第310話 裏ルートⅠ

「メルム・ヴィジャという名前か。いいだろう。余のしもべになるがよい」


「ありがたき幸せ」


 メルム・ヴィジャはそう言って人型化ヒューマノイドの姿に変貌した。それでも身長は3m程で、顔には骸骨を模した黒の仮面を被り、腰くらいまである長い銀髪が特徴的だ。鎧を身に纏わせて身の丈と同じくらいの黒い大鎌を持っている。その大男がアヌビスの前で土下座をした。


「いいだろう。認めてやる」


「流石別次元の魔物だな」


「あのメルム・ヴィジャもこうもあっさり」


 ランベリオンとフーちゃんはそう感心していた。


「ほう。不死鳥フェニックスもいるのか。なかなか面白い組み合わせだな」


 アヌビスはそう言って呑気に高笑いをしていた。もはや私達の事なんて置いてけぼりだ。


「で、サウスよ。100年程姿を見なくなったと思えばここで何をしているのだ?」


「実はここで守護者の任を受けておりまして。ノース、イースト、ウエストも各方角の守護者として、この島の安全を守っているのです」


「別に戦う必要ないだろう――な?」


 私とランベリオンにそう同意を求めて来た。「ま――まあ」と微妙な反応しかできない。


「まあ元気ならいいが――それよりこの島に国があると聞いてな――」


「それ我等も探しているのだ。しかしまあ不死鳥フェニックスが場所を知っているらしいが。アヌビス殿は助けに来てくれたのか?」


「助けに来たつもりはないぞ。ただまあ目的地が同じなら問題無い……」


 アヌビスはそう言うなりサウスの事を睨んだ。


「どうやらその裏道があるらしいな。余の魔眼は誤魔化せんぞ?」


 そう言ってサウスにじりじりと詰め寄る。


「それはいくらアヌビス様であろうとお伝えすることはできません」


「何でだ? まさか余に歯向かって殺されたいのか?」


 アヌビスはそう言ってサウスに並々ならぬ重圧プレッシャーを放っていた。サウスはその重圧プレッシャーに圧されて思わず膝をついていたが、それでもサウスは口を割ろうとはしなかった。


「つまらん」


 アヌビスはそう言ってサウスに重圧プレッシャーかけるのを止めた。その重圧プレッシャーは私達には向けられていない筈なのに、呼吸すら忘れるほど凄まじいものだった。


「アヌビスよ。息が詰まる」


「それは悪かった飛竜ワイバーンの王よ。さて、とりあえず国を探すぞ。任務はまだ続けるんだよな?」


「まあ――アヌビス殿が協力してくれるのであれば百人力だ。実は少々事態が変わっていてな」


 するとアヌビスが目を光らせた。


「話せ」


「すまない。実はナリユキ殿に依頼されていた任務なのだが、Qキューという人物を突き止めるためにこの国へ来たのだ。すると、Qキューと同じ仮面をつけた人物がちらほらと現れるわ、アヌビス殿が倒したメルム・ヴィジャの子供を討伐した事で、そのメルム・ヴィジャも追われるわで大変だったのだ」


「そうなのか?」


「はい。この飛竜ワイバーンとそこの人間に我が子を殺されました。あと、一人はジャックというこの島の巨人ですが」


「それは気の毒だったな。余のいないところで喧嘩するがよい」


 あ――そこは自由でいいんだ。案の定メルム・ヴィジャの目光っているし。本当にそういうの止めてほしい。


「そこは多分余が探している所と同じだな」


「どこを探しているのだ?」


「ペルソナという国だ」


「全く同じだ。この国ではその場所は楽園エデンと呼ばれているらしい」


 ランベリオンがそう言うと、アヌビスはもう一度サウスの方を見た。サウスは黙ったままで目が泳いでいる。次はメルム・ヴィジャを見た。すると、メルム・ヴィジャはコホンと咳払いを行った。


「我でよければ案内致しましょう。この島の地面のなかを移動する我はこの島の場所ならどこでも分かります。勿論裏道も――」


「それは頼もしい。是非案内してくれ」


「待てメルム・ヴィジャ! それだけはならん!」


 と、言ってサウスがメルム・ヴィジャを止めた。この慌てっぷりからすると創世ジェスと相当ズブズブなのだろうか。


「ほほう――」


 アヌビスが意地悪な笑みを浮かべながらサウスの事を睨めつけていた。目を細めているけど、眼光は物凄く鋭い。


「もしやサウスは創世ジェスとズブズブなのでは?」


「怪しいな」


「怪しいわね」


 ランベリオン、フーちゃん、私の順番でそう言うとサウスは冷や汗を流し始めた。まあ勿論焦ってしまう大半の理由はアヌビスだろうけど。


「メルム・ヴィジャ。貴様が楽園エデンの場所を教えるというのであれば、この場で貴様の首を取る!」


 サウスがそう言った瞬間だった。サウスはお腹を押さえながら倒れてしまった。


 当然、私もランベリオンもフーちゃんも絶句だ。


「コイツを縄か何かで縛っておけ。話が進まん」


 サウスの鳩尾にアヌビスの金色の杖が入ったのだ。これもまた一発KOだ。確か、タテワキさんが言うには超越者トランセンデンスという、物理攻撃無効、斬撃無効、アクティブスキル無効という効果を無効にするというアクティブスキルを持っているとのことだ。それの力なのだろうか?


 アヌビスの指示通り、その辺にあるツタなどを使ってサウスの体をグルグル巻きにして拘束した。でも、こんなんじゃ直ぐにほどかれると思うんだけどな。


「我に任せよ」


 そう言って前に出て来たのはメルム・ヴィジャだ。何をするのだろう? と思って眺めてみると――。


「我は自然を操る力を持っている」


 メルム・ヴィジャはそう言って、サウスがもたれかかっている樹に手で触れた。


「ご主人様。ご指示を下さい」

 

 何と樹に目と口が付いて話を始めた! 


「す――凄い」


「樹が喋った!」


 これにはランベリオンもフーちゃんも驚いている。一方アヌビスは満足気な表情を浮かべていた。


「その前にいる守護者を縛っておけ」


 その指示は意外だったのだろうか。樹は少し驚いている様子だった。


「か――かしこまりました」


 そう言って樹は自分の枝を使って器用にサウスを縛り上げた。


「何でランベリオン達をそれで捕えなかったのだ?」


 私も思っていた疑問だ。それならばすぐに殺せただろうに。


人型化ヒューマノイドの時しか使えないのだ。それに魔物の姿でいることが多いから、人型化ヒューマノイドに慣れていないから変身に少し時間がかかる。貴様等のようにそう簡単に変身できんのだ」


「成程」


「我が教えてやるぞ!」


 フーちゃんが頷いた後、ランベリオンがガハハと豪快に笑っていた。しかし、陽気なランベリオンに対してメルム・ヴィジャが向けているのは殺意だ。何ともまあ凄いギャップ。


「さあ。もういいだろう。メルム・ヴィジャ案内しろ」


「かしこまりました。こちらへ」


 こうしてアヌビスの指示でメルム・ヴィジャの後についていく事なった私達。冷静に考えたら凄いパーティーだ。人間の私、飛竜王ランベリオン不死鳥フーちゃん巨虫メルム・ヴィジャ、アヌビス――。控えめに言ってヤバい。


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