カップアンドソーサー

@watakasann

第一章 最初の最初

第1話 思い出のカップ


 四月、私は四年生になった。


「四年生おめでとう、とう子ちゃん」

「ありがとう、おばあちゃん、おじいちゃんも」

「ハハハ、三人っていうのはめずらしい、でもとう子がおれたちだけでいいっていうんだ」

「だって、今日は特別とくべつな日だもん、おじいちゃんとおばあちゃんだけでいいの」


 そう私が言うと、スマホの中のおばあちゃんは、ちょっと目をぱちぱちさせた。おばあちゃんは今、病気びょうき入院中にゅういんちゅうだ。コロナウイルスのため、お見舞みまいいにも行けない。今、私とおじいちゃんの二人は、おじいちゃんのお店、喫茶店きっさてんにいる。


「ほら、おばあちゃん、最初さいしょのカップはこれにしたの」

「そうなの? それでいいの? とう子ちゃん」

「うん、絶対ぜったいそうしようと思っていたから」


 私の前にはコーヒーカップ、その下にはカップのためのくぼみがある小さなおさらがある。

この組み合わせを、カップアンドソーサーというそうだ。そして喫茶店のカウンターにいるおじいちゃんの後ろには、たながあって、本当にたくさんのカップアンドソーサーがかざってある。どれも特別な物らしくて、お客さんはこのカップでむことができる。

 全部ぜんぶ高価こうかなものではないけれど、子供のお客さんは

「小学校四年生」にならないと、このカップで飲むことは出来ない。

まごである私、お兄ちゃんお姉ちゃん、いとこたちも全員そうだった。

でも私はみんなの中でも特別、なぜなら目の前にあるカップとソーサーは、私がえらんだものだったからだ。


 それは二年生になったばかりのころ、おばあちゃんと二人で行ったリサイクルショップでのことだった。



「おばあちゃん、リサイクルショップでもカップをうことがあるの? 」

「あるわよ、おどろくくようなものがやすいときがあるのよ」


 とても小さなリサイクルショップで、いろいろな食器が百円で売られていた。その中のカップに、私はせられるように手をばした。

 コーヒーというより紅茶こうちゃのほうが似合うような、うすくてかるいものだった。何よりも、絵がとってもかわいかった。小鳥と馬の絵で、白いカップの色そのままの馬、でも馬のたてがみが、ちょっとくらめのピンク色のお花になっていて、よく見ると、そのお花が風でばされ、小鳥になっていた。


「おばあちゃん、これかわいい! 」

「まあ、とう子ちゃん、これは良いものだわ、よく見つけたわね」

「いいものなの? 」

「ええ、そうよ、持ちやすいし、絵もとても素敵すてき。今まで見た中で、一番かわいらしいユニコーン」

「え? ユニコーン? 」

つのの生えた想像上そうぞうじょうの馬だけど、角に緑の葉っぱがからまっていたので、私には良く見えなかった。


「これが百円なんて、すごくうれしいわ。きっとソーサーがないからでしょうね」

「そうなんだ、あ、おばあちゃん、ここにソーサーがいっぱいある! 」

十枚以上、ソーサーが重ねてあった。

「これはカップがれてしまったのかもしれないわね。もしかしたら似合にあううものが見つかるかもしれないわ」


二人で楽しくえらんだ。でも同じようなピンク色のものがなくて、薄紫うすむらさきの花がふんわりといてあって、まわりが金色きんいろのものを選んだ。

このカップアンドソーサーをおじいちゃんのお店に持って帰ると


「良いものを見つけたな。とう子が一番見る目があるかもしれないな、これだったら、店にかざれるぞ」


本当ほんとう! おじいちゃん! 」


「とう子ちゃんは小さいときから良いものを見ているからよね」

「ソーサーの色のうすさがカップと良く合っているね」

そのときに来ていたお客さん達も、このカップアンドソーサーと私のことをほめてくれた。だから、四年生になった時はこれで飲もうと思っていた。


でも、飲むのはコーヒーじゃなかった。


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