6月9日(金)曇り 後輩との日常・姫宮青蘭の場合その17

 雨上がりの蒸し暑さがあったロックの日。

 本日の文芸部の自由時間も火曜から引き続き石渡さんとどうコミュニケーションを取るか考える時間になった。

 現2年生の時は全く悩まなかったことだけに、それらしい解決策がなかなか思い付かない。


「良助先輩」


「わっ!?」


 そんな悩み中の僕を未だに耳に馴染まない呼び方で姫宮さんが呼ぶ。


「話しかけただけで驚かれるのは少し傷付きます」


「ご、ごめん。ボーっとしてたからつい……」


「代わりに言葉の暴力で良助先輩を傷つけていいですか」


「できれば遠慮したいです……それで何か用?」


「用がないと話しかけてはいけない感じにされるのは少し傷付きます」


 ああ言えばこう言う姫宮さんとの会話はいつも通り難しい。

 しかし、こんな姫宮さんでも入部当初からわりと話してくれる方だったので、今のような悩みを抱えることはなかった。


「ご、ごめん。じゃあ、一回だけ言葉の暴力を甘んじて受け入れよう」


「ドM」


「そうきたか……」


「というのは冗談でボーっとしていた理由を聞きたかっただけです」


「うーん……それがね――」


 このまま1人で考えても埒が明かないと思った僕は、姫宮さんに石渡さんのことを説明する。


「なるほど。確かに私も石渡沙綾さんとはあまり話せていません。今のは距離間をわかってもらうための敢えてのフルネームです」


「わざわざ解説ありがとう。じゃあ、本当に話せてるのは路ちゃんや結香さんだけなのか」


「良助先輩でも嫌われることがあるんですね」


「き、嫌われてるまでは行ってないと思いたいけど……姫宮さんは入部当初の僕の印象ってどんな感じだった?」


「当時話したようにも思いますがわりと親しみを持てました。それまであまり男子と話さない人生を送ってきた中では珍しいことです」


「あー、聞いた気がする。そこから慣れていった感じか」


「はい。男子の中だと良助先輩が一番好きです」


「へー……うん?」


「ナンバーワンです」


 姫宮さんはいつもと変わらぬ表情でそう言ってくる。

 思っていた以上の高評価に驚いたけど……これは桐山くんに聞かせられない。


「ありがとう。そこまで言って貰えると光栄だよ」


「良助先輩は女子の中だと何番目に好きですか?」


「な、なにが?」


「私のことです」


「…………」


 続けて出た言葉に僕はぽかんとしてしまう。

 受け取り方によってはなかなか危険な質問をされているような気がするけど……


「な、何番目とかはないよ。楽しい後輩の1人」


「順番が付けらないほど女子をはべらせていると」


「違う違う」


「でも――一番は路子先輩なんですよね」


「それは……うん」


「お熱いですね。ひゅーひゅー」


「な、なんか珍しいね、姫宮さんがそういう弄り方するの」


「そうですか――珍しい日もあるってことです」


 結局、姫宮さんからヒントを得ることはできなかったし……姫宮さんと不思議な会話をしてしまった。

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