第41話 交渉
それは、戦いというより。
「あああ…!!!」
一方的な殺戮だった。
「やめろぉ!来るなぁ!!」
一人、また一人。
いや、10人、また10人…
100人、また100人と……
″死体の河″が、出来上がる。
「やばい…!こいつはやばいぞ…!!」
人は、勝ち目のない戦いに遭遇した時。
いずれかの行動を取る。
″逃げる″か、諦めるか。
…「彼ら」は逃げたかったが…
それは不可能のように思えた。
「がっ……!!」
心臓を貫かれ、絶命する難民の男…
「早く…!王女を″足止め″しろ…!
少しでも、逃げる時間を稼いで…!」
ザシュ
ドサッ
そう言う間に、男の首が斬られて、地面に落ちる…
「はあ、はぁ…!食らえ!!」
満を辞して、難民の一人が、魔法を発動させた。
無数の鋭利な氷柱が、雨のように…
シャーロット王女の頭上に落ちる。
…しかしそんな攻撃は、王女の″スピード″の前では、何の意味も成さない。
シャーロットが地を駆けると。
コンマ一秒。降り注ぐ氷柱は、その″標的″にかすりもせず…
王女は、瞬時に敵へと接近。…やはりその鋭く正確な斬撃で、その攻撃対象の首を刎ね飛ばす。
「まずい!こっちへ来るぞ…!」
「早く攻撃しろ…!!」
いわゆる″最前線″で、次々に仕留められる仲間達を目にして…″後方″部にいた難民達は、パニックに陥っていた。
「だめだ!ここで攻撃したら、仲間ごと巻き込んでしまう!!」
″魔法使い″である彼らの弱点としては…魔法という個性の幅が強い攻撃方法では、まとまりのある連携的な攻撃がかけずらいことだ…
「面」の広い大規模攻撃を仕掛ける場合においては、″味方″ごと巻き込んでしまうリスクもあるのだ。
「かまわねぇ!このままじゃ″全滅″しちまう!
早く強力な魔法攻撃を放って…王女を仕留めてしまえ!!
この際味方ごと巻き添えにしてもやむを得ん!!」
圧倒的な剣技とスピードの前に、もはや手段を選んでいられない難民の魔法使い達…
彼らは、各々が力を集中させ…
巨大な″真空空間″のドームを作り出す。
その魔法は、いわば″風術魔法″の応用、変則型——とも言えるものであったが。
とにかくその″真空空間のドーム″を、巨大な球体として″王女目掛けて″放った。
「!?」
そのドームのごとく巨大な空間が、地面に衝突すると……ドームが覆う広範囲に、大気からの酸素を全て奪った。
「があっ……!!」
王女目掛けて放たれた魔法だったが、その攻撃は″味方もろとも″ダメージを与え、死に至らしめていた…
「お、俺達を、巻き添えに…!」
もはや手段を選んでいない″味方″の攻撃に…
難民達は、息絶えて次々と倒れていく。
「はぁ…はぁ……王女は殺ったのか!?」
半径100メートル以上はあろうかというほどの広範囲攻撃。
味方を大勢巻き込んだが故に、″酸素″を失った多くの死体が、地面に転がっている…
しかし。
肝心のシャーロット王女は、その魔法攻撃を完全に退けていた。
退けた、というより。
その驚異的な″スピード″で、走破して回避した、というだけのことだが。
「…実に、単調な攻撃です」
王女は、呆れるようにため息をつく。
「そ、そんな…」
味方の犠牲を覚悟の上で放った魔法が…
あの広範囲の攻撃すら、回避された。
…″当てようにも、当たらない″
いかに強力な魔法を駆使出来たとしても、そもそも″命中″しなければ、何の意味もないのだ。
いかに優れた騎士といえども、数百、あるいはそれ以上の魔法使い達を相手に…
″全ての魔法攻撃″を躱しながら反撃するなどとは、到底容易なことではない。
(駄目だ。逃げ——)
ザシュ
戦闘を放棄して、逃亡を決意した難民の″首″が、またしても斬り落とされる。
そして王女は、攻撃の手を緩めることなく…その誰の目にも留めることの出来ない速さの剣撃で、また「新たな」死体を次々と作っていくのだった……
さて、ガルド騎士団カニンガムによる″難民虐殺″に端を発した″暴動″は、アルベール北区だけに留まってはいなかった。
「進め!進めぇ!!騎士団を倒せ!!」
アルベール西区——
″北区″のガルド騎士団による所業は、またたく間にアルベール市街全土に広まり…
各地区の難民街では、難民達が暴走していた。
「助けてくれ!!」
「やめて、殺さないで…!!」
″魔法″を放ち、市民達を襲う難民達…
逃げおおせる市民。
アルベール西区は、地震の影響による崩壊とは別に。街の至るところが炎上し…まさに″戦場″の様相を呈していた。
「火を消せ!このままだと都心部まで火事が広がる!!」
難民達による魔法攻撃は、容赦なく市街を炎の渦の中に呑み込む。
先の地震による負傷者の救出に加えて…
難民達の暴動という要素も加わり。首都アルベールは、もはや地獄のような状況下であった。
…そして、″魔法″による破壊によって、死傷する者達も続々…
「だ、誰か……」
魔法による″氷″の槍で全身を貫かれた、瀕死の男が…血をどくどくと流し。息も浅く、助けを求める。
…しかし男の周りには、同じく魔法攻撃を受けて血だるまとなっている″死体″が転がっているのみ。
…もはや、彼を助けれる者などいなかった…
「殺せ!殺せ!我々″難民″を傷つけようとする、騎士団に制裁を!!
奴らを皆殺しにしろ!!」
破壊行為を繰り返しながら、市街を行進していく難民の一団。
「お前たち、″武装″を解除して止まりなさい!!」
…難民団の前に、立ち塞がる者達の姿があった。
「これ以上、無駄な破壊行為を続けて、罪なき者達を傷つけるつもりか!?
ならばこの″フィオリナ騎士団″とて、容赦はせんぞ!!」
その凛々しく力強い声を響かせる女性…
フィオリナ騎士団の団長、ティルダ・レストフィールドだった。
2メートルを超える長身に、筋骨隆々の体。
その背中には、彼女の身の丈はありそうなほどの、長く大きな″大剣″を携えていた。
後ろでまとめられた、ホワイトカラーの頭髪は流麗で美しく…その瞳には、まっすぐで清涼な瞳が宿っている。
とにかく、その圧倒的な存在感に。難民達は、躊躇し行進を一旦止める。
「来た、ぞ…
騎士団だ……」
″騎士団打倒″を叫びながら進んでいた難民団は…いざ騎士団が目の前に現れると、尻込みした。
彼らとて、騎士団が並大抵ではない″精鋭集団″であることは、知っているからだ。
「武装を解除しろ、お前達!!さもなくば…」
″武装を解除しろ″という騎士団長の呼びかけは、何の意味も成さなかった。
そもそも魔法使いにとっては、″己の存在″そのものが、武器であるのだから…
「騎士団め…!我々を止められると思うな…!」
難民達の戦意は高揚していた。
たとえ騎士団という強敵が相手であろうと、
彼らは闘いを止めるつもりはなかった。
…もはや目的を違え、市民への″無差別攻撃″という凶行に転換されつつある、闘いであろうとも…
自分達に相対する者は、全てが敵なのである。
「死ねぇ!!」
難民の一団が、フィオリナ騎士団目掛けて、火焔攻撃を放つ。
「…話し合う余地はなし、か…」
レストフィールド騎士団長は、自らの背中に携えている大剣を抜き…
盾のようにして、火焔攻撃を防いだ。
「ならば、仕方ない。
仕留めて、沈黙させるしかないようだ」
レストフィールドの優しい瞳に、″闘志″が宿る。
そして同時に…彼女は駆け出した。
「来るぞ!あの女を止めろ!!」
攻撃を防がれ、二撃目の魔法攻撃を放つ。
閃光迸る、光の雷撃が、レストフィールド目掛けて放たれる。
「ふん!」
しかし彼女は、一直線に向かってくる雷撃攻撃を…大剣を一振りするだけ無効化した。
盾を使っているわけでもない…
剣だけで、続け様に攻撃を防がれて、焦る難民達…
「まずい!散れ…」
強力な魔法能力を持っていれど、組織だった機能的な闘い方を知らない難民達は…
あっという間に、レストフィールドの接近を許した。
「はああ!!!」
大声一閃。レストフィールドは、その2メートル以上はある大剣を、難民達目掛けて軽々と振り回した。
大剣に当たった難民達の体が、一気に吹き飛ばされる。
「ぐあはぁっ…!!」
それは斬られる、というより。
″叩き潰される″といったような感覚だった。
骨を、肉体を。レストフィールド騎士団長の大剣で、容赦なく″破壊″される難民達。
たったの一振りで…10名以上もの難民魔法使い達が、吹っ飛ばされた。
おおよそ、常人では持ち上げることすら不可能な重量の大剣を…いとも容易く扱うレストフィールド。
「まだまだぁ!!!」
レストフィールドは、剣を一振りした勢いを逃さず…そのまま体を″回転″させながら。
そのまま″コマ″のように…強烈な回転斬りを、難民達にお見舞いするのだった。
「ぎゃああああ!!!」
圧倒的な破壊力を誇るその回転斬りで、1人、2人、10人、20人と…
その肉体を真っ二つにされる魔法使い達。
「やばいぞ…!一旦離れるんだ…!!」
回転斬りの″圏内″に入ったら、一瞬で切り刻まれる。
前線より後方にいた難民達が引き下がり…
レストフィールド騎士団長を止めようと、遠距離による魔法攻撃を放つ。
「そんなものは効かん!!」
無数の″酸″の雨を降らしていたが…レストフィールドは、地を駆けるように前進して、その攻撃をかわした。
パワーが圧倒的な彼女のフィジカルは…
スピードですら、やはり騎士団長の名に違わず。常人のそれを凌駕していた。
(はや…)
その巨体に似合わず敏捷な動きをするレストフィールドに…驚く間も与えられることなく、剣を翳した彼女の″突進″攻撃が、難民達を襲う。
「………っ!!!」
まるで、巨大なサイに突進でもされたかのような…恐ろしい破壊力で、難民達の体は遥か後方へと吹き飛ばされる。
「リリー!後ろにいる連中を頼む!」
レストフィールドが、配下たる副騎士団長…
″リリー・ワイズ″に命じる。
「はいはーい。まかせてー♪」
騎士団長の命令に応じるのは…
長身のレストフィールドとは対照的に、ひどく小柄な少女だった。
背丈は150もないだろう。明らかに成人はしていないとわかるほどの幼さの残る、リリー・ワイズ副騎士団長。
金髪をツインにまとめて、身軽に地を駆ける彼女は…
その小柄な体に似合わない、彼女の背丈の倍はありそうな″長槍″を、手にしていた。
「何だあのガキは!!殺せ!!」
難民達は、リリー目掛けて無数の光弾を放つ。
「…攻撃が、単調…」
しかしリリーは。自らに放たれた無数の光弾を…長槍を地面に突き刺して、″棒高跳び″のように高く跳躍して、かわした。
そしてそのまま、難民達の懐に飛び込むリリー。
ガッ!!
飛び込み際。魔法使いの頭部に、その長槍で強烈な打撃を加えるリリー。
強烈な一振りを頭部に受けて、地面に転がり気絶する男。
そしてそのまま地面に降り立ったリリーは、槍の″長さ″を活かして、難民達を″足払い″した。
「うわっ!?」
長槍によって転倒させられた難民達。
起きあがろうとした男の首に、リリーが強烈な足蹴をお見舞いする。
「ぐほぁっ…!!」
そして間髪入れず。同じく立ちあがろうとしていた横の男の首に…その槍先を、突き刺した。
一気に、3名が無力化される。
「はぁ…はぁ…このクソガキ!!」
リリーの背後にいた難民の男が…
彼女に風魔法の″斬撃″を放つ。
リリーは軽くジャンプして、これを難なく躱した。
ザクッ
そしてそのまま、男の心臓に槍を突き刺した。
「ぐ……ぅ…!」
男は、胸を貫かれて…地面に倒れて、そのまま息絶える。
「″素人″が何人集まっても。所詮は素人だよ?いかに強力な魔法が使えてもね」
リリーは鼻を鳴らしながら、自らの武器である長槍を、片手で器用にくるくると回す。
「くおお!!」
リリーを止めようと。魔法使いが両手を前に突き出し、その手からは火の粉と共に、炎が発現する。
炎術魔法による単調な攻撃。リリーは、槍を高速で回転させて、その炎を受け止めて防御した。
「な…!?」
長槍なら、攻撃特化で…防御は出来ないであろうと予想したのも束の間。
″攻防一体″たる彼女の手技の前では、その武器によって、魔法攻撃が容易く防がれてしまう。
そして魔法を放った後に出来る、魔法使いの隙は、騎士にとって絶好の好機。
槍先が、その獲物を狙う。
「う…うぅ…!」
胸を槍で貫かれ、あっけなくリリーに仕留められる男。
フィオリナ騎士団のレストフィールド団長と、リリー・ワイズ副騎士団長。
騎士団の名に違わぬ、圧倒的な強さだった。
そして彼女達だけではない。
配下の騎士団メンバー…
フィオリナ騎士達が、団長と副団長を援護し…彼女らの側面から攻撃を仕掛けようとする難民達を食い止め、そして仕留めていた。
「こいつら、手強い…!
一つに固まるな!散るんだ!!」
組織だった行動が出来ていない難民達は…
それぞれが好き勝手に魔法攻撃をかけるという有様で…混乱し、時には同士討ちすら行う始末だった。
フィオリナ騎士達は、その混乱と隙を突いて、こちらの負傷者を出すことなく。極めて
″丁寧″とも言える集団戦で、難民達を圧倒していた。
強力な魔法攻撃を正面から受け止めはせず。やや後退した距離から、魔法を″放たせて″、確実にかわし。その間接近していた他の騎士が、死角から仕留める、といった具合に。
個の戦闘能力で張り合っても、フィオリナ騎士達は決して難民達には劣らないが、集団的連携の妙を発揮して、″こちら側″に負傷者を出さないよう、時間をかけて丁寧に敵を仕留めていく。
最も、レストフィールド騎士団長と、副騎士団長は、「力押し」が可能なほどの強さを誇ってはいるわけだが…
「そーれい!!」
レストフィールドは、手にしていた大剣を、遠距離にいる敵目掛けて、力一杯に投擲した。
一直線に向かって行く大剣は、その終着点である男の胸を、無惨に貫く。
「馬鹿め!武器を自ら捨てたぞ!」
捨てたのではなく、これも攻撃の一種だ。
しかしレストフィールド騎士団長が″丸腰″になったのは事実。
「今がチャンスだ!殺るんだ!!」
魔法使いの男が、レストフィールドへ炎弾を放つ。
彼女は、軽く手甲で炎を受け止めて防ぐと…
メリッ…!!
男の顔面に、強烈な″拳″をお見舞いした。
男の顔は、まるで潰された陶器のように″粉砕″される。
「武器を手放したからと言って、私を倒せるとは限らんぞ?」
レストフィールドは攻撃の手を緩めることなく…側面にいた男の胸に、回し蹴りを叩き込む。
「ぐほあぁっ…!!?」
巨大な″象″にでも蹴られたのかと思うほどの、恐ろしい破壊力だった。レストフィールドに蹴られた男は、目が飛び出さんばかりに、血を噴出させ…口からも大量の血を吐き散らして…地面に転がって命を落とす。
「そら!!」
バギッ!!!
そして止まることなく。レストフィールドは、素手で難民魔法使い達を血祭りにあげていく。
そのパワーは凄まじいものだった。
彼女の拳や足は、壁や地面すら抉り取り…人間の肉体では、ひとたまりもなかった。
純粋なパワーだけなら、彼女の上をいく騎士など限られてくるだろう…
「騎士団長〜?
隣のウェルズ・タウンでも難民団の暴動が起きてるみたいですー。
″そっち″の方にも、早く部隊を差し向けたほうがいいんじゃありません?
警備隊だけじゃあ、連中に太刀打ちできないと思います」
副騎士団長のリリーが、レストフィールドに告げる。
「わかった!
ここを片付けたら、そっちに向かうぞ!」
エストリア王国、シャーロット王女直属の精鋭部隊″騎士団″は、同国でトップクラスの戦闘能力を誇っている。騎士団は全部で″13″の部隊を擁するが、いかに強力な魔法技を持った難民達とて…苦戦するのは致し方ないだろう。
…しかし、″西区″を受け持つフィオリナ騎士団が難民達との戦闘を優位に進める一方で…
その制圧に苦戦している騎士団もあった。
アルベール南区——
「はぁ…、はぁ…!
マクスウェル様!難民達の攻勢は激しく、隊員達がかなり負傷しております!」
アルベール南区を請け負っていた、
″アルテミス騎士団″。
南区でも例外なく、難民達による暴動や破壊行為が発生していた。
「ホワイトリー!
負傷者を戦線から離脱させ、手当をさせるのだ!」
「とっくにやっております!!」
アルテミス騎士団副団長のホワイトリーが、苛立つように…その団長。自らの上官であるマクスウェル騎士団長に言葉を返した。
マクスウェルは、少年のように若々しい容貌で、はたから見れば。彼が騎士団長だとは誰も思わないだろう。
むしろ、彼から指示を受けているホワイトリーという長身の老人こそが、騎士団長に見えるぐらいだ。
「マクスウェル様!
難民の魔法使いどもは、本気です!
…奴らは、無抵抗の市民すら殺すことを厭わない!!
…投降を呼びかけるのは無意味!ましてや生かして捕らえるなど…」
マクスウェルを長とする、アルテミス騎士団は、難民達の制圧に苦戦していた。
騎士団におけるアルテミス騎士団の序列は″10位″なので、全騎士団の中では弱小と言えるかもしれない(序列1位は、シャーロット王女率いるエストリア騎士団)。
しかし最もな理由は、そんなことではなかった。
マクスウェル騎士団長は、難民達との戦闘の折。配下の騎士達に、
″可能な限り、殺さず。難民達を傷つけるな。あくまで死者は出さないように、難民達を制圧せよ″
という指示を出していたのだ。
「殺す」気で向かってくる相手に対して、こちらは「殺さず」に無力化しろという命令だ。
故に、アルテミス騎士達は十分に本気を出せずに…結果、自陣の死傷者を多く出すという始末になっていたのだ。
アルテミス騎士達は、まだ若く純粋な志の者達が多い。その団員の多くが、マクスウェルのことを信奉しているが故に…団長の命令は、絶対遵守しようとしていた。
最もそれは、この生死ぎりぎりの状況下では、極めて悪手に働いていたわけだが…
「マクスウェル様。
命令を撤回して、暴走する難民達への殺害許可を!
彼らは″人を殺める″魔法を使うのですぞ?
危険すぎます!!」
マクスウェルに詰め寄る、副騎士団長のホワイトリー。
…しかしマクスウェルは眉間に皺を寄せて、考え込むように声を詰まらせる…
「…ホワイトリー。難民達が暴動を起こしたことには、理由があるはずなんだ…
彼らは″かわいそうな″人達だから…
難民街に押し込められ、劣悪な労働を強いられ…」
「…では、あなたの言うその″かわいそうな人達″は、今現在。市民を無差別に殺戮しているのですぞ?
それは、許されると?」
ホワイトリーの追求に…マクスウェルは、やはり言葉を詰まらせる。
「それは…」
若く″理想主義者″なマクスウェルは、弁舌における″理論武装″も、未熟であった。
…しかし″意志″だけは強かったので、ホワイトリーに責めたてられても、持ち前の「前向き」な希望観測思考で、乗り切ろうとする。
「ホワイトリー。彼らと″話″をするべきじゃないと思わないか?
″対話″をして、彼らの″理由″を聞けば、きっと解決するはずだ…」
マクスウェル騎士団長が、提案するが…
ホワイトリーは、深くため息をつく。
「…話が出来るような連中とは、思えませんがね?」
「ホワイトリー…
そういう″敵意″が、向こうにも伝わってしまうのだぞ?
だから彼らは、より怒り狂うんだ。
我々が″譲歩″する姿勢を見せれば、彼らもきっとわかってくれる…」
″譲歩″…
それは、ホワイトリーの嫌いな言葉だった。
「…甘い顔を見せれば、連中を″調子付かせる″だけです、騎士団長。
そもそも…アルベール市民が既に大勢殺害されている上……アルテミス騎士達も、何名かが命を落としている。
その落とし前は、どうつけるおつもりで?」
「対話で、この闘いを収めることが出来るなら。それも″仕方のない″犠牲だ。
…大丈夫。みんなわかってくれるよ…」
マクスウェル騎士団長の発言に…
ホワイトリーは心の中で、彼に対する軽蔑心が芽生えた。
(仕方のない犠牲…?
みんなわかってくれる…?)
マクスウェルは、難民達と交渉するつもりだ。
そしてその根拠はわからないが、交渉が成功するという前提の心持ちだ…
だから易々と、″仕方のない犠牲″などという発言が出てくるのだ。
″冷酷な善人″
ホワイトリーは、マクスウェルのことをそう感じた。
「…ホワイトリー。私は難民達と話し合いをするよ。
一旦、騎士達に攻撃を止めさせてくれ…」
「…どういうことだ?騎士団の連中が、退いていくぞ…」
ホワイトリー副騎士団長の号令によって、アルテミス騎士達が、攻撃の手を止めて退いていく。その様子を見て、難民達も驚いていた。
「撤退…?いや、違う…」
…もちろんそれは、マクスウェル騎士団長の指示だ。
彼が難民団と″話し合い″をするために、配下の騎士達を引き上げさせた。
「おい。誰かが馬に乗って、こっちに来るぞ…
あれは…?」
その馬を駆る人物とは。紛れもなく、マクスウェル騎士団長だった。
「私は、アルテミス騎士団団長の、アンドリュー・マクスウェルだ!!
…まずは、君達に剣を向けたこと。その非礼を詫びたい!!」
マクスウェルが、難民の一団に向かって叫んだ。
一体何事かと、難民達は警戒するような目で、彼を見る。
「もうこんなお互いに″無益″な戦いはやめよう!
君達の目的は何だ?
…お互いに、話し合いをしようじゃないか!
これ以上″無駄″な血を流さないために!!」
マクスウェル騎士団長の言葉に…難民達は、困惑する。
「おい…話し合いしようって言ってるぜ…?」
「馬鹿言え、話し合いなんか出来るか!
″北区″にある病院で、難民達が無差別に虐殺されたっていうじゃないか!
今更、何を話し合えってんだ?」
「どうするの?連中は騎士団なのよ…
騎士団を信用なんかできないわ…罠かもしれない…」
難民達が、意見相違に話し合う。
「…交渉を、すべきだと思う…」
とある青年が、騎士団と交渉するよう勧めた。
「…ジャファールか。
なぜ、交渉すべきだと?」
「…このまま戦いを続けても、いずれ騎士団に殺されるだけだ。
…どこかで、″落とし所″をつけないといけないだろ?」
ジャファールという青年は、冷静な口調で、皆に呼びかける。
「ジャファール。先に手を出してきたのは、騎士団のほうだろ?北区の病院で…」
「それはわかっている!!
…だが、よく考えてみろ。俺達だって、″怒り″に我を忘れて、無関係の市民を殺したじゃあないか…
これ以上戦いを続けて、一体どうするつもりだ?政府の転覆でも狙うのか?
俺達はこれから、″どのみち″このエストリア王国社会で生きなければならないんだぞ?」
あくまで冷静に語りかけるジャファールは…
怒りに身を任せた″破壊″を肯定するのではなく、″未来″を見据えていた。
すなはち、この「暴動」の後のことだ。
「これ以上戦って…双方死者を出し続けると…怒りと憎しみは連鎖し、本当に″終われなくなる″戦いが、延々と続くぞ?
…ならば、今。
″あっち側″から話し合いの機会を設けてくれるなら、そのチャンスをものにする他はないと思わないか?」
「だが、ジャファール…
″交渉″すると言っても、一体何を話し合うというんだ?
お互いにもう、″戦いやめます″って握手するだけか?」
「そうじゃない。″攻撃をやめます″って宣言して、こちらに有利な条件を引き出す。
それが″交渉″ってやつだ。
…例えば、″難民を差別することなく、平等な賃金を約束させる″とか、″北区の病院で、難民を無差別殺害した騎士団に、相応の処罰を与えてもらう″とか。
…とにかく、こちらにとって有利な条件を、何かしら引き出させるんだ…
交渉を向こうから持ちかけるってことは、それだけ向こうが″逼迫″した状況ってことなのかもしれないからな…」
「なるほど…」
ジャファールの説得に、一同は納得しかかっていた。
…しかしやはり。大半の難民達は、ジャファールの言葉を信じることは出来なかった…
「…いや…駄目だ!
騎士団が、こちらの要求を呑むわけがない!
そもそも、″交渉しよう″なんてのも嘘に決まっている!
大体、″騎士団″なんてのは複数の部隊があるんだぞ!
あの″アルテミス騎士団″の団長とやらが、多少話のわかる奴であったとして…
他の騎士団がそうであるとは、限らねぇだろ!?」
難民の一人が、言い放つ。
…それは図らずとも、ある種の真実ではあった。
…少なくとも、アルテミス騎士団団長が難民達に対して宥和的であったとして…
そもそもアルテミス騎士団は、騎士団組織の中では末端。
王室はおろか、騎士団上層部においても、何の影響力も行使出来ないのだ…
「でも″やらない″よりは、交渉したほうが良いに決まってるだろ!?」
「うるせえ!ジャファール…
交渉なんてのは、嘘に決まってる…!
俺達を油断させて、一気に仕留めようという腹だ…!」
「そうだ!その通りだ!」
「…あの騎士団長も、殺すんだ…!」
…ジャファールが一同説得しかかっていたものの…
難民達は、やはり騎士団に対する「恐怖」のほうが勝っていたため…騎士団を信用することなど、出来なかったのだ。
「…おい。このジャファールを抑えておけ。
こいつは騎士団に対して″宥和的″だからな…
俺達の邪魔をされちゃ構わん」
リーダー格の男″シャラフ″が、仲間にジャファールを拘束するよう命じる。
「やめろ…!せっかくの機会を…!」
ジャファールが、縛りつけられながら、なおも仲間達を説得しようとするが…
もはや聞く耳はなし。
「…これが罠にせよ何にせよ。
あのアルテミス騎士団とかいう奴らは、皆殺しにする。
…俺が、あの騎士団長と交渉に応じるフリをして、奴に近づく。
俺が騎士団長に、配下の騎士達を武装解除させるように言う。…それが交渉の条件だと言ってな…
お前達はその間、屋根伝いに移動しろ。
…連中の隙をついて、奇襲するんだ。
…攻撃と同時に、俺が騎士団長を殺す」
シャラフが、仲間たちと打ち合わせる。
「…おそらくこれは、騎士団の罠と踏んでる。
なので俺が接近した瞬間、連中は攻撃を仕掛けてくる可能性がある。
そういう事態になったら、咄嗟に動け。
先手を打たれる前に、確実に包囲して騎士どもを殺すんだ」
シャラフは、交渉には応じない。
…否。応じるふりをして、騎士団を仕留めるつもりだった…
「マクスウェル騎士団長とやら!
あんたの誠意はよーくわかった!
ならばこちらも、その誠意に応えよう。
…いいだろう!我々と話し合いをしてもらいたい!」
難民団のリーダー…シャラフの返答を聞いて、マクスウェルの表情は生気を得る。
(…よし!やはり私の″行動″は、間違ってはいなかった!
そうさ。″話し合い″さえすれば、互いの真意を押しはかることが出来、無駄な争いを避けることができるんだ…!)
シャラフの真意も知らず、嬉々とするマクスウェル。
「しかし騎士団長!
″話し合い″をする前に、まずあんたと、あんたの部下達の″武装″を解除してもらおうか!」
″武器を放棄しろ″という、シャラフの要求。
(…多分に無茶な要求だ。そんな危険を犯すぐらいならば、連中は早々に攻撃を仕掛けてくるだろう…)
そもそも、交渉の呼びかけが、はなから騎士団の罠だと思っていたシャラフは…
こんな無茶な要求に、騎士団が応じる筈はないだろうと思っていた。
「ようし、わかった!
部下に命じて、武器を破棄させればいいんだな?」
…しかし、シャラフとしては意外なことに…
マクスウェル騎士団長は、部下を自らの元へ連れてこさせると、彼らの武器を全て捨てさせるように命じた。
剣も、銃も、盾も…
そして武器を捨てた騎士達は、武器をすぐに拾えないよう、遠く離れた後方へと待機させる。
「正気ですか?マクスウェル様…
″武器″を全て手放せば、我々は丸腰です。
…もし連中が奇襲を仕掛けたきたら、極めて不利な状況に置かれます」
副騎士団長のホワイトリーが、マクスウェルに言う。
「…ホワイトリー。我々が″話し合いをしよう″と言っているのに、武器を携えていたら、″彼ら″難民達が怖がるだろう?
…ならば、こちらに″敵意″はないのだということを、彼らに示さなくてはならない」
この時ばかりは…
いや、″この場においても″…
ホワイトリーの「懸念」のほうが、当たっていた。
なにせ難民達は、「話し合い」に応じるつもりはなく。最初から騎士団を攻撃するつもりでいるのだから…
「彼らを信じてやらないとならない。
信用のおけない相手と、交渉など出来ないだろう?
我々が武器を置くことで、彼らの″信用″を得られるなら、安いものだ…」
最もらしい口調で、ホワイトリーに告げるマクスウェル。
(信用がそう簡単に得られるものか。
この″根拠″のない自信は、どこから来るのやら…
難民達のことを、なぜ信じられる?
…これは、奴らの作戦なのかもしれないのに…)
なまじ騎士団長の命である以上、ホワイトリーは黙って従う。
…極めて、不本意ではあったが。
「さあ!君たち!
我々は、銃も剣も、全て武器を捨てた!
騎士達も後方に待機させている!
これで満足だろう?」
シャラフは、自らの要求通りに、部下に武装解除させたこの騎士団長の行動を見て…
至極驚いた。
(まさか、罠なんかじゃなくて…
この男、本当に我々と話し合いをするつもりじゃ…)
そういう思考がよぎったが、シャラフはすぐにそのような邪念を消す。
(…いいや、そんなはずはない。
これは、殺るか殺られるかだ……)
その間。難民達は、アルテミス騎士団に悟られないよう、屋根伝いに移動し…
ちょうど建物の屋根から、左右に彼らを包囲できる体勢を整えていた。
(よし。準備は整ったようだな…)
「いいだろう!今からそっちへ行く!
我々の話を聞いてもらおうか!」
シャラフが、交渉に応じるふりをして…
通りの中央に位置するマクスウェル騎士団長の元へと歩く…
「…感謝する、騎士団長。
″話し合い″の機会を設けてくれて…」
「ああ、こちらこそ。
私の提案を受け入れてくれて、感謝する…」
「…なあ。騎士団長と、難民による交渉。
うまくいくと思うか…?」
武器を捨て、後方に待機するよう命じられたアルテミス騎士達が、マクスウェルの交渉の行末を見守っていた。
「…連中のことをあまり信用は出来ないが、俺は団長のことを信じているよ…」
(へっ、馬鹿どもが…
俺達が屋根の上に潜んでいること。まるで気がついちゃいねえ…)
ちょうど騎士団の″死角″から、見えない屋根上の位置に身を隠す難民達…
そして彼らは、今にも攻撃の機会をうかがっていた…
(…おかしい、な。
他の難民の連中はどこに行った…?)
副騎士団長のホワイトリーだけは、警戒を怠らなかった。
…彼は遠目ながらも…今騎士団長と交渉している難民の男意外の連中が、どこに行ったのか気掛かりであった。
(まさか…)
ホワイトリーは、自身も建物の梯子を使って…ちょうど屋根上を見通せる位置まで、昇った。
(…!…奴ら、屋根上に潜んでいたか!!)
騎士団員を包囲できるような位置で、待機していた難民達を見つけるホワイトリー。
(やはり、奴らは最初から交渉に応じるつもりはなかった…!)
時、すでに遅し。
「死ねぇ!!」
「!!?」
シャラフが、巨大な雷撃の″鞭″を発現させ、マクスウェル騎士団長の首目掛けて、思い切り鞭を振るった。
「マクスウェル様!!」
「……ぐぅっ…!!」
…ぎりぎりのところで、鞭をかわすことに成功するマクスウェル騎士団長。
しかしその拍子に、マクスウェルは馬から転落してしまう。
代わりに雷撃の鞭をその身に受けた馬が、全身を黒焦げにさせ、激しく地面に転倒した。
「今だ!騎士団の奴らを殺せぇ!!」
シャラフの攻撃を″合図″として。
屋根上に潜んでいた難民達が、一斉の魔法攻撃で、騎士達を襲撃する。
「ぐわあああー!!!」
魔法による、強力な″落雷″が、アルテミス騎士を襲う。
「…くそ…だから言ったのだ…!」
ホワイトリー副騎士団長は、靴の裏に隠してあった短剣を手にして…屋根上にいた難民達に応戦する。
「何こいつ!騎士団の人間よ!!」
ホワイトリーの接近に気付いた女が、彼に魔法を掛けようとした。
「…させん!!」
ホワイトリーは、女が魔法攻撃の動作に移るより早く…その首元を、剣で突き刺した。
「ちっ…!」
他の難民の男が、風術魔法で砂埃を撒き散らして、ホワイトリーの視界を奪う。
「ぐうっ…!」
…目を瞑ってはいるが、じわじわと両目が痛む。
ホワイトリーは、視界を奪われながらも。
男目掛けて思い切り体当たりをした。
「うわあああ!!」
ホワイトリーは、体当たりした男と共に、建物から落下する。
ドズッ!!
難民の男を下敷きにして、地面との直撃を避けたホワイトリー。
「この野郎!死ねぇ!」
屋根上にいた難民達が、ホワイトリーに容赦なく魔法攻撃を仕掛ける。
「……っ!」
ホワイトリーは辛うじて…
多種な魔法による攻撃を…建物の裏に隠れることで、防いだ。
(…くそ。マクスウェル様は無事か…?)
一方のマクスウェル。
シャラフの攻撃を辛うじてかわしたが、手元には武器がない。
「なぜだ…!?交渉に応じると…!!」
「はっ!お前ら騎士団の言うことなど信じられるかよ。そらぁ!!」
シャラフが続け様に…雷撃による鞭を、マクスウェル目掛けて振るう。
バチィ!!
「くっ…!!」
側面に飛び込んで、鞭攻撃をかわす。
雷撃が地面に弾けて、火の粉を散らす…
「とっととくたばりやがれ!!」
シャラフによる雷撃の鞭は、当たれば凄まじい威力だが…攻撃動作そのものは単調で、躱すことは難しくなかった。
…しかし、マクスウェル騎士団長は、手元に武器がない。
敏捷だが非力な彼では、素手でこの男を仕留めるのも難しい…
「待ってくれ!話をしよう!」
「うるせえ!!」
未だに″話せばわかる″という意識が抜けきっていないマクスウェルは、戦闘が始まっているにも関わらず、シャラフに語りかける。
最もこれは、危機的な状況下にある中での…
反射防衛的な呼びかけ、といったほうが適切かもしれないが…
「この嘘つきめ!!」
マクスウェルは、剣がない以上仕方がなく…
倒れている馬の下にある、乗馬に使用する鞭を取り出して応戦した。
バチィン !!
「ぐあっ…!!」
マクスウェルの鞭を受けて、シャラフの腕に激痛が走る。致命傷を与えることは出来ないが、無力化するには十分な威力だ。
「ああ…!痛ぇ!くそっ…!!」
攻撃が止んだ隙を逃さず。マクスウェルは、鞭をシャラフの首に巻き付けて…
力一杯絞め上げた。
「はぁ…!はぁ…!」
…どうにかして、シャラフを絞め落とすことに成功したマクスウェル。
何とか一命を取り留めた。
しかし、彼の配下の騎士達は…
難民達による奇襲攻撃で、甚大な被害を出していた。
「ぐああっ!!」
屋根上から、際限なく放たれる雷撃魔法に…逃げ場のないアルテミス騎士達。
「じ、銃を…!!」
しかしマクスウェルの指示で武装解除していた為に…近場に使用できる武器もなかった。
…その間に、容赦ない魔法攻撃の連続によって、次々と命を落としていく騎士達。
「くそ、今回ばかりは…!!」
ただ一人、決死の応戦をするホワイトリー副騎士団長。
「今回ばかりは、マクスウェル様の言う通りにすべきでは、なかったのかもしれんな…!!」
バシュ!!
難民の男を投げ飛ばして、胸に剣を一突きするホワイトリー。
…しかし、いかんせん多勢に無勢。
彼一人で、どうにか出来る数の相手ではなかった。
(…どうする。マクスウェル様を救出して、一旦離脱するか…
しかし、配下の騎士達を見殺しになど…)
反撃も出来ず崩壊状態にあったアルテミス騎士達の惨状に、万策尽きたかと思われた…
その時。
思わぬ助太刀が、やって来た。
「炸裂弾、投げ込め」
突如、屋根上で起きた大爆発。
「…!?この爆発は…」
難民達による攻撃では、ない。
この爆発は…難民達を″狙った″攻撃そのものだ。
「息災かね?ホワイトリー。
随分と苦戦してるようじゃあないか」
ホワイトリーの背後から、声をかける男の声。
彼が振り返ると、そこに立っていたのは…
「…スペンサー卿……」
騎士団内″強硬派″の最先鋒。
ガルド騎士団の団長、スペンサーだった。
「…随分とまあ、してやられたものだ。
さしずめその責任の大部分は、あの″潔癖お坊っちゃま″のマクスウェルにあるのだろう?」
スペンサー卿はそう言いながら、怪しく笑みを見せる。
「…ホワイトリー。
あの難民の″クズ共″を相手にする時は、何の遠慮もいらん。
…いいかね?
戦場では善意など不要だ。
だから今、やることは一つ。
…殺し、殺し、殺しだ。
とりあえず今は、我々″ガルド騎士団″がそれをやろう。
ここにいる難民共は、皆殺しにする。」
スペンサーは、その蛇のように鋭い瞳に…
嬉々とした輝きを見せていた。
彼はとても、嬉しそうだった。
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