第356話 噂を広げろⅧ
「お疲れ様。本当にありがとうな」
「いえいえ。それに正体が正体なだけにパイプも凄いですね」
リリーがそう言って隣に座っている2人に視線を移した。
「君の評判は聞くのでな。ワシも名前は把握しておった。まさかナリユキ殿が彼女を味方につけていたとはな」
「私も驚きましたよ」
【授け屋】の勤務最終日の次の日。俺達はカルカラの王都の高級店で祝賀会をしていた。メンバーとしては、俺、ミクちゃん、リリー、アーツさん、ダイヤ侯爵のメンバーだ。
カルカラの特産料理が楽しめる、貴族でもお墨付きのお店らしい。カルカラが会食に使う事があるそうだ。確かにテーブルの上に並んでいる、バーチェ牛のサーロインステーキや、近海の海で獲ることができる
お店自体も1部屋1部屋が個室となっているので会食にはとても相応しい。出ているワインも美味しいし、久々に泥臭い事をしたのもあって満足感が半端じゃない。
「う~ん。この蟹美味しい。マーズベルでもここまで身が引き締まってプリプリな蟹無いもんね。輸入しようよ」
「確かに美味しいけど輸入か――気持ちはしたいけど出来ない理由が色々あるからな」
俺がそう言うと、ミクちゃんが「確かに――」と悲しそうに呟いた。
「ナリユキ様の手腕は流石ですね。町ではもうディアン公爵が犯人らしいという話で持ち切りです」
「俺は何もしてませんよ。この2人の集客が凄かった。特にリリーの知名度が高かったお陰です。本当に運だけはいいいんですよ」
俺がそう言うとダイヤ侯爵は深く頷いた。
「運も実力のうちってよく言いますからね。何かしらの過程を踏んだからこそ、ナリユキ様に運が転がって来たんだと思います」
「そうじゃの。ルミ坊も言っておったくらいじゃ。ナリユキは実力も凄いけど運も凄いから彼は無敵だねって。冷静に考えてもみれば、ナリユキ殿とミク殿がランベリオンと戦って倒したところから歯車が動いていたんだろうな」
「そうですね」
――何か俺の話広がりすぎて恥ずかしいんだけど。アーツさんが話すと、ダイヤ侯爵が俺の事を何かキラキラとした目で見てくるし。
「これでスペード侯爵家の人達は報われますね。私からも本当に感謝しています」
「いえいえ。本当に何もしていないので」
俺がそう言うと次はミクちゃんが首を左右に振っていた。
「
「それを言われてみれば確かに――」
「ワシはカルカラのギルドマスターと友人関係にあるが、難易度が高くて保留されていた依頼も、無事にクリアしたという報告が多数上がっているようじゃ。この国で唯一の
「私からもです。カルカラは小国家なので、大国に攻められると一夜で沈んでしまうくらい脆いのです。また、ギルドでカーネル王国のように強い冒険者パーティーがいないのがネックでした。どちかと言えば、サイスト・クローバー侯爵のような貴族が剣士としても優秀だったりしますので」
「らしいですね。実際に冒険者は何人かいましたがよくて2,000前後。基本的には1,000あるかないかくらいだったので、簡単な依頼しかこなすことができないと思っていたくらいです」
「そうですよね。ですのでナリユキ様には戦闘値のアベレージを上げて頂けたので大変嬉しいです」
まあ、確かに強くはなっていたけど、彼等は強くなったという実感は無いからな――何とも言えないんだよな。
「何かあったときに魔物と戦う勇気は与えられたとは思いますけどね」
「なのに複雑な絡みがありますもんね」
「そうじゃの。ナリユキ殿に関しては
「確かにそうですね。
「でも、後は――」
俺がそう言うとダイヤ侯爵が首を左右に振った。
「カルカラの事ですので後は私達が何とかします。今日は宿でゆっくり休んで明日はこの国から出て行って下さい。
「そうでしょうね。まあ今日はゆっくりしますよ。お料理美味しいし最高です」
「気に入って頂けて何よりです」
「このワインも凄く美味しいですよ」
ミクちゃんはそう言ってワインをごくごく飲んでいた。ビールじゃないんだから――。
そう思っていたらダイヤ侯爵は満面の笑みを浮かべていた。
「気に入って頂けて何よりです」
「明日にはもう出発ですか。どうせなら3人でこの国の観光などもしたかった」
リリーはそう言って肩を落としていた。
「ありがとうな。リリーはバフォメット倒せるといいな」
俺がそう言うとリリーはハッとした表情を浮かべた。
「まさか――バフォメットの件も奪ったんじゃ――!」
「何の事だか。でも応援しているぞ。マーズベルにもいつでも遊んで来ていいからな。まあまあ距離あるけど」
「――分かった。でも感謝はしているありがとう」
「今度はワシもマーズベルに行くか。ナリユキ殿の活躍は一部の者には伝えておくつもりだ。前提としては
アーツさんはそう高らかに笑っていたので、その
そうして、ひっそりとした会食を済ませた。正直な所、バーチェ牛や
ありがとうカルカラ。
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