9月14日(水)晴れ 伊月茉奈との日常その6
また台風が発生したとニュースで見た水曜日。
体育祭の練習と授業は滞りなく終わり、放課後になった。
塾まで時間があるから一旦家に帰るけど、気持ち的には塾が終わらないと何だか落ち着かない。
これは性格的なところもあるけど、帰ってからも塾の時間ばかりを気にしてしまうので、どうにか慣れたいものである。
「お疲れ様です、産賀さん」
そんな帰り際に僕は伊月さんと遭遇する。
部活で会うからよく顔を合わせているけど、放課後に出会うのは珍しかった。
「お疲れ様、伊月さん。今日はもう帰り?」
「はい。産賀さんもですか?」
「うん。塾があるんだけど、時間が空くから一旦帰ろうと思って」
「あー、例の……あれ? 路さんと一緒に行ってるわけじゃないんですね」
「同じ塾だけど、2人とも一旦家に帰ってるから」
「そうなんですか……あっ、立ち話してすみません。帰りましょうか」
伊月さんはそう言いながら自然に帰えるようにしてくれる。
別に遠慮していたわけじゃないけど、気遣われてしまった感じだ。
伊月さんは親しくなった後も僕のことはしっかり先輩扱いしてくれる貴重な存在だ。
だから、伊月さんと個人的に話す時は何だか僕も畏まって真面目な話をしてしまう。
「伊月さんは塾に通う予定はあったりするの?」
「うーん……今のところは考えていませんでした。でも、水原さんや産賀さんの話を聞くと、勉強量は増やすべきなんだろうなと思います」
「へぇー 僕は流れで行き始めたようなものだから、そこまで考えてるのは凄いと思うよ」
「いえ、ふんわりと思ってるだけなので。それよりも浩太くんも流れに乗って勉強してくれるといいんですけど……何とかならないでしょうか?」
「それは……難しいね。というか、伊月さんは松永の学力に関しては本当に信頼してないんだね……」
「だって、浩太くんは毎回ギリギリな感じだから……あっ、すみません。愚痴みたいになっちゃって」
「全然。伊月さんから松永のそういう話は久しぶりに聞いた気がするよ。それだけ最近の松永がいい感じで……」
「あります。言いたいことは色々」
伊月さんは力強く言う。
「つい先日の話なんですけど、浩太くんが……」
それを合図に伊月さんから最近の松永のあれこれを聞かされることになった。
帰り道が別れるところに着くと、今度は伊月さんが足を止めて話しだしたので、帰り始めた時とえらい違いだ。
でも、普段は真面目寄りの伊月さんのこういう一面も見ると、何だか微笑ましくなるというか、親しみを感じやすくなると思った。
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