第68話 ゼックマン

 盗賊はカツヨリを勧誘してきた。盗賊か、それもいいかもな。勇者が盗賊になった!ってタイトルに変えるかw。


「魅力的な提案だけど、今は敵対してるからな。却下だ」


 その瞬間、リリィから風魔法が飛んだ。


「突風」


 ただの強風が盗賊とお嬢様を襲う。風に煽られて2人とも馬車から投げ出された。


「加速装置!うん、言ってみたかった」


 カツヨリはスキル加速を使ってお嬢様をお姫様抱っこで受け止める。盗賊は地面をゴロゴロ転がっていた。そこに


「ウィンドバインド」


 リリィの風の拘束魔法が盗賊を捉えた。さっすがリリィだ。頼れる俺の相棒。騎士が怪我をおしながら駆け寄ってきて跪く。カツヨリはお嬢様を下ろし、お嬢様には目もくれずに盗賊に近づき蹴りを入れた。





「エリスタンお嬢様。ご無事で」


「カイン。あの助けていただいたお方はどなたなのですか?お礼を差し上げなければ」


「それが、突然現れて助けていただきました。どこの誰かは存じませぬ」


「失礼の無きよう対応して下さい」


 お嬢様は意外としっかり者のようだ。見た目はお人形さんだが。カツヨリはそんな事は一切気にせず


「おい、起きろ!お前がこの中じゃボスっぽかったから生かしたけど合ってるか?」


「ううう、何者だお前は。この盗賊団ゼックマンに逆らうとはいい度胸だ」


「ゼックマンてのはなんだ?カイマックスじゃないのか?」


「我々はゼックマンだ。カイマックスってのは聞いた事がない」


「嘘をつくな。リコはどこだ!」


「…………、どうやら勘違いをしているようだが。我々の狙いはあのお嬢様だ。そのリコとかやらではない。見逃してもらえないか?そのリコとやらを探してやろう」


 普通なら盗賊の言う事なんか信じるわけはない、ないのだがカツヨリは冷静なようで冷静ではなかった。


「リリィ!」


「何考えてるの?ダメよ、ダメに決まってるでしょ!」


 リリィはカツヨリを戒めた。だがカツヨリの目が悲しそうだ。リリィは考えに考えて妥協点を探そうとした。


「あなた、お名前は?」


「ゴメスだ。お前はこいつの仲間か?」


「そうよ。今カツヨリは冷静さを失っているの。まずカイマックスという名前に聞き覚えは?本当に知らないの?」


「確か隣の国の盗賊がそんな名前だった。だが俺達とは関係ない。いや、上層部はつなっがてるかもしれないが俺のような下っ端には関係ない」


 と言いながら隙を見つけて口から吹き矢をお嬢様へ向かって飛ばすゴメス。それを手裏剣で弾き飛ばすリリィ。


「!!!」


「カツヨリ。ダメよこいつ。やっぱり信用できないし下っ端だから組んでもダメよ。リコの居場所はわからないわ」


「いや、この盗賊を使ってなんとかリコの居場所を」


「いい加減にして。いくら妹が大事でも自分を見失いすぎよ、リコの為なら何してもいいわけじゃあないのよ」


 そこに聞き耳を立てていたお嬢様が割り込んできた。


「お話中失礼します。私、マルス国第2王女のエリスタンと申します。お二方には助けていただきまして心より感謝申し上げます」


『王女様⁉︎』


 いいタイミングで会話に割り込んできたお嬢様。その正体は王女だった。王女は話を続けた。


「私の国、マルス国には王子がおりません。姉がいるのですが病弱で跡を継ぐのは私という事になりそうなのですが、姉に急に婚約者ができて雲行きが怪しくなっています。つまらない権力争いが起きており、この刺客も恐らくは姉の婚約者であるゲルマー伯爵の手の者かと」


「申し訳ないが俺には興味がない話だ。急いでいる、すまんが後は自分達で何とかしてくれ」


「先程、お名前がカツヨリ様と聞こえました。どことなくですが、神殿にある勇者カツヨリ様に似ていらっしゃいます。もしかしてあなた様は勇者の生まれ変わりではないのでしょうか?この国、マルス国は勇者パーティーだった鬼族のゼックン様が指名した者、そう私の先祖に国を治めるようにいわれ今に至ります。もしあなた様が勇者に関係するお方であれば、我が国はあなた様に全面的的に協力させていただきます。リコ様というのはカツヨリ様のお仲間でいらっしゃいますか?」


「妹だ」


「そうなのですね。お急ぎなのはわかりますが、手がかりを失っているご様子。城へ戻れば手の者に手がかりを探させましょう。盗賊団カイマックスという名は知っています。この国の不幸な歴史が産んだ共存者、いえ、違いますね。今盗賊をしている者は犯罪者です。私の代になれば必ずや撲滅……」


 その時、突然空から何かが降ってきた。


「取り込んでいるところ悪い。カツヨリ、お前には選択肢が2つある。妹を追ってラモス国に戻るかそれとも魔王復活を阻止するために前へ進むかだ。妹はお前が戻らなくてもラモス国の冒険者が救出するだろう」


 突然現れた男、魔人?はツノが2本生えている。いかにも強そうなオーラが出ていて戦ったら負けるのが肌で理解できる。リリィは驚きながら話しかける。


「あなたは一体?」


「俺か。ああ、すまん。わかるわけないよな。ゼックンという。鬼族の元棟梁で勇者カツヨリと旅をしていた者だ」

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