第19話道後温泉の癒し

高知から愛媛へやってきた石木いしきと五人の中学生、愛媛へ着いた時刻は午後四時、彼らは松山駅から何処へ行くか迷っていた。

「やっぱり松山城がいいよ。」

「いや、青島がいい。あそこにはたくさんの猫たちがいるんだもん。」

「いや、もう夕方だから泊るところを探さないと。だったら道後温泉の方がいいと思うよ。」

五人の中学生はそれぞれ意見を出し合っていた、そして最終的な判断を石木に任せることにした。

「俺は疲れたから、温泉にでも浸かりたいな。だから道後温泉がいい。」

「俺も賛成だ、電車を三回も乗り換えて疲れた。」

「じゃあ、道後温泉へ行こうよ。」

こうして石木と五人の中学生は、道後温泉へ向かうことにした。

そのことを聞きつけた村瀬むらせは、茂樹しげきに連絡を入れた。

「もしもし、茂樹様。彼らはどうやら道後温泉へ向かうようです。」

『道後温泉か・・・、なかなかしゃれたところへ行くようだな。』

「それで作戦は実行いたしますか?」

『もちろんやる、お前は奴らを監視して奴らの宿泊する旅館に泊まり込むのだ。奴らの近くから、決して離れるではないぞ。』

「はい、承知しました。」

村瀬は茂樹への連絡を終えて、石木と五人の中学生の尾行を再開した。








松山駅から道後温泉までは、伊予鉄道松山駅前線で約二十五分かかった。

「これが道後温泉か・・・。」

「すごく綺麗な建物だね。」

「さあ、早く入浴して疲れを癒そう。」

道後温泉は日本最古湯の一つに名を連ね、夏目漱石の小説・「坊ちゃん」の舞台になっている有名な温泉だ。

石木と五人の中学生は浴券の購入を済ませて、それぞれ更衣室で服を脱いだ。

「さあ、入るぞ!!」

「あ、島取君!走っちゃダメだろ!!」

駆け込む島取しまとりを石木はたしなめた。

石木と四人の中学生は「神の湯」と呼ばれる温泉に入浴することにした。

身体を綺麗に洗った後、ゆっくりと温泉に体全体を沈めてゆく。

「そういえば、広いお風呂に入るのは初めてだな。温泉プールと違って何だか体全体が温まっていくのを感じる。そしてこの和風を感じる壁の絵・・・、本格的に銭湯に来たのだと感じさせる・・・。あー、もうずっとここにいたい・・・。のぼせ上ってしまうけど・・・、このままでいたい。」

石木はすっかり道後温泉が気に入ってしまい、のぼせる手前まで入浴し続けた。

石木は風呂から上がり更衣室で着替えてみんなを待った、石木と一緒に風呂から上がったのは武藤むとう西堂さいどうだ。

三人が風呂上りにジュースを飲んでいると、受け付けにいる男が自分のカバンから大量の写真を落とした。

「うわあ!!私の大事なコレクションが!!」

「あ、大丈夫ですか!!」

石木と西堂と武藤は、男が落とした写真を集めだした。

「うわあ!!こ・・・これは、阿佐海岸鉄道阿佐東線の電車じゃないか!!それにこれは、土佐くろしお鉄道9640形気動車!!あああーー!!これは西鉄の急用8000形じゃないか!!しかも九州の路面電車まで!!」

西堂は鉄道の写真一枚一枚を見て、狂ったように喜んだ。

そして石木と武藤と西堂は写真を全て拾い集めて男に渡した。

「ありがとう、写真を集めてくれて。」

「ねえねえ、あんた撮り鉄だろ?」

西堂が男に尋ねると、男は頷いた。

「ああ。私は若竹わかたけというんだ。鹿児島から広島までの鉄道撮影の旅をしている。」

「すげえ、やっぱり電車のデザインがいいよな!!」

「あ、わかりますか?」

西堂はすっかり男と打ち解けている。

「そうだ、実は私の友達がもっといろんな鉄道の写真を持っているんだ。良かったら見に来ないか?」

「え!?本当!?」

「ああ、私は友達と来ていて友達は、私以上の撮り鉄なんだ。写真がたくさん保存されたパソコンを持っている、私が頼めば見せてくれるさ。」

「見たい見たい!!見せて!!」

西堂は完全に若竹の話に食いついている。

「ちょっと、みんなの許可をとらないとダメだよ!!」

武藤が西堂を引き止めようとした。

「そうだ、勝手にみんなから離れるのはまずい!!」

石木も引き止めようとした、しかし西堂には二人の忠告が聞こえていない。

「大丈夫ですよ、ここに連絡すればいつでも彼を帰します。」

若竹は連絡先の電話番号が書かれたメモを石木に渡した。

「ねえねえ、お願い!!三人に大丈夫って伝えて!!」

西堂は手を合わせて強くお願いした、石木と武藤は西堂の押しに負けて西堂を行かせることを認めた。

「それじゃあ、また連絡お願いします。」

「ヒャッホーーー!!楽しみだぜ!!」

西堂は若竹の後をスキップしながらついて行った。

「大丈夫かな、西堂くん・・・。」

武藤は石木の顔を見た、石木はとりあえず「大丈夫」と言った。








それから安室・島取・金山が風呂から上がった。

石木と武藤は西堂が離脱した一件を三人に説明した。

「バカ野郎!!何で引き止めなかったんだ!!」

安室は石木と武藤を怒鳴りつけると、頭を抱えた。

「どう考えても怪しいだろ、あいつらの罠にちがいない・・・。」

「え!?てことは、西堂君連れて行かれちゃったの!!」

武藤も顔が青ざめて頭を抱えた。

「そんな、てことは・・・。」

「ああ、その連絡先はダミーだ。電話をかけてみてくれ。」

石木は若竹から渡されたメモの連絡先に電話した、しかし誰も電話に出なかった。

「ほんとだ・・・。西堂が連れて行かれた・・・。」

「僕のせいだ・・・、ぼくのせいで西堂が連れていかれた・・・。」

石木と武藤は、罪悪感で心が潰されそうになった。それを見た安室と島取と金山は、責める言葉が出てこなかった。


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