での敵ってちょっと分からない部分あるしなぁ……)
ホラーゲームでの妖精について考える。
ユウヒという名の妖精。『境界線の世界』の管理人。
あの世とこの世があやふやになったせいで、若い人間の強い生命力を囮に化け物をおびき寄せ、その間に境界線の補強をするというやばいシステムを作り上げた張本人。
そのシステムによって人が死ぬことに何の罪悪感もなく、ただの実験体を見ているようなものである。
悪いものに好かれやすい神無月鏡夜に興味を抱きわざとあの世にいる住人を引き寄せることもある。それ以外にもあらゆるトラブルを引き起こす原因。裏ボスだから興味を持たれないよう注意しなくてはならない。
管理人として義務を果たすことを最優先としているため、その琴線に触れなければいいと考える……というのが、俺の記憶している妖精ユウヒの設定だったはず。
「んー……そういえば、夕青のキャラクターって鏡夜と夏、それで俺以外にも誰かいたよな……」
確か男だったはずだ。
敵にはならず、鏡夜を守って死んでしまうルートしか残されていない唯一味方のあの……。
ええと、名前は確か、桜坂春臣だったか。
「春臣……っていうと、もう帰ったのかな……」
教室を見渡すが放課後ということもあってかもうほとんど人が残っていない。
桜坂春臣といえば、神無月鏡夜の対となる人物。
金髪が似合う英国王子な見た目。しかしその容姿に似合わない粗暴さがあるが、身内には優しい性格。彼は野球部所属で中学校からずっと野球に熱心な人ではあった。しかし金髪について言及され半年ぐらいでちょっとした騒動を起こし退部した問題児な男子生徒。
体格が良く、運動神経も抜群。戦闘特化の一人である。しかしながら幼い頃に命について考えさせられる事故を引き起こしたことがあり、誰かが死ぬ、もしくは誰かを犠牲にすることを嫌うため鏡夜とよく対立する。しかし鏡夜が誰かの命を救う選択肢をした場合協力的になる。
誰かを救おうとして突っ走った先に死亡フラグがあるため要注意……だったはず。
夏が言っていた話を俺達のことだと考えるとすれば────もしも妖精が女王蟻だったとして、働き蟻が境界線の世界にいる化け物だとして、怠け蟻が生徒だったら?
生徒の中に裏切り者がいるとしたら、きっと夕青ゲームの主要人物になるに違いない。夏の言葉がちゃんと真実だったらって話になるけれど……。
その場合、鏡夜は違う。
夏自身が怠け蟻とは言わないだろう。あいつ自分で趣味は蟻の観察って言ってたし。
怠け蟻にその場合消去法で春臣ってことになるが……。
あっ、いやでも。生徒じゃなかった場合はもう一人いるな。
白兎という存在。
正式な名前は冬野白兎。
夕青のメインヒロインで、真っ白な猫っ毛の髪と兎のような雰囲気が特徴。
丁寧な言葉を使ってはいるが、素は普通の女の子らしい口調になる。人に化けているからか、どうにも世間知らずのお嬢様という印象が強い。
────その正体は福の神。現在は元神様。
堕ちると反転するらしく、福の神から厄神へ変貌する。その場合黒髪へ変化するため、堕ちたかどうかは分かりやすい。
鏡夜に執着しているのは堕ちていても変わらない。何処へ逃げても追ってくる。その場合の弱点は不明。とにかく殺されないようにすべし……っていうのが夕青設定だった。
でも鏡夜はまだ白兎に会ってはいない。
というか会おうとしないのだ。白兎がいるはずの現実世界でのフユノ神社にすら行くようなそぶりも見えないし……。本当に鏡夜が何を考えているのかが分からない。
そもそも俺は頼まれたことをやっているだけだ。
夏を調査してほしいと言われてやって、その後は放置。情報をやるだけやって後は頼んだーってやった俺が言うのもなんだけど、何もかも部外者として扱われるのはちょっとな……。こっちにも知識を持ってる責任があるわけだし、このまま何もせずただぼーっとしているのもなんか嫌だし……。
夕青って気が付いたら死んでたっていう恐怖もあるから、俺としては後悔のないよう生きるために……このままでいちゃいけないような気がする。
「俺だけでも……フユノ神社に行ってみた方が良い、かな……」
絶対に行くなよとは言われてないしな。
うん。少しぐらいなら……。
《ハーイ! 放課後のお時間ですが予定を変更して境界線の世界へご招待しまーす!》
「えっ」
急に聞こえてきた声に俺は目を瞬く。
瞬いた瞬間見えてきたのは今まで居た教室ではない。
いつの間にか本だらけの大きな部屋────図書館の中に来ていることに気が付く。
もう家に帰って私服に着替えていたらしい青組のクラスメイトも、部活をしていたらしい運動着な人もたくさんいた。
青組が全員集合して図書館の中で立っていたのだ。
「これは……まさか……」
これって確か、夕青ゲーム第二話のステージじゃないのか?
でもなんで急に……。
そう思っていたら、妖精の笑い声が聞こえてきた。
とっても楽しそうな声で笑って、言うのだ。
《このまま何もすることなく帰られちゃ嫌なのでとっとと始めますねー。じゃあ、ゲームスタート!》
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