なにがどう分からないのかを

<透明で不定形な謎の存在>は、正直なところ、<存在>と称するのも不適確なのかもしれません。先ほども言ったとおり、あれは<現象>と言った方が近いかもしれないものですから。


今回、少佐と伍長が調査を行ったとしても、きっと明確な答えが得られることはないと私は感じています。むしろ、


『なにがどう分からないのかを確認しにいった』


と言った方がいいでしょう。


そして、活動の法則性の再確認。


明らかに<生物>と言えるなら<生態>と言うべきところでしょうが、今の時点では生物と断定できないのでそういう言い方になります。


コーネリアス号が襲撃を受けた時にはそれが分かっていなかったから大変な被害が出てしまった。


けれどここでは、あれは確かに恐ろしい存在ではあるけれど、でも獣人達はそんなに酷く怯えているわけじゃない。


彼らにとってあれは、<厄介な天敵>の一つでしかないということなんだと感じます。


『水辺を主な発生地点とし、時折、生物と接触・吸収、<データ>として蓄積、シミュレーションに利用する』


というだけなので、確かにそれほど高い脅威でもない。


しかも獣人達は、あれが水場からそれほど離れることがなく(せいぜい数百メートル)、加えて、何やら独特の<気配>がするそうで、事前に接近を感知できる。


それどころか彼らは、あれが現れると、生ゴミや溜まった排泄物を投げつけ、わざと吸収させることまでする始末。


動物の毛皮を袋状にしてそこに排泄物や生ゴミを溜めておいて、です。


彼らにとってあれは天敵であると同時に便利な<汚物処理機>でもあるわけですね。


実に逞しい。


できれば獣人達が他にどのようにあれを利用しているのか、どのようにあれと折り合っているのかを調べるのも今回の目的なのだとか。


思えば、かつては地球人も、様々な自然現象や高脅威について、その正体すら知らずに長く折り合ってきたという時代もあったでしょう。獣人達もただそれと同じことをしているにすぎないのかも知れません。


私達は、そんな彼らからも学び、ここで暮らしていくのです。


それに、排泄物や生ゴミの処理方法として安全確実に利用できるなら、利用した方がいいかもしれませんしね。


『排泄物や生ゴミを吸収させて、中のデータヒューマンに影響はないのか?』


という疑問もあるでしょうが、それについてはあまり心配していません。


なにしろ、獣人達は長くそうしてきたはずなのに、中にいた私達にはまったく影響がありませんでしたし。


おそらくあれは、排泄物や生ごみについても、吸収しエネルギーとしても利用しつつ、そこに含まれた遺伝子の情報を取り込んで、データとして再構成。シミュレーションを行っているのだと、推測できます。


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