5月29日(月)雨 岸本路子と産賀良助その5

 本当に梅雨入りしたこんにゃくの日。

 けれども、それほど悪い気分ではなく、昨日買った本にカバーをかけて学校に持って行った。


「良助くんも持って来たんだ。じゃあ……塾の時間まで図書室で読んでいくのはどう?」


 放課後、路ちゃんにそのことを話すと同じように持ってきていたようで、僕らは図書室に向かう。

 しかし、図書室の扉を開けた時に僕と路ちゃんは一時停止する。


「あっ……石渡さんだ」


「本当だ。石わ――」


「ちょ、ちょっと待って」


「な、なに?」


「いや……石渡さんって、僕らが付き合ってるの……言った?」


「……言ってない」


 そう言うと路ちゃんはようやく事態に気付いてくれた。

 1年生達が2ヶ月近く経つけど、未だにこの話題は出していない。

 

「……良助くんは、このまま言わない方がいいと思う?」


「いや、そこまでじゃないんだけど……逆に言うタイミングがないのも確かで」


「そう……だよね。あんまり部活内でそういう雰囲気は出さない方がいいとは思っているけれど、こんな風に行動が制限されるのもちょっと窮屈だから何とも……」


「い、いっそのこと、察してもらう……とか?」


「ええっ?」


「きょ、今日の雰囲気で察してもらえればこっちからも言いやすいかなーと」


「……じゃ、じゃあ、それで」


 路ちゃんは微妙に納得していなさそうだったけど、頷いてくれた。

 いや、実際言った僕も作戦としては微妙だと思っている。

 でも…物は試しという奴だ。


「あっ、路子さん……と産賀さん、お疲れ様です」


「お疲れ様、石渡さん」


「今日は……おふたりで来られたんですか?」


「う、うん。わたし達は同じクラスだし……ねぇ?」


「う、うん。そういう感じで……」


「そういえばそうでしたね。じゃあ、偶然会った感じなんですか?」


「え、ええっと……一応、一緒に行こうってなったの」


「へー、そうなんですね」


 けれども、僕と路ちゃんは基本的にコミュ力にやや不安があるので、会話はかなり不自然になる。

 ただ、ここから違和感を覚えてくれれば……


「それで一緒に何をするんですか?」


「買って来た本を読もうと思って」


「買って来た……おふたりで、ですか?」


「う、うん」


「それは……凄く文芸部らしくていいですね」


「…………」


「…………」


「あれ? 何かありました?」


「う、ううん。何でもない」


「それじゃあ、石渡さんもごゆっくり……」


 石渡さんは少しきょとんとしていたけど、これ以上絡んでも迷惑がかかりそうだったので、僕と路ちゃんは撤収した。


「……まぁ、そう簡単には察してもらえないか」


「でも……わたしはちょっとだけ楽しいかも」


「えっ?」


「な、なんだか秘密にするのが楽しくて……」


 そう言っていい顔をされると否定しづらくなってしまうけど、結局付き合っていることを話すタイミングは逃してしまった。

 いつかはバレるとは思っていたけど、この期間で察せられていない時点で言わなければずっとバレないのかもしれない。

 隠し通せると喜ぶべきか、全くそう見られていないと悲しむべきか……

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