第405話 授けられた名刀

 あれから俺達はドラグーンタワーに招かれた。


「ここだ」


 俺、ミクちゃん、マルファスさんはドラグーンタワーの中間地点にある書斎に連れてこられた。まるで図書館のような広々とした空間で古書から巻物、重要な文献など色々な種類が保管されているようだ。


「こっちだ」


 そう言われてついて行くと、青龍リオさんが足をピタリと止めた。


「ここだ。マルファスは知っているがお主達にも目を通しておいて欲しい」


 青龍リオさんがそう言って一冊の古書を渡して来た。タイトルは四龍伝説。古書を開くと書かれていたのは、以前青龍リオさんから聞いていたような内容だ。青龍リオさんが龍騎士と協力して黒龍ニゲル・クティオストルーデを倒したというもの。ここまでは把握しているからそれほど重要じゃない。


 ただ、読み進めていくと黒龍ニゲル・クティオストルーデがどのような攻撃を仕掛けてくるのか。どのような攻撃に弱いかなどが記されていた。


 黒龍ニゲル・クティオストルーデは全てを焼き尽くす黒い炎が主な攻撃らしい。


「すべてを焼き尽くすか――俺達熱無効のパッシブスキルを持っていて良かったな」


「そうだね。黒炎って何かものすごく格好いいね」


 俺とミクちゃんがそう話をしていると、青龍リオさんは首を左右に振った。


黒龍ニゲルの黒炎はその字の通り、全てを焼き尽くす強力な炎だ。お主達が持っているパッシブスキルの熱無効は無効化される」


「――マジですか?」


「マジだ」


 青龍リオさんが冗談を言っているようには到底思えない。熱無効が無効化されるという話は本当なのだろう。それに考えてみれば黒龍ニゲル・クティオストルーデはZ級の魔物だ。別に可笑しい話では無い。


 そしてさらに読み進めた。黒龍ニゲル・クティオストルーデは黒炎以外にも、尋常ではない威力の龍の咆哮ドラゴン・ブレスを使用したり、黒龍ニゲル・クティオストルーデが手を振ると、斬撃のようなものを飛ばすのだとか。尻尾を振り回すと黒炎が出現する灼熱の尾バーニング・テールは、空を火の海に変える程の量が出るのだとか。とりあえず、何から何まで規格外なのは十分に把握できた。


「ナリユキ殿、随分な苦笑いを浮かべているな」


「それはそうでしょ。何から何までランベリオンと比べ物にならない威力なんですから」


「確かにそうだな。黒龍ニゲルは黒炎に目がいきがちではあるが、闇属性のスキルも得意としている。それにナリユキ殿と同じで自動再生や自動回復も付いている。アクティブスキルに関しては基本的にはダメージを与える事はできない。ミク殿が持っている光剣セイバーや、マルファスが持っている黒刀ハデスだと効率的にダメージを与えることができる。ただ、奴が人型化ヒューマノイドになると、魔王ベリアルと同等の別次元の黒刀ハデスを使用したりする。剣速も龍騎士と同等レベルで剣の達人だ。勿論、龍騎士の方が剣の腕は上だったがな」


黒龍ニゲル・クティオストルーデを倒した時は、皆人型化ヒューマノイドで戦っていたんですか?」


「最終的にはそうだな」


「俺は当時魔界にいたからね。だから龍騎士が魔界に来て、気付いたら魔王ルシファーとして姿を変えていたのは驚きだったよ。黒龍ニゲルの邪気は魔王レベルだという証拠だね」


「ナリユキ殿もミク殿もこの古書によく目を通しておいてくれ。そしてナリユキ殿に渡しておきたいものがある」


「渡しておきたいもの?」


「ああ。ついて来てくれ」


 そうして俺は青龍リオさんに奥の部屋へと連れられた。辺りを見渡すと刀がズラリと置かれている。そして部屋の中央にはケースに入った黒い刀と白い刀が保管されていた。


「ここは何ですか?」


「余は刀コレクターでな。一番気に入っているのは、青龍偃月刀なのだが、それ以外にもこの部屋には世界中から集めた珍しい刀や、余が鍛冶職人に造らせた刀が存在する。ナリユキ殿をここに連れて来たのは、ある一本の刀を譲ろうと思うのだ」


「別にいいですよ」


「よくない」


 青龍リオさんにそう即答された。何も言えないのだが――。


「ナリユキ殿はマルファスやミク殿のように、特殊な剣をアクティブスキルで発動することができない。原則として光剣セイバー黒刀ハデスはオーラルドと呼ばれている特殊な成分が放出されているのだ。そのオーラルドをここにある刀全て組み込んでいる」


「本当に大変だったんだ。オーラルドを組み込む為に、MP消費が多い黒刀ハデスをわざわざ使わされたからな」


 マルファスさんはそう言って苦笑いを浮かべていた。


「だから、黒龍ニゲル討伐に協力してくれるという話だったから、この武器を授けたいんだ」


 青龍リオさんにそう言って授けられた刀は、刀身が紅葉色で、鍔巻きと鍔は黒色となっている綺麗な刀だった。鍔巻きに関しては魔物の鱗が使われているようだ。刀からはただならぬオーラが発せられており、炎のような猛々しいパワーを感じる。


「その刀の名前は黒紅煉刀くろべにれんとうと言って、煉鉱石れんこうせきと魔石、オリハルコンを素材として打った名匠渾身の一振りだ。刀は主を選ぶと言うので、その刀が懐く主がなかなか現れなくてな――ただ、ナリユキ殿ならもしかしたら使えると思ったんだ」


「そんな貴重な一振りを俺に? 本当に大丈夫かな」


「大丈夫だ。実際にその刀を持つことができているではないか。試しにマルファスに預けてみたらどうだ?」


 青龍リオさんがニッとそう口角を吊り上げた。すると、マルファスさんは「絶対に嫌だ!」と決死のアピールをしていた。


「何でそんなに嫌がるんですか?」


「俺はその刀を数秒持っていて死にかけたことがある。その刀が主では無いとみなすと、身体が発火するんだ。熱無効などのパッシブスキル所有者もその刀を握ってみたが、見事に炎に包まれた。どういう原理かは分からないが、とりあえず熱無効のパッシブスキルがあっても関係ないらしい」


 マルファスさんは必死に俺にそうアピールをしてきた。そう考えるともの凄く恐ろしい刀だな。


「因みにこの刀って買うとどれくらいするんですか?」


「値はつけられないだろうな。使っているアイテムがレアアイテムだし、その刀は黒龍ニゲルの鱗や翼の一部も使っているのだ。最低でも金貨50枚くらいはするだろうな。余が知り合いの名匠に造らせたので正直分からない」


 マジか――。


「一振りするだけで大地や空を切り裂くと呼ばれているが、実際に振ることができた人間はいないがな」


「つまり振るだけで青龍リオさんの水刃ウォーター・カッターみたいな斬撃が出せるかも? ってことですか?」


「まあそういう事だな」


 涼しい顔でとんでもない発言をしているぞこの人――。


 こうして俺は黒紅煉刀くろべにれんとうという滅茶苦茶強いかもしれない刀を手に入れた。



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