3月1日(水)曇り 奮起する大山亜里沙その7

 3月初日の水曜日。

 場所によっては今日が卒業式のところもあるらしい……という話を去年も書いた気がする。

 ただ、2年生以下は明日から学期末テストなので、まだ3年生に思いをはせるには早かった。


「3人とも今回のテスト、アタシと勝負しない?」


 そんな中、本日の塾での休憩時間。大山さんから久しぶりの提案を受ける。

 今回は3人同時とかなり広範囲だから気合が入っているのか……と僕は思っていたけど、路ちゃんと重森さんはぽかんとした表情になっていた。


「あれ? そんなに乗り気じゃない……?」


「いや、亜里沙が唐突だったから。みーちゃんはテストで勝負したことあるの?」


「ううん……良助くんは?」


「え、えっと……あります。1年生の時の話だけど」


「へぇ、だから驚いてなかったんだ」


「てっきりみんなに仕掛けてるものかと……」


「まぁ、亜里沙はどっちかというと好戦的だと思うけど、私と話してる時はあんまり頭の良さを見せないから」


「さらっとディスられた気がするんですケド」


「いやいや。亜里沙が賢い方なのわかってるから」


「それで……勝負に勝ったらどうなるの?」


 そう聞いた路ちゃんの目線は僕の方に向けられていた気がした。

 大山さんと勝負していた話は……した覚えがない。話題にするようなタイミングがなかったというのが正しいけど。


「何かおごるとかそんなカンジ」


「じゃあ、良助くんも……」


「うん。ドーナツとかおごって貰った。まぁ、結局2・3回しかやってないんだケドね」


「それならどうして唐突に? また気合入れるため?」


「そうそう。みんなはどうかわからないケド、アタシ的にはモチベーション上がるから」


「だったらもっと早く言えば良かったのに。まさか勝てる自信があるから挑んで……」


「違う違う。単に巻き込むのはどうかと思ってただけ。ミチはどう? 受けてくれる?」


「……別にいいけれど、今回は4人でやるなら、負けたら3人分?」


「うーん……それはなんか違う気がするから、1位の人が3人におごられるカンジにしない?」


「そこは亜里沙が決めればいいでしょ」


「じゃあ、そういうしよう! あっ、うぶクンもいいよね?」


 相槌を打つ暇がなかった僕はようやくそこで話に混ざれた。

 この2年生の終わり際に大山さんは元に戻ったというか、本来の大山さんらしくなっているような気がする。

 以前に言っていた燻りがようやく晴れてきた証拠なんだろうか。


「……良助くん」


「は、はい!」


「……後で亜里沙ちゃんにおごった話、詳しく聞かせて」


「わ、わかった。覚えている範囲で」


 僕がそう言うと、路ちゃんは若干不服そうな顔になっていた。

 たぶん、日記を辿れば詳しい記憶を思い出せるだろうけど……特段話すようなことはなかったはずだ。

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