クラレス・トリスティア
『もうイヤ! 何もしたくない! 何も食べたくない!!』
クラレスがそうなってしまったのは、彼女のパートナーであった男性がいつまで経っても現れなかったことも影響していたのかもしれません。
ただ、<本当の異変>はこれからだったのです。
なにしろ、精神に異常をきたしたクラレスが、食事も水分の摂取も一切拒否し、自死を選択したにも拘らず……
「なにこれ……どうして死ねないの…?」
いくらなんでもさすがに数日では人は死なないでしょうが、それでもほとんど衰弱した様子さえ見られないことに、彼女は困惑していました。
そしてそれは彼女を見守っていた私達も同じです。
と同時に、ある種の確信を得たメンバーもいたようでしたが。
チームリーダーであり、<環境生物学>の権威、
「やはり…これで確証が持てたよ」
「レックス……」
彼のパートナである
「どういうことだ……?」
複数のメンバーが思わず声を合わせて問い掛けます。
それに対して、
「実用化されていないはずの、しかも受信機さえない<転送>。
水さえ補給していないのに衰弱しない体。
不自然なまでに生物に適した、いや、『文明の利器さえ持たない裸の人間でもさほど苦も無く生き延びられる』ほどに生存に適した環境。
僅かこれらの事実からでさえ、私はある推論を立てずにはいられない……」
けれど、順序立てて話そうとしている彼に、
「だから、もったいぶらずにはっきり言えよ!」
苛立ちをぶつけるものがいました。
すると彼に同調するかのように不穏な空気が広まっていきます。
なのに
「私達は、いや、正確には、<人間としての肉体を有した方の私達>は、すでに死んでいる。
……ということだよ」
「……な……!」
「バカな…っ!?」
そう言って言葉を失ったメンバーもいましたが、実際には、
『やっぱりか……』
という空気が広まったというのが事実でしたね。
そして少佐が、
「つまり今の私達は、<シミュレーターの中の情報>に過ぎないというわけだな……?」
「そうだ……そう考えるのが最も辻褄が合う……」
それが答えでした。
少佐の言うとおり私達はすでに死んでいて、ここにいる私達は、ただの<情報>なのです。私達にはそれが分かってしまうのです。それぞれがエキスパートであるがゆえに……
だけど……
「それがどうした! 俺達は現にこうして生きてる!」
まるで雷のような<声>が、私達を打ったのでした。
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