第85話 潜入! アードルハイム帝国Ⅱ

「なら俺達も一緒に混ぜてくれよ」


「嫌です!」


 すると、兵士は女の子を突き飛ばした。目を見る限り明らかにかっちんきてるわ。


「どうするん? ヤバない?」


「レンさん」


 しゃあないな。女の子を見過ごすわけにもいかへんし――。


「ノーディルス、バレへんようにアンデッド召喚するんや」


「ん? なんでだ?」


「アホ。そんなんも分からへんのけ。人しかおらんへんところに急にアンデッド出てきてみいや。混乱して兵士は戦わなあかんようになるやろ」


「成程。流石レンだな。任せろ」


 すると、ノーディルスは1つの黒い液体を床に垂らした。その液体を俺が触れると偽装フェイクを発動し、黒い液体から、透明な色に変える。一見どっからどうみてただの水や。


 これでどこから出てきたか分からへんやろ。


 そして、その液体はスルスルとまるで生きているように床を這った。席の近くまで行くとその液体は形を整えて、鎧を着た骸骨の騎士へと変貌した。


 その瞬間、店の客は大混乱。


「アンデッドよ!」


「なんでこんなところにアンデッドがいるんだ! 逃げろ!」


 そう言って店内はエライ騒いでる。兵士は流石に剣を抜くしかなくなって、その隙にさっきの女の子達は逃げた。そんで俺達も逃げた。残ってるんは3人の兵士と鎧を着たアンデッドのみ。


 店の外で何人かは兵士が戦っている姿を見てた。まあ呑気なこっちゃ。かくいう俺達もそれに紛れてるねんから、他の人から見れば同じやな。


「なんか食い逃げみたいになってもたな」


 俺がそう零すとアズサが反応してきた。


「次行ったときチップで多めに払ったらええやろ」


「そうやな。で、あのアンデッドはどんくらいの強さや? あのアンデッドやとだいぶ下級やろ。C級くらいか?」


「そうだ。あの場をどうにかするだけだろ?」


「そうやな。ほら終わったみたいや」


 店の中を覗くと兵士はあっさりとアンデッドを倒した。手元をよく見たら驚くもんを持っていた。


「レン、あれ無線機ちゃうの?」


「そうやな。思ったより技術力高いな」


「無線機ってなんですか?」


森妖精エルフの念話みたいなもんや。ボタンを押すだけで同じ無線機を持っている奴と連絡することがきできる」


「それは便利ですね」


「人類は凄いな。魔物と違ってどんどん新しいモノを造る」


「とりあえずあそこ戻ろか。多分事情聴取されるやろ。ここで大人しくしてたほうがええ」


偽装フェイクで顔もスキル内容も変えているからバレることはないだろうしな」


 事が済み、お店におったお客さん達はあんなことがあったけど、なんやかんや兵士達に感謝していた。兵士達からすれば弱いアンデッドでよかったなと漏らす者もいれば、アンデッドが入っていたこと自体が非常事態だ! と豪語する者もいた。


 しばらく待っていると兵士がゾロゾロと集まってきて、店内におった俺達や調理人、ウエイトレスも集められて事情聴取を受けることになった。 


「アンデッドを呼び出したのは、あの女達が怪しいな。あんなことが起きたのに、残ってないじゃないか」


「まあ気にするなって。アンデッドが出たら店を飛び出しても可笑しくないだろ。もし、俺の嫁さんが同席していたらそのまま逃がしちまうさ。逆にここに残っているのは根性がある」


「ちっ――そうかよ。とりあえず残っている皆はここに集まってくれ。身体検査を行う」


 兵士の指示で俺達は身体検査を行うことになったが1つ問題が――。


 何と、女性の身体検査も男の兵士がするらしい。


「うう――私、男の人に身体検査されるの嫌ですよ。下着とかも見られるんですよね?」


 ネオンちゃんはそう言って涙目になっていた。まあ変な事なければええけど――。


 しばらくして、俺とノーディルスは身体検査を終えた後、軽い事情聴取も受けてたけど無事に解放された。


「アイツ等大丈夫かな?」


「見てみ。女性陣の顔色めちゃくちゃ悪いで。それに身体検査が全然スムーズに進んでない。男の方が人数多いはずやのにやで」


「心配だな」


「せやな。ちょっと聞いてみよか」


「そうだな」


 女性陣の身体検査の列を仕切っている兵士に近付いてみた。


「どうした?」


「女性陣遅くないですか? 何か問題でもあったんですか?」


「いや、何も問題ないさ」


 その言葉とは裏腹に、一瞬口角が吊り上がっていた。


「俺の知り合いがいてて、心配なんで少しだけ様子見せてもらう事できますか?」


「列にはもう並んでいないので、今頃受けているはずなんですよ」


 ノーディルスがそう補足してくれたけど――。


「駄目に決まっているだろ」


「そこを何とか」


「あまりにしつこいと首をねるぞ」


 そう言って兵士は抜刀して、俺の顔に刃先を突きつけてきた。


 すぐに暴力で制そうとする輩が俺は気に食わんから、つい刃先を向けられたとき睨め付けてしまった。


「何だその目は。気に食わんな」


 兵士はそう言って俺に剣を振りかざしてきた。まあやれるもんならやってみろや。俺には斬撃無効が付いてるねん。


「止めろ!」


 そう言って、10人程の兵士を引き連れて、正面の石の階段から下りてきたんは、金色のド派手な鎧を身に纏ってる長い髪をした金髪の男前の兵士やった。

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