第465話 アスモデウスの助力Ⅲ
「誠に感謝致す」
そういきなり敬語で感謝を述べて跪いていたのはルシファー軍の部隊長だった。また、部隊長と同じく他の戦士達も跪いていた。
「良いのじゃ良いのじゃ。その代わりと言ってはなんだが、頼みを聞いてもらいたい」
「何なりとお申し付けください」
誠意。胸がいっぱいになる程の誠意じゃった。まるで新しい家臣ができたようじゃのう。
「結論から述べると、ルシファーを少し借りたくての。今地上では復活した黒龍が暴れておるのじゃ」
妾がそう発言するとルシファー軍の戦士達が顔を見合わせていた。まあ結論から述べるとその反応になるのう。
「御言葉ですがアスモデウス様。如何なる理由であろうと、ルシファー様にそのように進言するのは非常に困難でして……」
と、苦い表情を浮かべながら妾を見上げる部隊長。顔が驚くくらい引きつっている。
「ルシファーに進言すれば1秒でそなた等の首が刎ねられるのは分かっておる。ルシファーにではなくパイモンにこう進言するのじゃ」
妾がそう言うと固唾を飲みこむルシファー軍の戦士達。
「魔王アスモデウス軍が手を貸し、ベリアル軍の撤退又は壊滅を約束するので、成功した場合にルシファーの力を借りたいとな。それに言ったじゃろう? この進言が失敗したとは言え咎めることは無いとな」
すると、呆気を取られたような表情を浮かべるルシファーの戦士達。
「そ……それだけで宜しいのでしょうか?」
そう部隊長が問いかけてきた。
「そうじゃ? 当然ルシファーに交渉を試みたがちと厳しくてのう」
妾がそう頭を掻くと、ルシファー軍の戦士達が、「やりましょう! 部隊長!」と前向きな言葉を発してくれた。
「そうですね。それくらいの事であればお任せください。パイモン様にそのように進言しておきます」
「おお! 助かる! 念話で進捗状況を聞こうと思うのじゃが、いつくらいのタイミングが良かったかのう?」
「3時間以内に必ず」
「分かった。では3時間後に念話で反応を聞くので宜しく頼む。妾はあともう一つの部隊を助けるので、パイモンも2部隊の部隊長から進言されたら考えるじゃろ?」
「おっしゃる通りでございます。我々としては先程の戦いを見て、アスモデウス様とシトリー様のご協力を頂けるのであればこの上ない喜びです。全身全霊でパイモン様に交渉を持ち掛けますのでどうか何卒宜しくお願い申し上げます」
改めてそう頭を深々と下げられた。
「じゃあくれぐれも気をつけるんじゃぞ。今は戦争中じゃ。何があるか分からんから、パイモンへの進言より自分の命が優先。肩の力を抜いていくのじゃぞ」
妾はそう言ってシトリーと共に
「なんて寛大な方なんだ」
「俺は心を奪われた。噂以上の美貌だな」
「間違いなく絶世の美女」
「それでいて空のように広い心」
「完璧すぎる」
――と、ルシファー軍の戦士達にべた褒めされる妾じゃった。うむ。悪くない。
「不謹慎ですね。これだから男は嫌いなのです」
と、ぶっきらぼうな口調になっているシトリー。
「そう言うな。それより次の目的地を探すぞ」
「そうですね――あの部隊はどうでしょうか?」
シトリーが指したのはなかなかの人数――兵力1万くらいあるが本当に1部隊なのか?
「ものすごく多くないか?」
「ルシファー軍のあの部隊を率いているのはフルカスです」
「あの老いぼれまだ前線張っているのか!?」
フルカス。ルシファー軍のなかでも一番の古株の家臣。ルシファーが魔王になったときからのパイモンの次にルシファーに心底忠誠を誓っている人物じゃ。元々は元魔王ベレトの家臣じゃ。人間で言うと100歳は超えている筈なのじゃが――。
「あのフルカスの軍が押されているのか。敵軍を指揮しているのは誰じゃ?」
「不明ですね。しかしまだまだ若いようですね」
「そうじゃのう。見るからに100歳もいっとらん」
ベリアル軍の大軍を指揮しているのは、聡明そうな顔つきをした少年じゃった。マーズベルにいるミク殿とノアのちょうど間くらいの年齢じゃろう。まあ魔族なんて見た目が幼いからといって、絶対に若いなんて事はないがのう。パイモンのようにやたらと歳をくっている魔族もいる訳じゃが、体に巡っているMPの循環が成熟していない。そう考えると見た目通り相当若い。
「凄いのう。あんなに若いのがフルカスの軍を押しているのか?」
「そのようですね。オーラもありますし、目つきも私の幼少の頃とは明らかに違います」
「妾に関しては遊び惚けていたからのう。当時の自分と比較すると嫌になるわい」
そんな事はないですよ! と言ってくれたシトリーじゃったが、実際に周りにいたずらばかりをしていたおてんば娘じゃ。じゃからあやつがどんな境遇で、あのレベルに達しているのか気になるのう。
「どうされますか? 向かいますか?」
「そうじゃのう。しかしまああれだけの数じゃ。一筋縄ではいかないぞ? 気を引き締めていけ」
「お任せください」
こうして妾とシトリーはフルカスの方へと向かった。いつぶりに話すか分からんが、あやつがこれだけ苦戦しているのは珍しい。じゃから、何であの少年にそこまで苦しめられているのかという疑問もあった。寧ろその疑問への関心が強かった。
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