正直な印象
一見しただけであればついその名を呼んでしまうほどクラレスの面影を持ちながら、それは決してクラレスではありませんでした。
何しろ全身が毛で覆われていたのですから。
光が当たるとそれが乱反射して白く見えることもありますが、確かに透明な毛で覆われた、まぎれもない<獣人>だったのです。
ああでも、
「違う……他の獣人達とも……?」
ベッドに寝かせてバイタルを確認しつつ、私は思わず呟いていました。
すると少佐が、
「やはりビアンカもそう思うか?」
と。
「はい。ここに住む獣人達は、四肢は私達に近いシルエットながら、頭部だけはそのシルエット自体が他の動物のそれに非常に近いというのが彼らの特徴でした。にも拘らず、このクラレスに似た個体は、全身を覆う体毛以外はほぼ地球人のそれです。
明らかにここの獣人達とも異なる形質を持っていると判断します」
正直な印象を答えさせてもらいました。
でもそこに、
「確かに人間に近いけどよ、手足の指をよく見てみな。類人猿のそれだぜ」
「…! 確かに…!」
言われて手足の指を確認すると、非常にがっしりとした太く長いそれは、普通の人間のものとは違っていました。特に足については、人間が直立して地面を歩行するのに適した形状になっているのに比べ、紛れもなく樹上生活に適応するように、手とほぼ同じ形と長さの指をしていたのです。
本当に類人猿のそれですね。
なのに、顔の造形は地球人に近い。
そして何より、透明なこの体。
しかし驚いてばかりもいられません。私は<クラレスに似た新たな獣人>の体を調べます。
透明なので怪我をしていても分かりにくいため、慎重に。
そうして丁寧に彼女の体に触れているうちに、その筋肉も私達地球人とは違っているのが分かりました。
筋肉の密度が非常に高く、とても強靭なのです。
私は類人猿に直接触れたことはほとんどありませんのでこれはあくまで推測ではあるものの、この筋肉のつき方も類人猿のそれではないでしょうか。
だから、言うなれば
そのようなことを考えつつも全身くまなくチェックしたところ、これといって大きな怪我もしていませんでしたので、
「問題ありません。おそらく気を失っているだけだと思います」
そう少佐に告げました。
一応、ここの現住生物の毛皮で作ったシーツ代わりのものを掛けて、様子を見ることにしたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます