第72話 漂流者Ⅳ
「体調はどうだ?」
ナリユキさんが入って来るなりそう尋ねた。
「お陰様で大丈夫です。ありがとうございました」
フィオナさんはそう言って頭を下げた。
「はじめまして。俺はナリユキ・タテワキ。アリシアさんの許可を得て、マーズベル共和国を建国した者です」
「私はカーネル王だよ。宜しくね。何故王が? と思っているだろうから先に説明しておくと、ナリユキ君とは縁があったので、今日は建国したマーズベル共和国を視察していたんだ」
「宜しくお願いします」
フィオナさんはナリユキさんとカーネル王に一度挨拶すると、クロノスさんとアリスちゃんに視線を戻した。
「僕はカーネル王に仕える側近の魔族、クロノスと申します。状況把握を手っ取り早く行いたかった為、フィオナさんの過去を体験させていただきました。勝手なことをして申し訳ございません」
クロノスさんはそう深く頭を下げると、全然大丈夫ですよ! と言っていた。
「改めまして、私はマーズベル湖に棲む、
「宜しくお願いします」
そうしてここにいる人達の挨拶は一通り終わった。
「フィオナさん。状況は一通り把握している。大変辛い思いをしたと思う。だから、しばらくマーズベルで休んでいけばいいよ」
「本当にいいのですか? それに先程ミク様からは住んでもいいと言われたのですが」
「行くアテが無いなら全然いいよ。それに下手な国よりうちの国の方が安全度は高いからな」
その返答にカーネル王とクロノスさんは確かにと頷いていた。
「カーネル王ですらそう思うのですか?」
「そうだね。正直うちの国より軍事力はある。ここにいる者以外に、S級の戦力は4人いる。しかも、1人はミクさんより強いらしい。実際戦っているところは見たことがないから私からは何とも言えないけどね」
「S級が他に4人――。マーズベルと言えばランベリオン様が有名ですが、勿論その戦力の内の1人ですよね?」
「そうだよ。ランベリオンはここにいるナリユキ君とミクさんが10分前後で倒したんだ。それにナリユキ君、ミクさん、ランベリオンはカルベリアツリーのダンジョンを699層までクリアしている。マーズベル共和国で一番強いのは元首であるナリユキ君だよ」
「そ――それは凄いですね。あたしも過去にチャレンジしたことがありましたが、550層前後で打ち止めでした」
「まあ、ここいる人達は皆普通じゃないんだよ」
カーネル王はそう言って笑みを浮かべると、フィオナさんの表情は少し柔らかくなった。
「それではしばらくいさせてもらっても宜しいですか?」
「勿論いいですよ。住むっていうなら家建てるからいつでも言って」
「それは申し訳ないです。わざわざ家を建てるなんて」
「ナリユキ君は、フィオナさんのユニークスキルのような珍しいユニークスキルがあるんだ。手から何でも出せるスキルなんだよ」
「手から何でも――?」
「そう。ここの部屋にある物は全て俺の手から出した物なんだ。そうだね例えば」
そう言ってナリユキさんが出したのはデザートイーグルだった。もっと何か他に出すもの無かったのかな? 珍しい物を出せるというアピールなのだろうか。
「凄いですね」
フィオナさんの感想に満足気な表情をしているナリユキさん。何だ? ちょっと可愛い。
「で、いらないと思えばこの通り」
そうするとデザートイーグルはナリユキさんから手から消えた。
「話を掘り返すようで悪いけど、フィオナさんは珍しいスキルを持っていたから、捕虜として捕まっていたんだよね?」
「そうです。あたしは奴等の性奴隷でした。勿論、スキルの効果で奴等にパッシブスキルやアクティブスキルを付与もしておりました。何度も死のうと考えました」
「クロノスさん。捕まった原因までは過去に遡ることできなかったんですよね?」
「そうですね」
「そもそも何で捕まったんだ?」
「捕まったのはあたしの仲間の
「S級の人や魔物でも簡単に捕まるのか」
「ええ。あたしは抵抗しましたが呆気なく――」
「やはり手練れは多いのか?」
「そうですね。S級でもかなり上位の実力者が1人います。ガープという名の魔族」
「ガープですか。確かに有名な魔族ですね。総合ステータスも確かに高いですが、知識を与えたり、奪ったりできるスキルを有しています。確かに、ナリユキ様、ミク様、ノア様と同等の実力はあるかもしれませんね。僕やベリトではどう転がっても勝てません」
そんなに強い魔族がいるのか。皆捕まってしまうのも無理は無い。
「ベリト? あの邪眼を持つベリトがマーズベルにもいるのですか?」
「いますよ。彼は悪事を働いていましたが、今はナリユキ様の忠実な部下ですよ。ただ今の彼には邪眼は無さそうあんですよね。あればアクティブスキルではありますが、パッシブスキルなので同じ魔族の僕なら見れば分かるのですが」
「ベリトは二重人格だから、もう一人のベリトの時に出てくるんじゃないか? 俺は鑑定士Ⅵあるから、
「そうでしたか。ベリトの名前は、捕まっていた時も名前を聞く機会がありましたから――。アードルハイムでは死亡したことになっていますが、ガープは生きていると踏んでいました」
「なかなか頭がキレる魔族だな」
「そうです。他にも手練れは勿論いますし、現在のアードルハイム皇帝もS級の強さはありますので。それこそ
「成程な。まあそんなもんベルゾーグの
「ベルゾーグはそんなに強いのかい?」
「カーネル王はスキルの効果視れませんよね?」
「ああ」
「ベルゾーグはスキルを60秒間使用できなくするユニークスキルがあるんですよ。効果範囲は3km。また、電気なども使えなくなります」
「物凄く強いね――」
カーネル王のリアクションも物凄く頷ける。私はそれを恐れて先手必勝で倒したんだから。それさえ発動すれば、ユニークスキル無効のスキルを持っている人しか勝てないからね。
「まあ、お昼時ですしそろそろご飯にしますか。少し厨房の様子見てくるので待っていて下さい」
「え? 何出るんだい? 私もついていっていいかな?」
と、凄くワクワクしているお茶目なカーネル王は、ナリユキさんの後についていった。
「クロノスさんはついていかなくてもいいんですか?」
「大丈夫でしょう。それに四六時中カーネル王についていると、嫌がられますからね。ナリユキ様は僕なんかより全然強い護衛でしょうから」
「他国なのに気を抜きまくっていますね」
「貴方達ほど無害な人間はいないと思っていますから」
私の問いかけにクロノスさんは満面の笑みを浮かべてくれた。相変わらず男の人なのにお人形さんみたいに可愛い顔をしている。
「あたしもそろそろ体を動かした方がいいですね」
フィオナさんはそう言ってベッドから出るとストレッチを始めた。
「アリシアさん。それじゃあ私達は会議室にいるので、折をみて来てください」
「かしこまりました」
「行きましょう」
私と、アリスちゃん、クロノスさんはこの部屋を後にした。
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