第467話 オロバスの力Ⅰ
妾とシトリーが加わった事により、敵の前線は崩れ始めていた。
「凄いぞ。あの二人で加わっただけでこんなにも違うとは」
「流石魔王アスモデウスだ!」
すでにそう妾達への称賛の声が上がっていた。
「気が早い奴等じゃのう」
「いくら何でも気を抜きすぎだと思います」
「気持ちは分からんでもないがのう。まあお陰で敵の勢力は混乱しているようじゃ」
「この調子でいきましょう」
シトリーがそう言った束の間だった。
突如としてゴゴゴ! という地鳴りが響き渡った。
ルシファー軍が慌てふためく中、突如として沈下してしまった地面に妾とシトリーを含めたルシファー軍の前線千人弱は奈落の底へと突き落とされる。
しかし、これには意味が無い。魔族というのは黒翼が存在するので妾達はいとも簡単に生還できるのだ。
「なんだあれは!?」
そう言って一人のルシファー軍の戦士が、上空から降り注ぐ何かを指した。
「何じゃあれは。岩か何かか?」
「そのようですね」
「造作もないわい」
妾が
岩山を粉砕した後に無数の闇の矢が降り注ぐ。これは妾も得意なアクティブスキル。
無情にもこの矢の雨は、ルシファー軍の数百の戦士達の命を奪う。矢に直撃した事により黒翼の制御が効かなくなり、そのまま奈落の底へと消えていくのだった。
「始めからこれが狙いだったそうですね」
「そのようじゃのう。確実にルシファー軍の戦力を削ってきておる。少しだけユニークスキル使おうかのう」
「少し本気を出すのですか?」
「じゃないとこやつ等が一方的にやられるじゃろ?」
妾は地上へ上がると、ベリアル軍の戦士達からの視線が妾に集中した。
「格好の的じゃのう」
ユニークスキル、
「光栄じゃろう? 妾の
妾の声に反応して歓声を上げる敵軍。
「やれ!」
その発言と共に妾が従えたベリアル軍の戦士達は、洗脳にかかっていないベリアル軍の戦士達に襲い掛かった。
「妾の能力さえあれば、戦争など所詮お遊びじゃ。対個人でしか勝つ術はないのう」
「そのようだな」
妾の背後からそう声がした。そこに立っていたのは漆黒のローブに身を包んだ赤髪の少年だった。その髪とは正反対に氷のように冷たい瞳はサファイアのような綺麗な瞳をしていた。額にはベリアルと同じ黒い紋様がある。
「其方がオロバスじゃな?」
「魔王アスモデウス。流石にユニークスキルを使われていては戦争にならないからな。俺が自らが出迎えてやった。感謝するんだな」
「子供が妾に勝てるとでも思っているのか? つけあがるのは止した方がいいぞ?」
「言ってくれるな。俺を誰だと思っている?」
「ただの餓鬼じゃろ?」
妾がそう言うと、
「やるのう」
頬に少し切り傷。どうやらオロバスの攻撃を少し喰らったようじゃった。
「なかなかやるのう」
妾がそう言っても何も答えず、淡々と攻撃を仕掛けてくるこやつの動きはまるで操り人形のようじゃった。いや、殺戮兵器じゃな。
実力差は勿論ある。普通であればこのような敵は妾の相手では無い。攻撃も一発も当たらずに済む筈じゃ。しかし、少しではあるがこやつの攻撃を先程から当たってしまう。
「それも未来を見通す力か?」
妾がそう問いかけるとピタリと動きを止めた。
「知っているようだな」
「勿論じゃ。フルカスに聞いたからのう」
「敵軍を指揮している軍神の事だな?」
「なんじゃあ。爺の二つ名も知っておるのか。子供の割にはしっかり勉強しているようじゃのう」
妾がそう言うとオロバスはふんと鼻を鳴らした。
「やはり父上と同じ魔王。一筋縄ではいかないようだな。俺の力でもその程度の傷しか与えられんとはキリがない」
「太刀筋はいいぞ? 将来有望じゃのう。末恐ろしい子じゃ」
「ほざけ」
オロバスはそう言って斬撃を飛ばしてきた。妾は咄嗟にそれを避けた。
「何が可笑しい」
妾がそう問いかけるとオロバスは不気味な笑みを浮かべていた。
「引っかかったな」
そのオロバスの台詞と共に響く断末魔。妾が後ろを見ると後方にいたルシファー軍の戦士達の体が、無惨にも切り刻まれていた。
「――なかなかやるのう」
これは完全に妾のミスじゃ。未来を見通すという事は、妾が避ける事を予測していたのじゃろうか? しかしあの斬撃を喰らってしまっては妾も体力を消耗していたからのう……。それを見越しての攻撃じゃったか。
「魔王アスモデウスでも今の攻撃は動揺するか」
「妾の心を読むとはなかなか良い眼を持っている。本来であれば、魔眼を使っていてZ級の妾を見通す事はできない筈じゃが?」
「普段、父上と戦っている俺からすれば大した事ない」
「成程のう」
S級の魔族とは言え、一筋縄ではいかないと予測される戦いに、妾は少し高揚感を覚えていた。
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