ヒロト3
ヒロトはリーフレットを見ながら、ライブ会場を探したが、それらしき建物は見当たらない。
同じ道をぐるぐる巡っていると、突然、声を掛けられた。
「もしかして、テンカラのライブに行くのですか?」
顔を上げると、自分と同じくらいの年齢の小柄な男が立っていた。
「テンカラ?」
「トーキョー10カラット」
男はヒロトの持っているリーフレットを指差した。
ヒロトが頷くと、
「僕も今から行くので、一緒に行きますか?こちらですよ」
「あ、ありがとう」
おとなしい穏やかな感じの男だったので、何か安心感があった。
「では、行きましょうか」
ヒロトは男と並んで歩き始めた。
「テンカラのライブは初めてですよね?ビラを貰ったんだ」
「そうです。この前、学校の帰りに」
「どのグループの推しですか?」
「いや、アイドルのライブに行くのは今日が初めてなんです」
「へー、それは珍しいですね。普通、メジャーからこういう地下アイドルに流れてくる人が多いのですよ。僕もそうだし」
「そうなんですか」
「あ、名前を言っていなかったですね。北条タクミと言います。タクでもタクミでもいいです。君は?」
「あ、僕は小林ヒロトです。ヒロと読んでください」
「じゃあ、ヒロ君。推しはいますか?」
「ビラをくれた人しか見ていないので、よくわからないのです。が、サファイアがついた女の人がビラをくれました」
「あー、まい姐かあ。美人ですよね?会いにきたの?」
ヒロトは顔が赤くなるのを感じながら、頷いた。
彼女はメンバーで最年長だったので、姐さんと呼ばれているのだなと思った。
「うん、まあ。そのまい姐は人気あるのですか?」
「年に一回大感謝祭というのがあるんですね。えーっと、AKBでいう総選挙みたいなものだけど。分かりますか?」
「人気投票みたいなものですか?」
「そうそう。CDはメンバーごとのバージョンがあって、それがどれだけ売れたかで順位が決まるのだけど、去年はまい姐は3位だったな。でも、推しの人はかなり性格が濃いというか個性的な人が多いし、熱狂的なので、ライバルは手強いですよ」
そう言って、何か思い出したように微笑んだ。
「そうなんですか。1番人気は誰ですか?」
「それは僕の推しの、ピントリ……ピンクトルマリン茉友ちゃんだね。ちまちまとしていて、this is アイドルという感じで、可愛いよ。ほとんどの歌でセンターポジションだから、注目してくださいね」
「へー、そうなんですか。楽しみです」
「ここです」
そう言って、彼は公民館の中に入っていった。ヒロトが何度も通り過ぎた建物だった。
「ここに何があるのですか?」
「ここの3階がライブ会場だよ」
彼は当たり前のように言うと、エレベーターに乗り込んだ。
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