第503話 魔界の決着Ⅱ

「ったく。余計な真似をしやがって」


 ルシファーにそう吐き捨てられたが、パイモンが「まあまあ」となだめていた。


「まあその何だ。助かったとは言っておこう」


 パイモンはコホンと咳払いして、明後日の方向を見ながらそう呟いていた。


 ルシファー軍の本陣の戦士達も、ベリアル軍に勝利を収めた余韻に浸っていた。あまり嬉しそうじゃないのはルシファーだけじゃった。


「私は先に城に戻るぞ」


 ルシファーは黒刀で空間を横薙ぎで切り裂いた。その切り裂いた空間はみるみる拡張していき、数メートル程の大きさの螺旋状の物体が出来た。これはルシファーの技で、黒転時道ニーベルンゲンという移動スキル。まあ簡単に言えばワームホールじゃ。これはルシファー固有のスキルで恐らく他の者はこのスキルを習得する事はできない。


「パイモン先に行っておくぞ」


「かしこまりました」


 パイモンがそう返事をすると、ルシファーは無表情のまま黒転時道ニーベルンゲンに入って行った。


 するとタイミングを計っていたかのように、フルカスと妾とシトリーが助けた部隊の部隊長の二人が姿を現した。部隊長に関しては膝をついてパイモンを真っ直ぐ見ていた。


「パイモン様、実は進言したいことがございます」


 部隊長がそう発言すると「なんだ?」とパイモンが聞き返す。


「魔王アスモデウスの助力により、我々は勝利を収めることができました。ルシファー様は望んでいない結果かもしれませんが、死者数が想定した数より遥かに下回るのは事実です」


「そこでだ。嬢ちゃんの頼みを再度ルシファー様に進言してほしいのだ」


 そう言って話を割ってきたのはフルカスじゃった。


「頼み? 確か黒龍を倒すために力になってほしいというやつか?」


「そうだ。我々が言えば首は刎ねられるが、パイモンが進言すれば話は変わってくるだろ?」


 フルカスはそう言ってパイモンを真っ直ぐ見ていた。そして、パイモンは周りの戦士達を見渡して様子を伺う。


 思ったより妾とシトリーの活躍は華々しいものだったらしい。他の戦士達もどうかお願いします! と頭を下げていた。


「この通りじゃ」


 妾も頭を下げると「むう――」と頬を膨らませていた。


「分かったよ。そこまで言うなら進言くらいはしてやる。魔王アスモデウス。貸しだぞ」


「助かる」


 妾はパイモンに一礼をすると、何故かルシファー軍の戦士達も一緒に喜んでくれた。


「嬢ちゃん。良かったな。まさか本当にベリアル軍を退ける事に成功するとは思わなんだ」


「妾が何も出来ないことを良い事にシトリーを酷い目にあわせたこの小僧をどうにかしたかったのじゃ」


魔真王サタンのとてつもない力を発揮しやがって。お陰様でここはめちゃくちゃだ」


 フルカスはそうニッと笑みを浮かべて満足気だった。


「感謝するぞ嬢ちゃん。我々の戦力は想定したよりも半分前後で収まった。それに主要戦力は欠けていないし、パイモンが出る幕もなかった。何よりルシファー様に怪我は一つも無い。ありがとうな」


 フルカスはそう言って妾に握手を求めてきた。


「爺は相変わらず甘いな~。他の魔王に握手を求めるなんて」


 そう不貞腐れているのはパイモンじゃった。まあこやつはとりあえず無視で良いじゃろう。


「まあ古い仲という事にしておこうかのう」


 フルカスが求めてきた握手に応じると、ルシファー軍の戦士達がより歓声を上げていた。もうお祭り騒ぎじゃな。


「まあベリアルが妾の前に現れた時は正直焦ったがのう」


「まともに戦っては誰も勝てないからな。地上の人間、地下世界アンダー・グラウンドの誰かなら打ち破ることができるかもしれないが、魔族でベリアルに勝てる奴はもう何千年と現れていない」


「絶対王者じゃからのう」


 妾とフルカスがそう話をしていると、パイモンが妾の事をじっと見つめてきていた。


「なんじゃ?」


「お前。どうしてあそこまで強い力を手に入れたんだ?」


「何じゃ気になるのか?」


「勿論だ」


「そうじゃのう。妾には魔王ベレトの魂魄こんぱくが宿っているからじゃのう」


「魔王ベレトだと!?」


「これはまた懐かしいな。確かにベレト様と似たパワーを感じるとは思っていたのだ。まあ気のせいだと思ってスルーしていたのだがな」


 フルカスはやたらと嬉しそうだった。


「久しいと感じたのは二重の意味だったのか。通りで感慨深いと思った訳だ」


「どうやったらそんなものを入手できるんだ!? 第一魂魄こんぱくってなんだ!」


 ――。そうじゃ。こやつ阿保じゃった。


「簡単に言えば魂だ」


 フルカスがそう呆れ気味に説明すると――。


「始めからそう言えば良いだろう!」


 と、何故かキレられた。やっぱりこやつ面倒くさいのう。


「少しニュアンスが違うのじゃがまあ良いじゃろう。そのベレトの魂魄こんぱくが妾に宿っている為、これほどの力を手に入れることができたのじゃ。まあ他にも色々と力を付けるために努力したからのう。パイモン。其方では今の妾には勝てないぞ?」


 妾がそう言うとパイモンは「ぐぬぬ……」と唸りながら悔しそうな表情を浮かべていた。


「悔しかったらZ級の力を手に入れるんだな」


「五月蠅い! 黙れ! 死ね!」


「……其方、口悪いのう……」


 本当。歳はくっているのに中身はまるで子供じゃ。


 そのようなやり取りをしているとシトリーが目を覚ました。


「……ここは?」


 シトリーは目を開けるなりそう呟いた。


「戦争は終わったのじゃ。よく戦ったのうシトリー」


 妾がそう告げるとシトリーは驚いた表情を浮かべていた。キョロキョロと周囲を見渡して気配を探っている。


「オロバスは――!?」


「ああ。あの小僧は妾が倒した。安心せえ」


 妾がそう言うとシトリーは何が何だか分からないといった様子だった。


「アスモデウス様。どうやって外に?」


「まあ気合いじゃな」


 妾がそう笑みを浮かべながら言うと、シトリーは首を傾げていた。意味が分からないといった感じだ。まあ、正直に言うのであれば、激怒したらそのまま結界が破れてしまっただけの話じゃがな。余計な心配はかけさせたく無いのでそこは伏せておこう。

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