4、バッドエンド(3)
何年も会っていない人間からの言葉とは思えない。正直気持ち悪かったかもしれない。でもそう思われたって構わなかった。俺はただこれを伝えたかった。自分の思っていることを、真実を、佐倉に直接伝えたかった。
「そして……今も、佐倉のことが……」
すると佐倉はカバンの中から再び『青春の残滓』を取り出して、数ページめくった。そしてそこに載っている文字を俺に見せて小さく笑いながらこう言うのだ。
「他の誰かが、じゃなくて?」
俺をからかってる佐倉の顔は、昔の佐倉を彷彿とさせた。
「余計な事は言わなくていいんだよ」
「清嶋君らしくないなと思って」
「らしいとからしくないとか、そういうのはいいんだよ」
俺は佐倉から『青春の残滓』を奪い取って、ベッドの方へと投げた。『青春の残滓』は着地した毛布の中にゆっくりと沈んでいく。
「えっと、清嶋君。どういうつもり? 私の本、返してよ」
「取って行けばいいだろ」
「……本当変わったね。気持ち悪いくらい強引な誘い方」
佐倉は呆れた様子で俺のことを睨みつける。そしてベッドの上に乗っかると『青春の残滓』を手に取ってこう言った。
「さっき帰って行った女の子の匂いがする」
鼻をスンスンと布団に近づけて、佐倉はあちこちを嗅ぎまわる。
「……よくわかるな」
「そういうの私敏感だから」
「そういや……あとで安藤と俺の作品、見比べてみないか?」
「清嶋君の?」
「ああ、俺は俺でデータとして『青春の残滓』は残してるから」
俺は本棚の中にあるDVDを指さした。
「なるほど、それも面白そうね」
「まぁどちらにせよ、後でな」
俺はベッドの上の佐倉を押し倒した。
下品で下劣で汚らわしい。
俺の知っている青春というものは昔から本当に酷いものだ。
でもみんなこれを望んで、そしてそれを謳歌している。
やめられないのは青春の旨味を知ってしまうからだ。
俺はもう、残滓を食い散らかすことを止めて、本当の美味しさを知ってしまっている。
『青春の残滓』
あの物語は今もなお俺という主人公を続投させながら、ノンフィクションのまま現実世界で連綿と続いている。
佐倉は俺の顔に手を添えると、また悪戯に笑んでわざとらしくこう言ってくるのだった。
「もう一度確認するけど、本当にこの部屋にカメラはないんだよね?」
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