第7話 四義姉妹

          ◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆

ニンゲンと魔族が互いの“可能性”を求め、模索しようとしていた―――と、同じ頃。

魔族側でも新たなる動きがありました。


その“動き”―――と、言うのは……以前のお話しにもあったように、現状の魔族としての有り方に失望し、各地に散らばった者達―――いわゆる『魔女』達の事なのですが。


その一人―――【西の魔女】の固有領域テリトリーにて……


「そなたが妾を訪ねてくるとは、珍しい事もあるものよ……いかがなされたのじゃ、【南の魔女】。」


「『この滞りし世が―――……』」

「(うん……?)」


「『僅かわずかながら動き出した……。』故にワレはナレ訪ったおとなったのだ。」


【西の魔女】のもとを訪れたのは、【南の魔女】……

そう―――【北の魔女】であるイセリアと交流を持つ唯一の魔族……。


その人物が【西の魔女】を訪れた理由こそが、今まで変わらなかった世界が、変わる為に少しずつ動き始めたから―――と、言うのです。


その事に【西の魔女】は―――……


「判らぬモノよ―――そのような些末さまつな事で妾を訪ぬうたずぬうと言うのは……な。

それに、妾達はそのあまりに強すぎる“個性”ゆえに、他とは迎合せぬ―――互いに干渉せぬ……と、その暗黙の了解を知らぬわけではあるまいに。」


「フ……いかにも、ワレも以前まではその様に思っておった。 だがな―――西の魔女……」


西の魔女も、南の魔女も、一口で言えば“魔族”―――

そして魔族は、ニンゲン達と比べ個々の身体能力に優れる為、“他との迎合”―――つまりは、ニンゲン達と同様に徒党を組み、『軍団』を作る事を“善し”とはしていなかったのです。

しかし―――ここ何代かで、そうした強き者であるはずの魔族としての矜持が薄れ、今代に於いては近年稀に見る強大な軍事としての抑止力である『軍団』を作り上げてしまったのです。


『魔族は、“個”として強くあらねばならない』―――


いにしえより息づいてきた有力な魔族は、今代に大いなる失望の意を表し、そして各地に散らばっていった―――……


それが、“東西南北”の【魔女】であったり―――【大悪魔】や【死せる賢者】であったりしたのです。


ナレは【学士】に会った事はあるか。」

「“風の噂”―――には、聞いたことはある……。」


「そうか……ならば一度お目にかかった方が良いぞ。」

「なぜじゃ―――」


「これまでの価値観がゴミの様に思えてくる……。

ワレも、この世に生を受けて数千年……万の域に達するが、あのような発想は思いもせなんだ。

それにな、その御方のお話しは、既に『彼の二人』にも通してあるのだ。」


「『彼の二人』……とな?」


「この度、ナレもと訪ったおとなったのはほかでもない……ナレに彼のお二人を引き合わせる為に―――なのだ。」


そう……今回、西の魔女の固有領域テリトリーを訪れていたのは、南の魔女一人だけではありませんでした。


【大悪魔】に【死せる賢者】―――この二者……。


西の魔女も、その二者の事は耳に及んでいました。


数々の“魔導”“魔術”に精通し、その辛辣な謀略は他の追随を許さない【大悪魔】。


その【大悪魔】以上に“魔導”“魔術”に精通し、総てのことわりを我が物として知り得た【死せる賢者】。


        * * * * * * * * * *

「そなたらは―――!」

「初めまして―――西の魔女殿。」

「ヨロシクねえ~~―――♪」


西の魔女は、今自分の目の前に彼の二人がいる事に驚きを禁じ得ませんでした。

それもそのはず、この西の魔女自身この世に生を受けて、まだ多寡たかだか3000と有余年―――

それに対し、大悪魔は8500年余り―――死せる賢者に至っては、9000年の時を紡いでいるのですから。

{*ちなみに、南の魔女は9500年と、魔族のなかでは最高齢}


そんな“長者”が、わざわざ自分の領域まで足を運んで頂けるものとは、思ってもみなかった為―――……


「これは……夢なのではなかろうか―――妾は常々、そなたらの智と交わってみたいと思っていた処なのじゃ。」

「おお~~そいつは話しが早い―――それじゃ、早速……行きつけの一杯―――と、行こうじゃないか♪」


「待て―――【ガラティア】……その話しはまだ早い。 話しを運ばせる上では、“筋道”―――順序と言うものがある。」

「“筋道”―――って言った処で、この人の口からはもうその事は言っているじゃない。」


「【ジィルガ】よ……ナレはワレがこの日の為にと、どれだけの―――」


「なあ? あんたもそう思うだろう?【女媧】殿。」

「は? は……あ―――」


「こいつ―――【ミリティア】が言っている事、つまり私達4人がこの機会に“よしみを結ぼう”……と、こう言う事なんだよ。」


驚くべき事実として―――


【西の魔女】こと【女媧】


【大悪魔】こと【ジィルガ】


【死せる賢者】こと【ガラティア】


【南の魔女】こと【ミリティア】


この4人こそ、この後の歴史の転換に大きく寄与して来るのです。


しかしながら……?


「おのれら~~!折角ワレが用意していた“プレゼン”を台無しにしてくれおって!」

「え゛え゛~~? 私は何もやってないでしょうに―――完全なとばっちりだわ?」

日和見ひよみんじゃないよ―――そもそも、この人の計画バラしたの、お前だろうに。」


「あ゛はw バレた?ww」


「いい加減にせんか! ああいや、申し訳ない……こう言う手筈ではなかったのだが―――」

「一つ質問を……そなたら初見同士よな?」


「ああ? うん―――」

「そうなんだけど~~不思議とこの人とは、息が合っちゃうのよね~~」


南の魔女ことミリティアにしてみれば、この日の為に―――と、計画していたことが自分に匹敵する智の持ち主によって、総てネタバレされてしまった事に憤慨をしていたわけなのですが……

西の魔女である女媧が感じていたのは、ロクに交流もなかったはずなのに大悪魔ジィルガと死せる賢者ガラティアの、息の合った掛け合い……

それに女媧自身も望んでいた事―――いつかは、智の長者として知られている2人との接点が交わり、更なる智の高みへと昇華りのぼりたかった……


これが―――これが運命……“運命”と言うものならば、二度同じ扉は叩かれはしない、機会は訪れはしない―――と、思い……


「そう言う事であったか―――……斯様なことは年少である妾の方から伏して頼むのが常道であり、また礼儀と言うもの……ゆえに、確かに順序が違いますな―――ですがこうして、智の長者たる御三方が妾の固有領域へとわざわざ足を運んで下されたのじゃ。 そこは、感謝しなければなりますまい……。」


「ああ~~いいんだよ、そんな堅っ苦しい事。 お互い、肚を割るには酒の席が一番さねw」

「酒……で、ございますか。 良い趣向をお持ちですな。 では妾が酒の肴を用意して参りましょう。」


「フフ~ン、それじゃ愉しみにしてるわよ? 私は、ちょいとばかりうるさいからねぇ?w」

「はは―――でしたら、少しばかり気合を入れないといけませんかな。」


何も、堅苦しい雰囲気はいらない―――お互い肚を割って話し込むには酒が一番―――と、死せる賢者ガラティアは、持ち込んだ自前の酒瓶を披露すると、西の魔女女媧も、それに見合う“肴”を用意する―――……その、“酒”と“肴”を論じ評価する大悪魔ジィルガ……

何も、自分が心配する余地など、どこにもなかった―――南の魔女ミリティアは久々にほろ酔い気分となり、更なる胸の内を明かし始めたのです。


「ワレの肚の内など既に読まれておったか……。

それよりガラティアにジィルガよ、そなたらは学士には目通りをしたか。」


「ああ―――……大した奴だ、あれは一代の傑物なのかもしれないねぇ……。」

「ええ―――私達も、あの発想はなかった……。 それを“さらり”と口に出来てしまう辺りあたりまことなら今までのどの魔王よりも強大となれるでしょうね。」


「お二方までも、その様な評価を―――…… (ふうむ……)ならば妾も一度、目通りを願いたいものじゃな。」


「けど―――ジィルガ……あんたも感じていたんだろ。 もし、それが“いつわり”だったなら―――」

「フフ―――それは“言わぬが華”。 女媧、あなたもあの方の智に触れてご覧なさい。 そしてあなた自身が、“虚”か“実”かを選ぶのよ。」


「そして、晴れてどちらか選んだ時―――迎えようじゃないか……私達の『交流の環』に。」


けれどそれは、最早結果は視えていた―――事実、この後西の魔女女媧は学士と会い、その智の高さ、深淵に感じ入り“実”と見定めたのですから。


この事に伴い、ミリティアを「長女」、ガラティアを「次女」、ジィルガを「三女」、女媧を「四女」とする、『四義姉妹』が結成されたのです。


されは……したのですが―――


「学士殿の智や、その先を見据える眼力の確かさは、判った―――の……じゃが。」

「ああ~~ありゃ、ちょっとまずいかねぇ……。 あの武力ブリキじゃゴブの方が強いかもよ?」

「だからこそ―――の、私達なんでしょ。 この4人で周りをがっちりと固めてあげれば……」


「いや―――それでは些かいささか足らぬ。 そこで―――じゃ、妾達4人以外にも心当たりはあるのであろう?」

「フッ―――さすがに察しが好いな。 実はとびきりの無双の長者が2人いる。」


「そいつはまさか―――!?」

「ガラティア様程の方が、そんなにまで驚かれるとは―――……」


折に触れ学士と会う事になり、その理想の高さ―――智の深さに感じ入る女媧なのではありましたが、そんな彼女でさえ見抜けた事―――それは、学士は智を求めすぎるあまりに、武の方はおざなり……この4人の内では一番に武に通じているガラティアの評価が正しければ、彼の方の理想は脆くも崩れ去ってしまうのです。

そうならない為にも、自分達4人が学士の周囲を固めれば……との事でしたが―――

女媧は、自分達4人少しばかり手が足らないと思い、その事を論じてみると……長女ミリティアより、その事はすでに織り込み済み―――とでも言う様に、2人の存在を明らかにしてみせたのです。


すると―――ガラティアの反応……この人物をしても唸らせる程の無双の長者……そして知る事となる―――その生涯に於いて、無敗を誇れるもう一組の「姉妹」の事を。



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