第150話 無念Ⅲ
「ガープさん。本当に反乱軍を立ち上げるのですか?」
これはまた別の記憶だ。ガープの目の前にはいるのはラングドールだ。そして場所はどうやらあのお店だ。確かティラトンって名前だったか。俺が来たときは破壊されていたもんな。お店の中にいるのは、この2人と
「ああ。しかし、私は表立っての活動はできない。副団長をラングドール団長にして頂きたい。君はあの忌まわしい事件を許していないだろ?」
「確かに許してはいません。私の師匠を――。尊敬するカレス・ロビンソン団長を殺したのは間違いなく国です――。しかし、万が一な事が起きれば、我々だけでなく我々の身内にも危害が及びます」
「そうだな」
ガープはそう言って顔を伏せた。ガープは秘密を吐露できない――。ガープは既に家族が人質になっている。
「しかし、我々が立たなければ、未来永劫このアードルハイムに明るい未来は無い。何とか一緒に手を組んでくれないか? 君が持つ強い信念があれば、必ず成し遂げることができるはずだ」
ガープはそう言いながら、ラングドールの拳を握った。
「私は見ていた。君はカレス・ロビンソン団長の墓石の前で、泣き叫び、何とも言えない感情を出していた。こんな国はおかしいと叫んでいたじゃないか。何が正義なんだ――と。私は魔族だから長生きしている。それで確かに他の国も見てきた。そして本にも目を通した。君はコヴィー・S・ウィズダムという人物を知っているかな?」
「名前だけは聞いたことがあります」
「様々な国を渡り歩いた偉人だ。その著書が簡潔に言うとこう記している。アードルハイム共和国は、アードルハイム帝国になってから、さらに独裁政権が進み、私欲の為に無益な弾圧をする最悪の国だとな」
「やはり我々が考えている事は間違っていなかったのですね?」
「そうだ。まあ本に記されている事を丸々信じるのも可笑しい話ではあるが、私がその本を読んで熟考した結果。やはりこの国はおかしいのだ。他国もアードルハイムを煙たがっているが、アードルハイムの軍事力は他国を寄せ付けない。ここ数年でマカロフ卿が協力していることもあり、軍事力はさらに強化された。その結果、アードルハイムにわざわざ攻撃する国も無い。あるとすれば、捕まっている仲間を救出しに来て乗り込んでくる輩だけだ」
「そうですね。アードルハイムは確かに他国と比較して、軍事力はとてつもないものですからね」
「そうだ。だから、我々が立ち上がるしかないのだ。そして根源を叩く」
「ですね――。しかし、我々だけではあまりにも戦力不足です」
「それなら、私も参加させて頂きますよ」
そう入って来たのは、グラスを拭いていたティラトンさんだった。
「騎士団長様達が、国民の為を思ってくれているのは聞いていました。それにガープ様」
「何だ?」
「ラングドール様は、昔からこのお店に通ってくださっているですが、よく私と2人だけのときは、国に対しての不満をよく漏らしております。カレス・ロビンソン団長様が殉職された晩も、記憶が飛ぶほど飲んでおられました。私達は歳が近いからというのもあるのでしょうか。よくこのお店に来る若い兵士や、喧嘩屋、職人などは、皆が国に対して不満を漏らしていますよ。ですので類は友を呼ぶ――。常連だけが集まる地下施設も実はあるんです。そこでなら彼等は協力してくれることでしょう。勿論、反乱軍を立ち上げるのなら、このお店をアジトとして使って頂いても構いません。いかがでしょうか?」
「ん? ちょっと待って! 私はこのお店に通っているのが長い方だが、そんな場所があったのは知らないぞ!」
ラングドールはそう言って立ち上がった。
「当り前じゃないですか。帝国軍の第5騎士団長なんですから」
「確かに」
そう説得されて席に着くラングドール。
「まさか、
「勿論ですとも。ここで立ち上がらなければ男ではありません」
そう言って笑顔になるティラトンさんに、ガープは安堵を浮かべていた。とりあえず仲間を1人増やすことができたもんな。俺でもアンタと同じ表情になると思う。
「とりあえず少し考えさせてください。今はすぐに判断できません。ったく――。国を敵に回すなんてどうかしていますよ。それに魔族のアンタが先導するなんて」
「私がこの国で一番強いのだから問題なかろう」
すると、ラングドールはハアと大きな溜め息をついていた。
「そうですね。確かに味方になるのは非常に頼もしいですよ」
「我々が目指すのは、人間と魔物の共存だ。人間を陥れるような事はしない。あくまでよりよい生活を手に入れる為に仲良くやろうということだ」
「そうですね。そこは確かに、私が幼少の頃から抱いていた疑問ですから。
「ええ。思っておりましたよ。ですので、ガープ様についていけるのあれば光栄であります。
「そうだな」
「2人共凄いノリノリですね。とりあえず今日は帰ります。返事はまた連絡させて頂きますので」
「分かった。すまなかった」
そう言ってラングドールは店を出て行った。
「仲間になってくれるだろうか」
ガープは腕を組みながら俯いてそう言っていた。
「ガープ様とあろう御方が気が弱いですね。大丈夫ですよ。ラングドール様は必ず貴方の味方になります。何しろ正義感の塊ですからね――。彼は今迷っているだけなのです。リスクを冒してまで信念を貫くか、このまま騎士団長としてのレールを乗りながら、国民にできることを極力行うかを――。彼の働きぶりはガープ様ならご存じでしょう?」
「そうだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます