6月11日(日)曇り 明莉との日常その94

 今日はぎりぎり必要ない天気だった傘の日。

 日頃は自転車通学なので、大雨でもない限りは合羽の方がお世話になっている。


「ふわぁ……りょうちゃん、おはよー……」


 そんな今日は明莉がいつもより起きるのが少し遅かった。

 いや、用事がない日曜であれば昼前まで寝ていてもおかしくはないのだけど。


「おはよう。昨日は夜更かししてたのか」


「うん……ちょっと友達と電話してたら盛り上がっちゃって」


「へぇ。何時に寝たんだ?」


「4時前くらい……?」


「それは本当に大盛り上がりだな。でも、明莉達はゲームとか映画とか見てるわけじゃなくて、お喋りだけなんだろう? よく話す話題が尽きないな」


「それは日頃のうっぷんから浮いた話まで色々ありますから」


 そう言いながら明莉は少し悪い笑顔を浮かべる。

 会話の内容はあまり聞かない方がよさそうだ。


「というか、話すよりも長時間ゲームするの疲れない?」


「まぁ、確かに途中から惰性でやってる時もあるけど……そう考えると会話してる時間の方が長いか」


「男子同士だといったいどういう話題で盛り上がるの? クラスのマドンナの話?」


「今時マドンナなんて言葉使わないだろうに。僕の場合はだいたいゲームとかアニメの話だよ」


「良かった。ここでりょうちゃんが別の女の話をしたらチクらないといけなかった」


「なんで試されてるんだ」


「それはそれとして、本当にいないの? クラスで一番きれいだったり、可愛いかったりする女子」


「試されていない前提で言うけど……わからない」


「わからないって何?」


「いや、知り合いの女子以外の情報はさっぱり回ってこないから」


「……りょうちゃん。路おねえちゃんと付き合えて本当に良かったね」


「憐れむような言い方しないで」


「だって、文芸部での出会いがなかったら、りょうちゃんはゲームとアニメの話で満足する男子になってた可能性あるじゃん」


「べ、別に悪くないだろう。そういう男子も」


 明莉の発言で僕は大倉くんを思い浮かべてしまったので、思わずそう返してしまった。

 いや、これは思い浮かべた僕が悪いかもしれない。


「最近は恋愛至上主義でもないだから、別の好きなことに熱中できるのもいいことだと思う」


「まぁ、そうかもしれないけど……りょうちゃんの妹の立場としては、今の方向性の方が安心できるかなぁって」


「そ、そうか……」


「……なんて感じの話を長々としてたよ」


「再現だったのか!?」


「完全に同じ話題じゃないけど、似たような話でね。これ系の話題なら3時間以上は話せる自信ある……ふわぁ」


 明莉はそう言い残してようやく今日の活動を開始した。


 実際に明莉が自分の兄について彼女の有無を聞かれたかどうかわからないけど、いなかった時期は窮屈な思いをしたことがあったのかもしれない。

 明莉も文句を言いたかったわけじゃないんだろうけど……なかなか難しい問題だと思った。

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