第21話 あばよ
「ハァ~~~~ッ、やれやれ、朝っぱらから無駄な運動させやがって……」
溜息交じりにそんなセリフを呟きながらも、剣についた返り血を払い落としていく。
そんな中、
「あ、あの、が、ガーネットさん……?」
「ん~~? ああ、ちょっと待て……」
兄ちゃんがおっかなびっくりといった様子で話しかけてくるも、ソレを手でもって制止し、改めて食卓を見回してみたところ、
お、いたいた。
「おう、ねーちゃんっ!」
「ひぃっ!? え? あ、ハ――ハイッ! な、何でしょうかっ⁉」
壁際に青い顔してへたり込んでしまっていたメイドのねーちゃんに声をかけていく。
「ああ、わりーけどよ、飯の続き持ってきてもらえっか?」
「え? め、飯の、続き……?」
そう言って、目を二度三度とぱちくりさせるねーちゃん。
「おう、さっきはこのボンクラ共のせいで飯を途中で中断する羽目になっちまったからな……。それに、俺もちょっと動いたせいで腹減っちまったから大盛で頼まぁ♪」
そんな俺の声に、最初こそ戸惑ったような顔を浮かべていたものの、
「わ、分かりました……。そ、それでは、少々お待ちいただけますでしょうか?」
そう言ってゆっくりと立ち上がるなり、フラフラと厨房へと歩いていった。
そんなねーちゃんの姿を見送ると同時に、俺は改めて自分の席へと腰を下ろすなり、
「フンフフ~ン♪」
とまぁ、鼻歌交じりにも新たなウェェルとクロワッサンが焼き上がるのを待ち続けていく――。
「あ、あの、お、お待たせ、しましたぁ……!」
「お、来た来たぁ♪ いやぁ~、待ち侘びたぜ♪」
少し待ったところで大量のクロワッサンとともにウェェルを抱えたねーちゃんが戻ってくるなり、微かに震える手でもってクロワッサンを俺の皿へと取り分けてくれた。
「それじゃあ、改めて……。いっただっきまぁ~~す♪」
この場にいる全員の視線が俺へと注がれる中、そんなことなど歯牙にもかけず、兎にも角にも今はこのこんがりといい色に焼き上がったクロワッサンをその手に取るなり勢い良くも齧りついていく。
「カリッ、はむ、もぐ、あむっ……」
相も変わらずの美味さが口一杯に広がったところで、例によってウェェルを呷っていく。
「んぐ、んぐ、んぐ……。プッハァアアアアア♪ う、うめぇええ♡」
くぅ~~~、さんざ大声を上げさせられたことで、すっかりカラカラだった喉にウェェルがこれでもかと染みわたってきやがる。
「はぐ、もぐ、あぐっ……」
そしてイイ感じに喉が潤ったところで、またクロワッサンと……。
俗にいう無限ループってヤツか。
「はぐ、もぐ、はむ……。んぐ、んぐ、んぐ……」
シーンと静まり返った食卓に俺の食事の音だけが響いていく中
『それにしても、こんな惨状の中でよく平気な顔して物が食えるものだなぁ?』
『ああ、しかもあれだけの人数を殺しておいて……。何とも思っていないみたいじゃないか……。正直、神経を疑うな……』
『全くだ……。やはり下賤な平民などという生き物は所詮は我々とは違って、どいつこいつも家畜同然の思考回路しか持ち合わせていないということだな……』
一部の使用人たちの間からそんなひそひそ話が聞こえてくるも、
「あ?」
「「「――⁉」」」
俺がほんのちょっと視線を向けた途端、泡食ったように目を逸らしていくカスども。
ケッ、全部聞こえてるってんだよボケがっ! 死体なんぞんなもんいちいち気にしてたら冒険者なんかやってられっかよ。
そもそも本を正せば、喧嘩を吹っかけてきたのはコイツラの方じゃねーか。
その結果、ぶっ殺されたからって文句言ってくんじゃねーよっ!
あの豚くんたちは俺の強さを見誤った挙句、無謀にも俺に戦いを挑んできやがった……。だから死んだってだけの話じゃねーか。
大体なぁ、さっきから黙って聞いてりゃあ、テメーら揃いも揃って人をどうしようもねー化け物みたく言ってるが、果たしてテメーらはそんなにご立派な生きもんなのかよ?
ハンティングだ何だっつっては大した理由もなく、さも楽し気に笑顔まで浮かべてテメーより弱い立場の小動物なんかを追っかけまわした挙句、惨たらしくも殺していくような奴らが今更善人ぶってんじゃねーよ。
それがテメーらが逆に狩られる立場になった途端、被害者面かよ?
ケッ、笑わせんなっつーの。
それによぉ~、俺が殺した豚共にしたって、裏じゃあ悪行三昧重ねてたっていうじゃねーか? 大方、テメーらだってソレに加担してたんじゃねーのかよ? ソレを都合の悪いもんには目を伏せといて……。どの口で俺を批判するってんだよ?
とまぁ、そんなことを考えながらも、何だかんだでその後も30分近くにわたってこれでもかと飲み食いしたところで、
「フゥ~~~~、食った、食った……。さてと……」
一息ついたところで、席から立ち上がるなり、
「よっこいっせっと……!」
そう言ってお土産の詰まった袋を肩に担ぐと、誰に声をかけるでもなければそのまま出口に向かって歩き出そうとするも、
「……――ハッ!? ち、ちょっと待ってくださいよ、ガーネットさんっ⁉ な、何をそのままいなくなろうとしてるんですかっ⁉」
慌てたように兄ちゃんが俺の背負っている袋にしがみついてきやがる。
チッ、このまま何もなかったかのようにドンズラしようと思ってたんだが、いきなり阻止されちまったい……。
「いやいや、人聞きのわりーこというなよ。ちょっと散歩しよーとしただけ……」
そう言いかけた時だった。
「た――たたた大変ですっ‼ へ、ヘドニス様っ、ピアニス様っ‼ い、一大事――ややっ⁉ こ、これは一体っ⁉」
そんなことを喚きながら執事と思しきじーさんが食卓へと駆け込んでくるなり、この惨状を目の当たりにし度肝を抜かれる中、兄ちゃんを含めたこの場にいた全員の意識がそっちへ向いた一瞬の隙を突き、
「――うおりゃああっ!」
ドッゴォオオオンッ‼
「「「「う――うわぁああああっ⁉ な、何事だっ⁉」」」」
掛け声一発、剣でもって食卓の壁の一部を盛大にぶっ壊すなり、悲鳴とともに巻き上がった砂埃によってこの場にいた俺以外の奴らの視界が奪われていった。
「ゴホッ、ゴホッ、うぅ、い、一体何が……?
「うぅっ、ほ、埃っぽくて、前が見えんぞ……?」
「ゴホッ、く、こ、今度は一体、何が起こったというのだ……?」
そんな声が至る所から聞こえてくる中、
「――よお、兄ちゃんよぉ、名残惜しいがこれでサヨナラだっ。メイドのねーちゃんにもよろしく言っといてくれよな」
「が、ガーネットさんっ⁉ ち、ちょっと待って……」
そんな俺の声に兄ちゃんがキョロキョロと辺りを見回している中、
「ま、これで邪魔な豚共もいなくなったことだし、後は精々頑張って立派な領主様になるこったな。んじゃ、あばよ♪」
「え? それってどういう……? あっ、が、ガーネットさんっ⁉」
別にこれといって深い考えがあったわけじゃねーけど、一方的にそれだけ告げると俺はぶち抜いた穴から身を躍らせるようにしながらも外へと飛び出していった――。
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