第170話 交流会Ⅰ

 部屋の中に入ると、20人のメイドが「いらっしゃいませ」と心地良く迎えてくれた。結婚式場のようなパーティー会場に円卓のテーブルがいくつも並べられている。


 俺達以外にも様々な人がいる――。とは言っても、煌びやかな衣装を着ていることから、どうやら貴族のようだ。マーズベルは魔物だらけで、貴族なんていないから新鮮だったりする。


 彼等はこちらに気付き俺達の方へ歩み寄って来た。


「皆様いらっしゃいませ。五芒星会議ペンタグラム・サミット大変ご苦労様でした」


「本日は皆様のお顔を拝見できたこと、大変光栄でございます。ここにいる者達も、この貴重な場に同席させて頂きましたこと、喜ばしいことだと感じている事でしょう。さあこちらへ」


 と、ありがちな礼をされた。周りを見渡してみると、皆S級やA級の実力者ばかりだ。勿論中には4,000越えもいるわけだが、貴族と言っても人間だけではなく、森妖精エルフは勿論、アンデッドもいるから驚きだ。当然だが、皆☆1つは持っている。それゆえに、俺達がよく漫画やアニメで見る性悪な貴族はいなさそうだ。特に俺なんか陰口の1つや2つ言われてもいいもんだが、向けられた視線は、いい意味での好奇心で、表情は非常に柔らかいものだった。


 拍手で迎えられながら席に着くのだが、その拍手をしている会場全員の表情は誰一人として濁っていなかった。


「ナリユキさん、あっちの席らしいのでまた後で」


「ああ」


 どうやら付き人だけの席があるらしいので、俺はミクちゃんとしばらく離れることに。なので、ここの席は全員国主という席だ。他の人からするとものすごく入りづらい空気だろう。俺が部下なら極力近寄りたくない。


 テーブルの上に置かれているのは、怪鳥の丸焼き。小型の土鍋に入っているテールスープ。鷹の爪のような物を添え、白ワインのソースをかけた白身魚やサラダなどの様々な料理だった。


 席に着いたのは、俺を含めた青龍リオ・シェンランさん以外の5人だ。見たところ、10m程先の壇上付近で、待機していた。恐らく堅苦しい挨拶が始まるのだろう。


「ナリユキ。もう、いつもの呼び方でいいよ」


 そう言ってきたのは、隣に座っているルミエールだった。


「そうか。カーネル王って慣れると呼びづらいんだよな」


「なんじゃ? 其方等はお互いに名前で呼び合っているのか?」


「はい。私はルミエールと呼んでいます」


 俺がそう答えると「ほう」と何か納得したような表情を、アスモデウスさんが浮かべていた。


「ナリユキ殿もカーネル王も一気に距離を縮めたのだな」


「そうですね。ナリユキとは2人で飲んだので。日本酒というお酒を出されたのですが、爽やかな喉越しで美味しかったですよ」


「まあ、途中で爆睡していましたけどね」


 俺がそう付け加えると「ナリユキ~」と袖を引っ張って来た。


「ほう。カーネル王が酔い潰れるとはとは珍しい。五芒星会議ペンタグラム・サミットの時はそのような顔を見せんのにな」


 レンファレンス王はそうルミエールに意地悪な表情を見せている。


「潰れたら。ワシが引っ叩くがな」


 そう言った後に豪快に笑うヴェストロさん。そのような談笑を行っていると、青龍リオ・シェンランさんがすうと呼吸を整えていた。


 その呼吸音と共に静まる会場。五芒星会議ペンタグラム・サミットを行う度に、この食事会を行っているらなのだろうか? 一体感が半端ない。そんなに大きな呼吸じゃなかったぞ。


「本日は、五芒星会議ペンタグラム・サミットに足を運んでくれた各国のトップ。並びに付き人達よ。忙しいなか、この地に足を運んでもらった事に感謝致す」


 と、言っているが強制転移フォース・テレポートだったから別に苦労はしていないけどな。


「また、この機会に顔を出してくれた貴族達。そして準備をしてくれた余の部下達よ。諸君らにも感謝致す」


 すると貴族達とメイドの皆が青龍リオ・シェンランさんに向かって小さく頭を下げていた。


「この場では我々の国が、他国と交流を深めるための食事会だ。各国から来てくれた皆は存分に楽しんでほしいということと、我が国の者達はくれぐれも粗相のないようにしてほしい。いつもならこのような形で終わるのだが、今回は皆に紹介しておきたい人物がいる。ナリユキ・タテワキ閣下、ミク・アサギ殿。前へ」


 青龍リオ・シェンランさんにそう紹介されて俺はそうだよなと思いながら席を立った。


「私も?」


 と戸惑っているミクちゃんは、ドレス姿でもなく、いつもの戦闘服なので、「これでいいのかな~」と不安を吐露していた。


「他の付き人も戦闘服だから気にするな」


「そうかな。別にいいならいんだけど」


 小声で話しながら青龍リオ・シェンランさんのところへ着いた。


「ここに立つ青年と少女は新国マーズベル共和国の主と国民だ。ここに出た時点で試しただろうが、究極の阻害者アルティメット・ジャマーを持つ猛者だ。その彼等が、あの軍事大国、アードルハイム帝国を打ち破ったのだ!」


 すると、貴族達はどよめいていた。やっぱりそうなのか! や女性の憧れね。などの声が上がっていたのだ。


「軽く自己紹介をしてくれ。まずはミク殿から」


 そう言われて緊張気味なミクちゃん。動画配信者といえど、貴族達の前って緊張感が違うからな。


「私はマーズベル共和国の主、ナリユキ・タテワキ閣下の御側を務めさせて頂いておりますミク・アサギと申します。名前でお気づきかもしれませんが、転生者ということもあり、まだまだこの国について知らないことばかりなので、ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます」


 ミクちゃんがそう述べて頭を下げると会場が拍手の音で包まれた。しばらくして止み、次は俺の番だと意気込んだ。


「私はマーズベル共和国の主、ナリユキ・タテワキと申します。いきなりぽっと出の若造が生意気な! と思われる方もいるかと思いますが、私は一人でも多くの人によりよい人生を歩んで頂きたいと思い、ここにいるミク・アサギと飛竜ワイバーンの王、ランベリオン・カーネルの大きな協力により、開国することができました。ですので、皆様とはよりよい関係を結べればと思っております。どうかよろしくお願い申し上げます」


 俺がそうやって頭を下げるとミクちゃんと同じく拍手で祝ってくれた。しかし、青龍リオ・シェンランさんに背中を軽く叩かれて。


「遜りすぎだ」


 と、一言貰った。いや、マジで俺もこういうの慣れていないんだって。別に丁寧語でいいじゃんって思った。


「挨拶は以上だ! 皆の者楽しんでくれ!」


 その合図で皆はグラスを天に掲げていた。そう考えると思う。


「乾杯って便利だな」

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