第110話 尾行Ⅰ

「今のすごい格好よかったよ!」


「お――お姉様と呼ばせていただき――」


 あれ? 何かアリスちゃんが私の顔を見るなり、すごいモジモジしているんだけど、これどういうルート?


「え? そんなに良かった?」


「スカッとした!」


 まあ、ノア君は我慢していたから、私が制裁を下したことで気分は晴れたのか。


「本当にありがとうございます聖女様」


 ロビンソンさんはそう言って私に土下座をした。それに続くように他の民間人達も私に頭を下げた。ロビンソンさん達が私の事を聖女と呼んでくれたので、これからはこの国では聖女と名乗ったほうがいいかもしれない。恐らく帝国兵側にも、怪しい仮面を付けた聖女と呼ばれる女性と、その他2人という呼ばれ方をされるだろう。


「聖女様は本当にお強いのですね。それにあんなに重症の人間でも、あんなに一瞬で回復ヒールできるとは――。まるで大天使のようなお力です」


 まあ、カルベリアツリーでその大天使をいっぱい倒したから、こんなに凄い回復ヒールができるわけだからね。


「しかし、私達は大丈夫になりましたが、聖女様達がさらに危険になったのではないでしょうか?」


「まあそれはそうですが、大丈夫だよね」


 私が振り返ってノア君と、アリスちゃんは「大丈夫」と答えてくれた。


「そ――そうですか」


「それにこれはこれで私達にとっては都合がいいのです」


「狙われることが都合いいのですか?」


「はい。内容は言えませんが、私達の存在が知られれば目立つというデメリットがメリットになりますから」


「そ、そうでしたか」


「ええ。じゃあそろそろ私達も行こう」


「追いかけるのですね!」


 アリスちゃんがそう明るく言っていた。ノア君はそれを聞いて口角を釣り上げているので、多分大暴れできると勘違いしている。


「ほ……本気ですか!? それに今向かっても馬がありませんので、追いつくことはできないでしょう」


「大丈夫ですよ。ノア君お願い」


「はいよ」


 ノア君は来た時と同じくらいの大きさの方舟ノアズ・アークを出してくれた。あまりにも珍しいスキルで、ロビンソンさん達は、魚のように口をパクパクとさせて驚いていた。


「す――凄い」


「あんなスキル初めて見た」


 そう口々に驚きの感想をこぼしていたので、ノア君は少し恥ずかしがっているようだ。仮面をつけているから表情は分からないけれど、挙動が少しソワソワしている。


 私達が方舟ノアズ・アークに乗ると、いつの如くプカプカと浮遊し始める。


「う――浮かんでる」


「凄い! まるで神の力だ!」


 そう私達の眼下から聞こえてくるので、ノア君は鼻歌を歌い始めた。


「ノア君嬉しいんでしょ?」


「う――嬉しくなんかないもん。普通だもん! てか耳元で言うな! 驚くじゃん!」


「ごめんね~」


「絶対に反省していないな」


 ノア君は肩を落としてそう呟いていた。


「それではまた!」


 そう私が手を振ると、ロビンソンさん達は手を振るのではなく、拝んでいた。――。そうか私、聖女様扱いされているんだ。


 それからはしばらく進んでいると、荒野を駆けている馬に跨る帝国兵の軍勢が見えた。


「もう追いつきましたねお姉様」


 ――。アリスちゃんにお姉様呼ばわりされるのは全然いいんだけど、多分私より100歳程は上のはずなんだよな。いや、でもこんな可愛い子にお姉様って言われるのは趣があっていいか。年齢なんて気にしない気にしない。


「そうだね。ノア君もう少しスピード落とせる?」


「はいよ」


 方舟ノアズ・アークのスピードが緩やかになり、様子を見ていると、帝国兵達は西の方向へと進路を変えた。


 しばらくついていくと、住宅街のような場所に訪れた。さっきの町とは違い、町全体が綺麗だった。


「私は、物陰に隠れながら天使の翼エンジェル・ウイングを使って追いかけるから、ノア君とアリスちゃんは方舟ノアズ・アークから降りて、目立たないように行動して」


「了解」


 私は立って天使の翼エンジェル・ウイングを展開して、方舟ノアズ・アークから下船した。


 ノア君は指示通りに方舟ノアズ・アークを町の入り口付近に着陸させて、そのまま2人で街中へと入って行った。


 私はできるだけ物陰に隠れながら飛行した。しかし、特に特別な場所に基地があるというわけでもなく、隠れ家のような場所でもない。


 この町の帝国兵の支部みたいな感じなんだろうか。それこそアニメで見ていたギルドのような木造建築物の前で馬達は足を止めた。


 町の人々は帝国兵が通る度に会釈を行っていたが、心の底から出ているものではなく、しないと何らかの罰を与えられるから仕方なくしているといった感じだった。


 兵士というのはどこの国でも尊敬されるものだと思っていたから、帝国兵が普段からいかに下劣な行動を皆にしているかが手に取るように分かる。


 この風当たりの強さは、前の世界でいうと警察官みたいなものだろうか。私の意見としてはどちらとも言えない。ストーカーの被害を出してもなかなか動いてくれなかったりするから。けれども大学の先輩が一課で、刃物を振り回す凶悪犯罪者と毎日対峙していた話も聞いているから、正直なところ複雑な気持ちだ。


 だから、第3騎士団に関しては全く尊敬されていないということだ。そう考えるとこの町でもトラブルが多いはず。


 私は屋根に乗って天使の翼エンジェル・ウイングを止めて屋根から細い通路に飛び降りた。


 そして私は敢えて仮面を取って待っていると、ノア君とアリスちゃんが走ってくるのが見えた。


「なんだ仮面取るの?」


「ええ。この町にいるならこっちのほうが都合がいい。多分、あの帝国兵達は、仮面の3人組を見つけ次第報告って町の人達に言うからね」


「別にいいんじゃない? 片っ端からぶっ飛ばしていけば」


「駄目だよ。ナリユキさん風に言うと証拠エビデンスが必要だから。まだ酒場って時間でもないから、そこのカフェに入ろう」


「分かった」


「はい!」


 ノア君とアリスちゃんが返事してくれたので、私達は帝国兵の支部基地の向かい側にあるカフェで、少し休憩をしつつ情報を集めることにした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る